「先っぽだけだから」とおっしゃったのに
庭に青い芝生が広がる大きな屋敷。威厳はあるが飾り気はなく、これだけで住む人間の性質を雄弁に感じ取れる。侯爵家ラドレス家の邸宅である。
その屋敷内のキッチンに、貴族令嬢と令息のカップルがいた。
令嬢はサレナ・クラーレ。ウェーブのある青みがかった黒髪、深海のような碧眼が特徴的な子爵家の長女である。白いドレスを纏ったその姿は神秘的な雰囲気に満ちており、これは彼女が“聖女”の末裔であることと無関係ではないだろう。
令息はフェルナン・ラドレス。きりりとまとめ上げた金髪、上品なヘーゼルの瞳を持ち、長身で、シャツとスラックスの私服姿でも貴族としての貫禄が漂っている。
さて、二人が何をしているのかというと、フェルナンは婚約者であるサレナを招き、エプロンまでつけて、料理を作っていた。
キッチンにはテーブル席もあり、サレナはそこで料理をするフェルナンを見守っている。
ところが、材料は少し変わっていた。
フェルナンがまな板で切っているのは――なんと蛇であった。
「本当に美味しいんですか? 蛇って……」
サレナは不安げな表情で尋ねる。
「美味しいんだよ。タンパク質も豊富だし、騎士として行軍してた時は蛇に何度も助けられたものさ」
ラドレス家は騎士の家系という側面も持つ。
その訓練は非常に厳しく、たとえ一族の嫡男であっても他の騎士と共に「三日間不眠不休・密林や砂漠を横断・食料は全て現地調達」のような過酷な試練を課される。
だが、その甲斐もあってラドレス家が抱える騎士団は大陸最強の騎士団と称されており、王国防衛の要を担っている。
ゆえに、普通の貴族では絶対に口にしない蛇でさえ、彼にとってはご馳走である。
「でもやっぱり蛇を食べるというのは抵抗がありますね……」
不安を口にするサレナに、フェルナンは笑顔を向ける。
「大丈夫、君に出すのは尻尾の先っぽだけにするから。先っぽだけだから」
「それぐらいなら食べられるかもしれませんね」
まもなく蛇が焼き上がり、調味料で味付けされ、サレナに皿が出される。
ところが――
「これ……お腹の部分じゃないですか?」
「うん、そこが一番美味しいからね」
「先っぽだけだから、とおっしゃったのに!」
サレナは頬を膨らませる。
「そんな君も綺麗だよ」
あからさまにキザな口説き文句を告げるフェルナンに、サレナは頬を赤らめる。
「……な、何をおっしゃるのですか、フェルナン様! あなたらしくもない!」
嬉しさ半分照れ半分でサレナが睨みつけると、フェルナンもうろたえていた。
「あ、いや……本当に綺麗だと思ったから……」
「慣れないことをなさるからですよ。嬉しかったですけどね」
「う、うん……これから徐々に慣れていかなければならないな」
大陸屈指の騎士も、恋愛という戦場ではまだまだ新兵に過ぎなかった。
気を取り直して、サレナは皿に目を向ける。
「では、食べてみますね。いただきます!」
サレナはナイフとフォークで、味付けがなされた蛇の腹部を頬張る。
こうなると覚悟を決めたようで、丸呑みするようなことはせず、丁寧に咀嚼する。
すると――
「……美味しい!」
目を見開くほどの美味だった。
「だろう?」
フェルナンも得意げな顔をする。
サレナは一口、また一口と蛇を食べ、あっさり完食してしまった。
そして、申し訳なさそうに皿を差し出す。
「もしお代わりがあれば……欲しいんですけど……」
「もちろんいいよ!」
フェルナンは嬉しそうに笑う。
「そうだ、せっかくだから野菜で味と彩りを加えようか」
フェルナンは懐やポケットから、トマト、きゅうり、ブロッコリーなどの野菜を取り出した。
「なんで服から野菜が出てくるんですか!?」
「趣味で家庭菜園をやっていてね。あとは訓練の時に食べ物の大切さを嫌というほど味わったから、食料を常に服のどこかに忍ばせておくってクセがついてて……」
「ふふっ、フェルナン様ったら……。じゃあ私が野菜を切りますよ」
「おっ、君の包丁捌き、期待してるよ!」
婚約者同士、二人は実に幸せそうに振る舞う。
しかし、少し前までのサレナはまさに人生のどん底にあった。
なにしろ、彼女には婚約を“破棄”された過去があるのだから――
***
「サレナ、お前との婚約は破棄させてもらう」
華やかな夜会の場で、彼女にこう言い放ったのはディリオ・ダフトという青年だった。
伯爵家の令息で、色の濃い赤髪を整髪料でビシッと固め、眉が太く鼻も高い、居丈高な内面を隠さない強気な顔立ちをしている。
サレナが呆然としつつ理由を問うと、ディリオはフンと鼻を鳴らす。
「聖女の末裔で癒す力を持つというから、金になるかと思いきや……治せるのはせいぜいかすり傷程度だとォ!? ハッ、そんな女と結婚したところで、コイン一枚にもなりゃしねえ! 俺は金にならないことはしない主義なんだよ!」
ダフト家は商人上がりの家系であり、ディリオもまた徹底した拝金主義で、損得勘定で動く男として有名だった。金になる者には優しく、金にならない者は冷たくあしらう、を分かりやすく行っていた。
そして、王国にはいかなる疫病や負傷も快癒させたという聖女の伝説があり、クラーレ家はその末裔。サレナは聖女としての力を宿していることが公的に証明されていた。
ディリオからすれば、サレナはどんな重病でも大怪我でも治せる女だと踏んで、即婚約を申し込んだのだが、実態は程遠いことを知り、失望したのである。
「でもディリオ様は私を愛して下さると……!」
「ああ、愛してたよ。お前の能力の実態を知るまではな。だが、せいぜいそこらの薬草レベルの力しか持ってないなら用はない。今すぐ消えろ!」
「……!」
指を突きつけられ、面と向かって「消えろ」とまで言われた。
悔しいし悲しいが、サレナは目の前のこの男を心変わりさせるような材料は何一つ持っていなかった。
ただ一つできることは、むやみにわめくことなく、毅然とこの場を立ち去ることのみ。
「……分かりました。消えさせて頂きます」
サレナは頭を下げると、踵を返した。
背後からディリオの嘲笑が聞こえてくるが、サレナはまっすぐ出口の扉に向かって歩いた。
それが聖女の末裔としてのせめてものプライド――そう、心に抱いて。
しばらく、サレナは食事もろくに喉を通らなかった。
しかし、婚約破棄をされたサレナを、父母も弟妹たちも優しく励ましてくれた。
そのおかげで「いつまでも落ち込んでるわけにはいかない」と自分を奮起させることができた。
そんなある日、サレナはカフェで紅茶を嗜んでいた。
店内にパリン、という音が響く。
新米のウェイトレスがガラスのコップを割ってしまい、あたふたする中、一人の青年がそれを手伝おうとしている。
だが――
「いてっ! やっぱり手袋をしないのはまずかったか……」
青年はガラスで指を切ってしまったようだ。
だが、あの程度なら、自分の能力で治せる。
サレナはそこに近づき、まずはうろたえているウェイトレスに優しく声をかける。
「大丈夫よ、ミスは誰にでもあるんだから。それより、そこからすぐ立ち直れるかどうかの方が大事よ」
まるで自分に言い聞かせるような励ましであった。
ウェイトレスはうなずき返すと、掃除用具を持ってくるためにキッチンへ向かう。
サレナは青年を見る。
「大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと指を切っただけだから」
青年の右手人差し指から赤い血が滲んでいる。
「これぐらいなら、私が治せますよ」
「え?」
サレナはその指をそっと握り、念を込める。その手がぼんやりと光り、手を離すと、傷は完治していた。
「……凄い! どうやったんだい?」
「私、癒しの力を持っていまして……。今ぐらいの傷でしたら治せるんです」
照れながら、どこか誇らしげに、サレナが答える。
元婚約者ディリオには酷評された能力が、少しでも役に立ったことが嬉しかった。
「それでは失礼します」
サレナが自分の席に戻ろうとすると、青年が声をかけてきた。
「ま、待って!」
「はい?」
「せ、せっかくだし一緒にお茶でも、どうかな……って」
後頭部をかきながらの垢抜けない口説き文句に、サレナは好感を抱き、柔らかな笑みで応じた。
「せっかくですので、喜んで」
この青年が、後に婚約者となる侯爵家令息フェルナン・ラドレスであることは言うまでもない。
***
サレナが蛇を食してから二週間経った頃、フェルナンは再び彼女を邸宅に招待していた。
白いエプロン姿で彼女を出迎える。
「今日は何を食べさせてくれるんでしょう?」
「これさ」
フェルナンは人差し指ほどの大きさのエビを見せた。
サレナは首を傾げる。
というのも、彼女らの住む王国は内陸にあり、野菜や果物が豊富に取れる土壌ということもあり、水に暮らす生き物を食べるという文化があまり根付いていない。
そのため、サレナはエビを見るのも初めてだった。
「以前合同演習をした隣国の騎士が、『いいエビが手に入ったから』なんて言って、氷とともに送ってきてくれてね」
「まあ、騎士同士の友情ということですね!」
「ああ、奴とは生まれた国こそ違うが、お互いに互いのためなら命をかけられる間柄でいたい、と思ってるよ」
他国の友人について語るフェルナンは、恋人というより騎士としての顔つきをしており、サレナはそんな婚約者に惚れ直した。
とはいえ、サレナにとって、初めて見るエビは少々グロテスクな見た目をしていた。
「これ、本当に美味しいんですよね?」
「うん、美味しいよ! とりあえず塩焼きにしてみるから、食べてみてくれよ。君は先っぽだけでいいから」
「は、はい!」
フェルナンはフライパンを使って、手早くエビを塩焼きにする。
「はい、どうぞ」
サレナに出された皿にはエビが丸ごと載っていた。
「……フェルナン様?」
「なんだい?」
「先っぽだけ、とおっしゃったのに丸々出してるじゃないですか!」
フェルナンはなだめるような仕草をする。
「ま、まあまあ、そう怒らず。騙されたと思って、食べてみてよ」
「フェルナン様ったら……。まあ、あなたにならいくらでも騙されてもいいですけどね」
サレナとしては何気なく放った一言だったが、フェルナンは「なんて可愛いんだ」と惚れ直してしまっていた。
「いただきます」
サレナはエビの身を一口かじる。
「……美味しい! プリプリで、本当に美味しいです!」
「だろう? よかったー」
サレナはそのまま身を全て食べ、さらに尻尾も――
「あ、尻尾は食べなくていいんだよ」
――フェルナンの制止が間に合わず、口に入れてしまった。
「美味しい! 尻尾もパキパキとした歯ごたえで美味しいです!」
「尻尾も食べられるんだね……知らなかった」
「はい。プリプリとパキパキ、二つの食感が楽しめますね!」
“にっこり”という擬音がくっついているかのようなサレナの笑顔は、フェルナンのハートをぎゅっと掴んだ。
「あれ? どうしました? フェルナン様、このエビのように赤くなっていますが……」
「え、あ、どうしてだろうね? 料理してて緊張しちゃったかな、アハハ」
こうしてサレナとフェルナンは婚約者同士として、幸せな日々を過ごした。
もうまもなく結婚式という頃、かつての婚約者ディリオが若さと勢いに任せて大事業を興し、それが失敗、家が傾くほどの損害を出したというニュースが流れた。
ディリオの父は激怒し、彼を着の身着のままで家から追放してしまったという。
拝金主義とプライドの高さが行き過ぎたゆえの末路といえる。
サレナは風の便りにそれを聞き、多少は溜飲が下りたものの、それ以上に憐憫の情で心を痛めた。
それができる彼女は、たとえ扱える能力は微小なものであっても、やはり“聖女”の末裔に相応しい淑女である、という他なかった。
***
約半年の婚約期間を経て、サレナとフェルナンに待ちに待った日が訪れた。
結婚式である。
式は王国でも有数の大教会で行われる。
サレナは新雪のように純白なドレスを纏い、本物の“聖女”と見まがうほどの神秘的な雰囲気を漂わせている。
新郎のフェルナンも、白い礼服に身を包み、穏やかな笑みを浮かべる。一方でその凛々しい佇まいからは、想い人を一生守るという決意が見て取れる。
クラーレ家とラドレス家、両家の人間はもちろん、「聖女の末裔と若き騎士の結婚」という構図は大きな話題となり、各方面から大勢の出席者があった。
そんな中、衛兵らが会場の片隅に大きな木箱を見つける。
「……なんだこりゃ?」
「いつの間にかあったぞ。確か、教会の儀式で使う道具なんかを入れる箱だろ」
「どうする? 片付けるか?」
「今、こんな箱をえっほえっほと運んだら、式のムードぶち壊しだろ。後でやろうぜ」
「それもそうだな」
式は滞りなく進み、僧衣に身を包んだ司祭が二人に呼びかける。
「永遠の愛を誓いますか?」
まずはフェルナンが誓う。
「はい、私はサレナを永遠に愛することを誓います」
続いて、サレナ。
「私も我が夫フェルナンを永遠に愛することを誓います」
「それでは、誓いの口づけを……」
サレナとフェルナンは向き合う。
長身のフェルナンを、サレナが見上げる形となる。
「サレナ……」
「フェルナン様……」
二人の唇が近づき、今まさに触れ合おうとする。
――その瞬間であった。
会場の片隅にあった木箱の蓋が静かに開いた。
中から姿を見せたのは、一人の男。
灰色の布を纏い、無精髭を生やし、まるで亡者のような出で立ちのこの男は――ディリオ・ダフト。いや、今の彼に姓はなく、ディリオ。
教会に忍び込み、倉庫に置いてある箱を利用することで、式に闖入することに成功した。
ディリオは目を血走らせ、息を弾ませ、猛然と駆け出した。
「てめえだけ……幸せになるなんざ……許さねえッ!!!」
手には刃渡りの長いナイフを持っている。
狙いは花嫁――サレナ。
あまりにも突然で、しかも式のメインといえる誓いの口づけの場面だったので、誰も反応できない。
衛兵が飛びかかるが、あと一歩届かない。
その凶刃は――
「ぐうっ……!」
――咄嗟に盾になったフェルナンの腹部に突き刺さっていた。
「フェルナン様ッ!」サレナが叫ぶ。
「――このッ!」
フェルナンの右拳で、ディリオが吹き飛ぶ。
「フェルナン様、大丈夫ですか!?」
「ああ……ちょっとお腹を刺されただけだ。先っぽだけだから……心配ない」
ところが、フェルナンの白い礼服は赤くにじんでいく。
明らかな重傷。サレナは悲鳴を上げる。
「先っぽだけだからとおっしゃったのに!」
ディリオはすぐに衛兵らに取り押さえられたが、この惨状を見て狂ったように笑う。
「ヒャハハッ! 手応えあったぜ! この時のために研いできたからなァ! サレナ、お前のことは殺れなかったが、お前から幸せを奪うことはできた! これで十分だ!」
サレナはひたすらにフェルナンの身を案じる。
「フェルナン様、フェルナン様ッ!」
すると、フェルナンはサレナの頭を優しく撫でた。
「心配するな、私は大丈夫だ」
「でも、血が……!」
「ほら」
フェルナンは右手にトマトを持っていた。刃物でできた傷がついている。
「奴が刺したのはこのトマトさ。さすがに貫通したが、威力はだいぶ軽減したよ」
フェルナンはこんな時にもスーツの中に野菜を入れていた。
サレナが傷を確認すると、フェルナンの腹部にはわずかな傷ができているのみだった。
安堵の息を漏らすと、サレナはさっそく癒しの力を行使する。
「すぐ治します!」
サレナの能力で、フェルナンの傷はたちまち完治してしまった。
「バ、バカな……!」
驚愕するディリオを、フェルナンは見下ろす。すでにディリオの正体は察しがついているようだ。
衛兵の一人が駆け寄り、フェルナンに謝罪するが、それにも「気にするな」と制する。
「残念だったな。私がお前につけた傷はこの通り治ってしまったし、私は衛兵たちを責めるつもりもない。つまり、お前は何の傷跡も残せなかったことになるな」
ディリオの顔が悔しそうに歪む。
「まあ、スーツに穴は開いたが後で縫えばいいし、トマトは美味しく食べられるからな」
自分を守ったトマトを自慢げにかじってみせる。
「私の傷を癒してくれたのは他ならぬサレナだ。お前が“金にならない”と見放した彼女の力が、私を助けてくれたんだ。これほど愉快なことはない」
「ぐ、ぐぐ……!」
「余興は終わりだ。連れて行け。もう二度と、お前の顔を見ることはないだろう」
ディリオはそのまま衛兵たちに連れて行かれた。
被害は軽微とはいえ犯行は卑劣で悪質、もはや彼が自由の身になることはない。
「ありがとう、サレナ。助かったよ」
爽やかに笑うフェルナンに、サレナも涙ぐんだ笑顔で応じる。
「い、いえ……本当にご無事でよかった……」
「トマトと君のおかげだね。もっとも、私も咄嗟に身をよじって急所は避けていたから、ナイフをまともに受けていても死ぬことはなかっただろうけど」
サレナを安心させるように、肩に手を置く。
そして、会場中に呼びかけるように――
「さあ、続きをしよう。誓いの口づけがまだだったからね」
「はい……!」
古来より、愛は障害があるほど燃え上がるとされる。
一歩間違えれば式が台無しになっていた刃傷沙汰でさえ、よき燃料になる。
この時の口づけは、二人にとって、とろけそうなほど甘美なものとなった――
***
サレナ・クラーレがサレナ・ラドレスとなり、およそ一年が経った。
サレナは邸宅のリビングで、ソファに座っていた。
その横をメイドが掃除用具を持って通り過ぎる。サレナはメイドに声をかけた。
「お掃除なら、私も手伝いましょうか?」
メイドは手を横に振る。
「いえ、奥様! 奥様はどうかお体を大事になさって下さい」
「そうですね、ありがとう」
サレナは使用人によく慕われる夫人となっていた。
彼女の“聖女”としての力は結婚してからは力を増し、剪定中に落下した庭師の骨折を治せるほどになっていた。
理由は不明だが、サレナは「きっと愛の力ね」と自分を納得させていた。
そして今、彼女はお腹の中に、フェルナンとの愛の結晶を宿していた。
お腹をさすると、まだ小さいが、力強い生命の息吹を感じ取ることができる。
「元気に生まれてきてね……」
サレナはまだ見ぬ我が子に優しく語りかけた。
夜になり、フェルナンが帰宅する。
騎士として戦功があったとのことで、いつもより興奮している。
「サレナ、今日はドラゴン討伐に成功したよ!」
「まあ、すごい」
「で、お土産」
フェルナンが持ち帰った包みの中には、巨大な尻尾が入っていた。
「これは?」
「ドラゴンの尻尾。美味で栄養もあるから、持ち帰ったんだ。さっそく食べよう!」
フェルナンが調理したドラゴンの尾は、香ばしい匂いを放っていた。
「さすがに今回は、本当に先っぽだけでいいよ」
フェルナンはこう言ったが、サレナは首を横に振る。
「いいえ、元気な子を産むためですもの」
ナイフで尾の一部を切り分けると、それを頬張る。
「うん、美味しい!」
豪気さえ漂う妻の食べっぷりに、フェルナンは惚れ惚れする。
「“聖女”としての優しさ清らかさに、逞しさも加わって、君はますます魅力的になっていくね」
「ふふっ、ありがとう。フェルナン様」
この半年後、ドラゴンの尾を食べたおかげもあるのか、サレナは元気のいい男児を授かった。
生まれながらに聖女の力を宿し、愛する人と結ばれ夫人となったサレナは、“母”となったことでさらに輝きを増すこととなる。
おわり
お読み下さいましてありがとうございました。