⑰5通めの手紙
⑰5通めの手紙
「幸四郎、大変!」
「こんなときにかよ」
「私も見ましたよ。確かに光りましたね」
「春菜、見てみろよ」
「ええと、待ってよ。
*** あせってはならぬ 己を信じること、人を信じること ***
あせっちゃいけないのね。それに自分を信じなさいか。何を信じるのかなあ。人も信じなさいって、これじゃあ皆信じなくちゃいけないわね。幸四郎の方は?」
「*** 信じるべき人を見極めよ 信じるべき事を見極めよ ***
やっぱり、俺たちのメッセージは対になっているようだな。信じるべき人は、今のところ博士と教授だよな。信じるべき事ってのは何だろう。博士、何か心あたりある」
「それを、きみたちで見極めろってことなんだろうね。僕が今できることは、幸四郎くんがライターを落としたであろう場所への行き方を教えてあげるぐらいのことしかできないな」
「そうだよな。今はライターを取り戻すのが先決だ。万が一、恐竜時代の人がライターを持ち帰りでもしたら大変だ」
「そうよね。歴史が変わってしまうわね」
「おいおい、きみたち。恐竜時代には人類はまだ誕生していないよ」
「あはは、さすが博士。とにかく、ライターを探しにいかなくちゃならないことは確かだ」
「そうよね。どうやって行けばいいの、博士」
「先ほどと同じ道順で行けば、同じところにたどり着けるはずさ」
「また、頂上まで登るのかよ」
幸四郎はすっとんきょうな声を上げた。
「どうしよう、幸四郎。真夜中になっちゃうわね」
春菜も困惑気味である。
「今日、行くかどうかはきみたちしだいさ」
博士は二人に諭すように言った。
「春菜。今日はもう遅いから、おまえは帰りな」
ここで、幸四郎はある決断をしたのであった。
「幸四郎はどうするのよ」
「俺は博士にちょっと話があるんだ。話が終わったらすぐ帰るから、春菜さきに帰ってな」
「そう、わかったわ。もう暗くなってきたし、じゃあ、私さきに帰るわよ」
春菜も何かを感じたらしく、いつになくおとなしく幸四郎の言葉に従った。
「帰っちゃったね、幸四郎くん。これで、良かったのかい」
「ああ。元はと言えば、ライターを落としたのは俺だ。こんな時間から、女の子を連れ回すわけにもいかないだろう」
幸四郎は春菜のことを思い、自分一人でライターを探しに行こうと決意したのであった。
「きみって、いい奴かもしれないね」
「何言ってんだよ。そんなんじゃないよ。足手まといになるといけないと思っただけさ」
幸四郎は、博士の言葉を何故かあわてて取り消した。
「まあ、いいよ。いずれにせよ、幸四郎くんは今から行くんだね」
「もちろんさ」
「いい選択だ」
「ありがとう。博士に賛同してもらえると、何だか自信が湧いてくるよ」
「己を信じることだね」
「じゃあ、さっそく出かけるよ」
「気をつけてね」
幸四郎は、一人博士の家を出た。頂上へ向い歩き出そうとしたその時である。
「ジャッ、ジャーン」
「おい、春菜。おまえ、帰ったんじゃないのか」
「どうせ、こんなことだろうと思ったのよ。私を置いて、一人で行く気だったんでしょ」
「それはそのう…」
「さあ、行くわよ幸四郎」
「おまえ、両親が心配するぞ」
「今日は友達んちで、泊まりで宿題を片付けるって連絡しておいたわ。幸四郎こそ大丈夫なの」
「いけねえ。何の連絡もしてないや」
「安心して。宿題をやる仲間に幸四郎も入れておいてあげたわ。幸四郎のお母さんにも電話しておいてあげたんだから」
「用意がいいな」
「これなら、私を置いていくわけにはいかないでしょ」
「春菜には、かなわないなあ」
「信じるべき人を見極めただけよ」
春菜は小声でつぶやいた。
「確か一本道だったよな」
幸四郎は頂上を眺めており、春菜の声には気付かなかった。
こうして二人は暗闇の中、再び頂上を目指し出発するのであった。