⑯博士との再会
⑯博士との再会
『困ったことがあれば、うちに来てくれ。場所はもう知っているよね。おおかた、幸四郎くんが何かを落としたか忘れたかしてしまったのではないかな。見るからにそそっかしそうだったからね。そうではないことを祈るが、まあ、いつでも来てくれたまえ。大歓迎する』
春菜は博士からのメールを読み上げた。
「ほら。博士も、そそっかしいのは幸四郎の方だって言ってるじゃない」
「そんなことより、今は戻るのが先決だ。教授、ここから博士のうちにはどうやっていくんですか」
「もうすぐ暗くなる。山越えは危険だな。今日は、私が車できみたちの家まで送っていこう。かけるに会うのは明日にした方がいいよ」
「そうしましょう、幸四郎」
「そうだな。あせっても仕方がない。ゆっくり、対策を考える必要がありそうだ」
こうして、春菜と幸四郎は教授の車で自宅の近くまで送ってもらった。
「教授、ありがとうございます。ここまで来れば歩いて帰れます」
「いいのかい。家の前まで送ってあげるよ」
「ああ、大丈夫です。本当にありがとうございました」
あたりは薄暗くなっており、もうすぐ夕飯の時間だ。
「じゃあ、気をつけてね。発掘現場にもまた来てくれないかな。きみたちは、貴重な研究の対象なんだから」
「わかりました。明日にでも、また伺います」
二人は教授の車を降りた。
「さて、春菜。これからどうする?」
「どうするって、家に帰るんじゃないの」
「おまえ、自転車どうした」
「いけない。秘密基地に置いたままよ」
「だろ。つまり、俺たちは秘密基地にもう一度行くしかないってことだな」
「そのようね」
春菜の自転車を取りに、二人は秘密基地に向った。
「ねえ、幸四郎」
「なんだい」
「どうして教授に秘密基地まで送ってもらわなかったの」
「もうすぐ夜になるんだぞ。心配するじゃないか。だって、俺たちはこれから博士のうちに行くんだぜ」
「そうか。このまますんなり家に帰るような幸四郎じゃないと思ってたわ」
春菜の顔はいたずらっぽく輝いた。どうやら、こんな時間から博士のうちに行くことに異存はないようだ。
ようやく、二人は秘密基地に着いた。
「真っ暗になっちゃったわね、幸四郎」
「ああ、止めるか」
「わけないでしょ」
「だよな」
その時である。
「やだ、こんな時に」
「こっちもだ」
二人の封筒は、またしても光ったのである。
「まずは中に入ろうぜ」
「そうね」
二人は秘密基地の中に入った。
「だめだ、春菜」
「どうしたのよ」
「ライターがないから、ローソクに火が灯せない」
「そうか。そそっかしい幸四郎はライターを落っことしちゃったものね。それを探しに行こうとしていたのよね」
「おい、春菜」
「何よ」
「そそっかしいは、余分だろ」
「とにかく、こらじゃあ手紙も読めないわね。行っちゃいますか」
「ああ。いざ、博士のもとへ」
すっかり暗くなった裏山を、二人は再び登り始めたのであった。暗闇の中の裏山は、いつもと景色が違って空には満天の星が輝いていた。
「ねえ、幸四郎。星ってこんなにあったっけ」
「ああ、すごいな。あれが北極星だろ」
「そうね。カシオペア座のWを伸ばしたところにあるのよね」
「おまえ、何座だ」
「私はおとめ座よ。幸四郎は」
「俺はさそり座」
星座にあまり詳しくない二人は、それ以上の会話が続かなかった。
「見て、幸四郎。明かりが見える」
「きっと、博士のうちだ」
ようやく二人は、博士のうちにたどり着くことができた。長いような短いような時間であった。
「博士いるー」
いきなり春菜は大声を出した。
「やあ、きみたち。やっぱり、来たんだね」
「やっぱりって、俺たちが今日くることもお見通しだったってことかい」
「そうだよ。予測より3分遅れだ。きっと、きれいな夜空にでも見とれていたのだろう」
図星であった。
「あいかわらず、すごいわね、博士。じゃあ、何でこんな時間に訪ねてきたのかもわかるかしら」
「落としちゃったんだろうね、何かを。しかも、文明の利器だろうな。とはいえ、学校帰りのきみたちが特別なものを持っていたとは思えない。しかし、ボールペン1本でも立派な文明だ。たいしたものではないが、過去の世界にあっては不都合なものを落としてしまったんだろう。前回きみたちが来た時のことを思い出してみようか。手紙はさすがに落とさないだろうし、そう言えば1通目の手紙はあぶり出しになっていたね。かすかにロウの匂いもしていたから、ローソクを使ってあぶり出したんだろう。ということは、火をつけるものが必要だ。マッチかライターだろうな。今どきマッチは持っていないか。ってことは、落し物は100円ライターといったところかな」
「すごいな、博士。それでこそ、来た甲斐があるというものだ」
「そうね。だから、私たちライターを取り戻しに行かなければならないの。どうやったら、行けるかしら」
「そんなことなら、簡単さ。きみたちならね」
博士は、分厚い眼鏡を光らせ微笑むのだった。