⑫生還
⑫生還
通路の中は暗かった。なおも進んでいくと、ぼんやりと光が見えてきた。
「おい、春菜。どこかに出れそうだぞ」
「ほんとだ。薄日がもれている」
二人は光のもれている方向へ走った。走らないと、その光が消えてしまいそうな気がしたからだ。
「やった。どうやら出口だ」
「行きましょう、幸四郎」
全力で走った。光はどんどん近づいてくる。もう少しで届きそうになったときである。
「やばい。春菜止まれ」
「何よ、急に」
「ああ、ばか。落ちる」
「いやー。助けてー」
二人は出口寸前のところで、またしても穴の中へ転げ落ちていった。
「いててて。おい、春菜。大丈夫か」
「ええ。何とか無事みたい。それより、ここはどこ。私たちどこから落ちてきたのかしら」
二人が砂まみれになっているところへ、一人の男が現れた。
「やあ、きみたち。こんなところで、何をしているんだい」
その男の顔は、どこかで見たような気がした。
「あなたこそ、こんなところで何をしているんですか」
「ああ。驚かせてすまんね。私は考古学者の土岐というものだ。怪しい者ではないから安心してくれたまえ」
「ねえ、幸四郎。土岐だって」
「そうか。博士のお父さんだ」
「うちの息子を知っているのかい」
「ええ。今日、同じクラスになったばかりなの」
「ああ、クラスメイトか。それは良かった」
「ねえ、おじさん。ここは、もしかすると発掘現場?」
「そうだよ。きみたちの通っている学校の裏山にあるんだ」
「幸四郎、聞いた」
「ああ、裏山だ。俺たちは戻ることができたんだ。ばんざーい」
「やったー。これで、帰れるわ」
小躍りして喜んでいる二人に、教授は質問をした。
「ところで、きみたちここへどうやって来たの」
「どうやってって、こっちの方から転げ落ちてきたんだけど」
「こっちから?」
「そうだよ。なあ、春菜」
と指差す方向を見ると、そこには発掘中の穴が掘ってあった。
「本当にここから?」
「ええ、そうよ。この穴の中からよ」
春菜はそう言うと、穴の中を覗き込んだ。
「ほら、こっちの…」
「おい。どうしたんだ、春菜」
「ない」
「ないって、何がないんだ」
「この穴、すぐそこまでしかない」
「何だって。そんなことはないだろう。見せてみな」
幸四郎も覗き込んだ。
「…」
「そうか。きみたちはどうやら不思議な体験をしてきたようだね。良かったら、私に聞かせてくれないか。お役に立てるかもしれないよ」
「どうする、幸四郎」
「どうもこうもないさ。博士のお父さんなら信用できるというもんだ。それに、この不思議な体験を解明してくれるかもしれない」
「そうね。協力者その2ね」
「はっはっは。その2ってことは、その1がいるんだね」
「はい。息子さんがその1なんです」
「ほほう。詳しく話してくれないか」
「じゃあ、私から」
春菜は、今朝からの出来事をすべて話したのだった。