⑲見覚えのある部屋
⑲見覚えのある部屋
迷わず右の道を選んだ二人であったが、自信があるわけではなかった。とはいえ、左の道を選択する気はさらさらなく、良くても悪くても選択肢は一つしかないのであった。
「そろそろかな」
「ええ。頂上付近まで来ているはずよ」
あたりは暗闇に包まれており遠くまでは見通せないが、まもなく頂上に着くはずである。二人はそう信じていた。
「やっかいなことに、霧がでてきやがった」
「見てっ、幸四郎。頂上よ」
二人の眼前に頂上が見えてきた。
「急ぐぞ、春菜。霧がどんどん深くなってきた」
「そうね。前来た時に避難した小屋はどこかしら」
「確かこちらの方だったぞ。あっ」
「どうしたの、幸四郎。やだ、うそ」
避難しようとしていた小屋の方角に、小屋は3軒建っていた。
「春菜、もう一度心の目で見てくれないか」
「それがおかしいの」
「どうおかしいんだい」
「3つとも光っているのよ」
「3つともだって」
「ええ。幸四郎も、目を閉じてみて」
「どれどれ」
幸四郎も目を閉じてみた。
「本当だ。どれも光っているな」
「でしょ。どれが本物かしら」
「やばいぞ、雨がふってきやがった」
「どうしよう。博士、助けて!」
■ □■□■ よく見ろ ■□■□■
「あれ」
「聞こえたわよね」
「ああ、よく見ろって」
「これ以上、何を見ろって言うの」
じっくり考えている暇はない。しばらくの静寂の後、幸四郎の顔に微笑みが浮かんだ。何かひらめいたようである。
「そうか、右だ。春菜、一番右の小屋に入るぞ」
「わかったわ。そうしましょう」
春菜に理由はわからなかったが、こうなれば死なばもろともである。二人は、一番右の小屋に入った。
「どうやら…」
「当たりのようね」
二人が入った小屋は、明らかに見覚えのある部屋であった。
「問題はここからだな」
「ええ。選択肢がどんどん広がっていくわ。それにしても、よくわかったわね。一番右が正解だって」
「ああ。どこからともなく、よく見ろって聞こえただろ」
「確かに聞こえたわね」
「3軒の小屋をよく見たら、雨をはじいている屋根が一つだけあったんだ」
「そうだったの。残りの二つは幻というわけね」
「そうさ。しかし、どんどん手がこんできたな」
「そうね。まるで、試されているみたい」
「そう。おそらく、奴らは俺たちを試しているんだ」
「そうかもしれないわね。やだ、光ったわよ」
「俺の封筒もだ」
次なる試練へのメッセージ。メッセージの謎をすべて解き明かした時、彼らは正式にメッセンジャーとして認められるのだろう。
「もしかしたら、幸四郎がライターを落としたのも偶然じゃないのかもしれないわね」
「俺も、そんな気がしてきた。再びこの小屋へ訪れたのも、すべては計算されたものかもしれないな」
「とにかく、封筒の中身をみてみましょう」
「そうだな。何をすれば良いかがわかりそうだ」
二人の行動は、何者かによって計算されている。今までのところ、計算どおりに事がすすんでいるようだ。しかし、二人はその計算されたシナリオに反抗しようとは思っていない。ただ、純粋にその謎を知りたいという好奇心が、二人の行動の原動力なのであった。