①怪しく光る封筒
何気ない高校生の朝の風景。春菜と幸四郎は目覚めたときにある封筒を発見する。それはどこから送られてきたのか。何のために送られてきたのだろうか。
① 怪しく光る封筒
「ああ、眠い。いやだ、もう7時じゃない。今日も遅刻しちゃうわ」
春菜は高校一年生。早起きがちょっぴり苦手な女の子である。
「あら。これ、何かしら」
目覚まし時計の横には、見慣れない封筒が置いてある。
「昨日までは、確かこんなものなかったわよね」
春菜は、その封筒に見覚えがなかった。
「そんなことより、早く着替えなくちゃ」
一通の封筒を気にしている余裕はなかった。あわてて着替えて部屋を出ようとした時である。
「いやだ。この封筒、今光らなかった?」
確かめようもないが、その封筒が一瞬光ったように見えた。
「ちょっと気になるなあ。でも、時間がないし。ええい、学校へ持って行っちゃえ」
春菜は封筒をかばんに押し込み、家を出たのである。
「幸四郎、遅れるわよ。起きたのー」
母親の声で幸四郎は目が覚めた。
「うわっ。やっべー。7時半かよ。遅刻、遅刻。あれっ」
幸四郎の枕元には、見慣れない封筒が置いてあった。
「何だろう。こんなもの、昨日はなかったけどな」
幸四郎は高校一年生。早起きが大の苦手な男の子である。
「ご飯よー」
「ごめん、母さん。ご飯いらない。さあ、早く学校へ行かなくちゃ。えっ」
部屋を出ようとした幸四郎の瞳に、一瞬怪しい輝きが映った。
「あれっ。今、こいつ光らなかったか」
光源には、一通の封筒があるばかり。
「変だなあ。まあ、いいか。時間もないし、暇な授業の時にでも見てみよう」
幸四郎は封筒をポケットに押し込み、家を出た。
「はあ、はあ。春菜、おはよう」
自転車をこぎながら必死な形相をしている春菜に、これまた死に物狂いで全力疾走をしている幸四郎が声をかけた。
「なあに、今日も幸四郎と同じ時間なの。遅刻決定じゃない」
春菜は自転車をこぐ力を弱めた。
「俺もがっかりだよ。ここで春菜に出会って、間に合ったためしはないからな」
幸四郎も走るのを止めた。
「ねえ、幸四郎。5分の遅刻も1時間の遅刻も同じじゃない」
「そうだな。どうせ間に合わないなら、ちょっとオサボリしていくか」
「さんせーい」
二人は幼いころからの友達である。特別仲が良いというわけでもないが、男まさりの春菜にとってはいわゆるイタズラ仲間という奴で、子どものころから同じ町内であることもあり、悪いことをするときにはたいてい幸四郎と一緒であった。
「じゃあ、秘密基地に行くか」
「ああ、あのボロ小屋ね」
秘密基地は、裏山にある材木置き場にある。昔は、大工さんたちの材料の保管場所として使われていたが、大工さんも一人減り二人減り、今では一人もいなくなってしまった。使えそうな材木はあらかた処分されてしまい、そこには割れた瓦や中途半端な材木の切れ端が置いてあるだけだ。
幸四郎の父親も大工の棟梁であったが、ここ数年の不況がたたり、去年から東京へ出稼ぎに行っている。もともと、この材木置き場は幸四郎の父が使っていたもので、昨年からは幸四郎が好き勝手に使っているのだ。割れた瓦や材木の切れ端をどうにかこうにかつなぎ合わせ、何とか雨風だけは凌げる高床式倉庫のような建物が、幸四郎自慢の秘密基地である。
「あのなあ。あれでも、苦労して作ったんだぞ」
「はい、はい。まあ、この時間じゃブラブラ歩いていても補導されかねないし、隠れ家としては良いわね」
悪いことをするときは直ぐに意気投合する。そんな二人であった。