SF作家のアキバ事件簿215 腐女子狩り部隊
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第215話「腐女子狩り部隊」。さて、今回はスーパーヒロイン専門のナンパ師がビルから身投げ?他殺の線から捜査が始まります。
彼にダマされたスーパーヒロイン多数が警察署に押しかける中、捜査線上には過酷なM&Aの世界に生きる男女の愛憎劇が浮上しますが…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 ナイトマルシェ
今やアキバ名物の駅前ナイトマルシェ。元は市場の街で夜が早かったが、インバウンドの増加に伴い、駅前には夜遅くまでカラフルな露店が軒を並べる。
「ソレはダメだょ熟れ過ぎてる」
「マジ?わかるの?」
「コッチの方が甘くて身が引き締まってる」
会社帰りの腐女子に、売れ残りのパイナップルを薦めるイケメン。逝われるママに匂いを嗅ぐ腐女子。
「甘い香り。私の好みだわ。身が引き締まっているのも好みょ」
イケメン店員に熱い眼差しを向ける…ソコへ降って来る死体。腐女子は悲鳴。天罰?に驚くイケメン。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋警察署のギャレー。
「ねぇねぇ!工場排水でも飲んでるの?」
「何てコトを。オレ様特製の健康ドリンクさ。マリレが忘れたからワザワザ届けに来たンだ」
「マリレが忘れた?ワザとじゃナイの?」
誰かと思えばマリレのシン彼。名前はジェロ。筋肉ムキムキのプロテイン野郎だ。朝から胡散臭いw
「ヤメて、みんな。私はジェロ特製ドリンクのおかげですごく体調が良いの。朝はソレにライムジュース。固形食ナシの生活ょ。これで身を清めて新しい同棲生活を始めるの」
「マリレは、今7日目で残り3日だ」
「マリレのシン彼がボディビルダーとはな。身を清めて同棲って何?何だか信じられないょ」
僕は天を仰ぐが、同棲カップルは鼻にも掛けない。
「じゃ筋トレに行って来る。愛してるょマリレ」
「私こそ」
「いや。俺の愛は無限だ」
リア充?僕達を振り向くマリレ。
「わかってる。エアリ、私のコトを見苦しいって思ってるでしょ?」
「いいえ。私はクリスマスの御ミサで、ジェロの友達に会うのが楽しみょ…あら、電話だわ」
「そー言えば、テリィたんにも連れがいるって聞いたけど?ミユリ姉様以外に」
何て聞き方をするんだw
「誰なの?ミユリ姉様は知ってるの?」
「知ってるも何も…とにかく!僕の連れは、美人で知的ユーモアのセンスも抜群だ。彼女の笑顔は、僕をメロメロにスル」
「だ・れ・な・の?」
万世橋警察署の敏腕警部ラギィの目が三角になっている。おいおい、ジョークだょ笑ってくれ。
「スピアだ。僕の元カノ会の会長」
「なーんだ」
「みんな、殺人事件ょ!"blood type RED"」
エアリがギャレーに駆け込んで来る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
真夜中のナイトマルシェ(変な表現w)。飛び散った果物の破片1つ1つに鑑識の番号札が置かれてる。僕のタブレットから超天才ルイナの声。
「衝撃具合から見て、7階以上からのダイブね。エアリとマリレは、どの部屋か調べて」
「彼は…何も着てないな」
「テリィたん、鋭いわね」
死体は全裸だ。車椅子のルイナは、自分のラボから"リモート鑑識"をして手伝ってくれている。
「師走に入ってからの自殺なら、普通はもっとあったかくしてから飛び降りるんじゃないかな?…その果物屋台の上に」
「もし自殺なら、こんな引っ掻き傷があると思う?背中に女が爪を立てた痕ょ。1時間以内のモノ。飛び降りる前に、かなり激しい性行為をしたようね」
「最後の望みって奴か」
フト死に顔が幸せそうに見える。
「男が落ちた直後、ホテルの従業員2人が慌てて飛び出して行く長い髪の女を見てるわ」
「その女の人相を聞いて。早速聞き込みを始めましょ…え?何?」
「部屋を見つけたわ!8階ょ」
見上げるとバルコニーからマリレが手を振ってる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その部屋にはラベルのボレロが流れる。立哨の制服警官に挨拶して非常線の黄色いテープを潜る。
「音楽でムードづくりか」
「枕カバーには口紅がついてるわ」
「殺される前にかなり楽しんだみたいだな」
先行したヲタッキーズのエアリから状況を聞く。因みに彼女達はメイド服だ。ココはアキバだからね。
「被害者の名前はマルケ・ベリー。東秋葉原93丁目在住の28才。名刺によると秋葉原ヒルズに入ってるグローカル12って会社のジュニアアナリスト」
「予約の名義は?」
「セーラールナ。クレジットカードの情報は無し」
予約は女性。現金払い。金持ち女の火遊び?
「計画的反抗だな。犯人は最初から殺す気で偽名で予約したんだ」
「なら、なぜ彼と性行為をしたの?」
「ソレは…彼女が蜘蛛女だからだ」
BGM?のボレロを止めてラギィは振り向く。
「蜘蛛は、地球上で最も冷酷な生き物だ。無防備な雄を誘惑して、自分の巣に誘い込む。そして性行為におよび、雄がクライマックスに達するや、真っ赤な口を開き、生きたママむさぼり食うんだ!」
「私は、蜘蛛女じゃナイわ」
「いや。女は全員、蜘蛛女だ」
反論を封じる。我ながら大人気ナイ。
「…ま、私達が蜘蛛女かどうかはさておき、どうやら、犯人を見つけるコトが出来そうょ」
ラギィは、サイドテーブルに置かれたワイングラスについた指紋を見せる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に捜査本部が立ち上がる。高学歴系インテリ女子が吠える。
「私が誰だかわかってるの?クモー・ヲナー法律事務所のトップ、創立パートナーのクモナ・ホリーょ!」
「誰だろうと関係ないわ。男性の転落現場に貴女の指紋があった」
「私は関係ナイ」
クモナはベーシックな白ブラウスに黒のタイトスカート。ラギィはパープルのジャケットに黒の徳利。
「貴女が逃げる姿が目撃されてるの」
「あら」
目を落とすクモナ。
「貴女の交際相手のマルケ…」
「間抜け?誰ソレ?」
再び顔を上げるクモナ。
「ベリーよ。マルケ・ベリー」
「だから、誰ソレ?美味しいの?」
「この人だけど」
死体の写真を見せる。瞬間、息を呑む蜘蛛女。
「…彼は、間抜けなベリーじゃない。ジェクょ。ジェク・ヘリー」
「彼の本名はマルケ・ベリーなの」
「あのね。私だって寝た男の名前位ワカルわ」
そうでもないみたいだw
「だって、彼がジェクって名乗ったの。家業の営業で乙女ロードから来てるって…素敵な人だった。私は殺してない。恋に落ちただけ」
「彼は、窓から落ちたわ。貴女達、交際期間は?」
「実を言うと…私達は今宵出逢ったばかりなの。マチガイダ・サンドウィッチズで夜7時頃にね」
チリドッグ食べながらナンパされたのか?
「今夜会って、もう恋に落ちたの?」
「確かに変に思うだろうけど、運命的なモノを感じたの。で、私達が運命に導かれてセックスをした後、ジェクは急にフラついて汗をかき出した。風を入れたいと窓を開けて、窓辺にモタれてたけど、そしたら、突然…あっという間に…彼が…」
「え。何?聞こえないわ」
クモナは答えズ、手の平をヒラリと返し、フト涙をこらえる仕草はしたが、特に嘆き悲しむ風もナイ。
「つまり、こーゆーコトかしら。貴女は、自分を抱いた彼が8階から落ちたのに通報もせず、その場から逃げ出した?」
「すっかり、気が動転して間違った行動をとった。心から反省してるわ」
「法廷での供述みたいね。情状酌量狙い?」
フランス人みたいに肩をスボめるクモナ。
「神田明神も照覧あれ。とにかく!アレは間違いなく事故だったわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の検視局は地下にアル。マルケ・ベリーの遺体を前にモニター画面にはルイナ。
再び"リモート鑑識"のお時間だ。
「テリィたん。コレ、絶対に事故じゃないから」
「やっぱり突き落とされた?」
「致死量のコルヒチンを飲まされてる。果物屋台に激突する前に、彼は既に死んでたわ」
にわか知識を総動員。
「コルヒチンってリウマチの薬だっけ?」
「良く知ってるね。通常の服用量の50倍が体内から検出されたわ。多分摂取したのは16時から18時の間ね」
「あれ?ソレはクモナと出逢う45分も前だな。摂取方法は?」
ルイナは即答。
「飲み物に混入されてたようね。胃の中にはホエイプロテインとチョコがあったわ」
「チョコ味のプロテインシェイクか。ソレなら薬の味も消せるな。thank you。役に立ったょ」
「も少し待って。ジェクが死ぬ前にセックスしたかを調べたの」
激しく首を振るラギィ。
「ソレならもう良いわ」
「最後まで聞いて!確かにセックスはしてた。ただし、相手は2人。死ぬ前の数時間以内ね」
「コイツ…なかなかヤルな」
感心して死体を見下ろす。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。事情聴取を終え帰社を急ぐクモナ・ホリーを呼び止めるマリレ。
「クモナさん。マルケ・ベリー氏は、亡くなる前、貴女以外の人とも交わってたらしいのです」
「あら。ソレはどーゆー意味かしら」
「えっと、その、何と申しますか、お部屋には、貴女の他にも女性がいましたか?3Pで」
唇を噛む蜘蛛女。頭を抱える。
「まさか、こんな屈辱を味わうとは、思ってもいなかったわ!」
「と、ゆーコトは…YES?」
「NOょ、メイドさん!」
スゴい剣幕にドン引きのマリレ。
「はい、どーも。あ、そうそう…鑑識によれば、ベリー氏はどちらの時にもコンドームを使っていたそうです」
「ソレは安心したわ」
「…ご協力に感謝します」
マリレの言葉を聞きもせズ、ドシドシ大股で本部を横切って出て逝くクモナ。最後に振り返って叫ぶ。
「私が突き落とせば良かった!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
クモナを送り出したマリレが、ホウホウのテイでギャレーに帰って来る。とりあえず、コーヒーだw
「あれだけ怒るんじゃ彼女の話はマジかも」
「多分ね。でも、アリバイは確かめないと…」
「問題は16時から18時の間にベリーが誰といて、何処で毒を盛られたのか」
全員でホワイトボードの前に移動スル。時系列で事実を描き込んで逝く。いつもの手法だ。
「えっと殺害時間帯は16〜18時ね」
「ベリーの身内は既に他界して兄弟もいないわ。おっとコボしちゃった」
「大丈夫?」
エアリはコレ見よがしにマリレの面前でドーナツをほおばる。負けじとグイと翠の液体を飲むマリレ。
「つまり、クモナに話した身の上話は全部ウソってコトね」
「女ウケ狙いのウソだ。そして、クモナをベッドに連れ込んで…エアリ、違うょ右の頬だ。クリームがついてる」
「3Pしたもう1人の女に浮気がバレて殺されたんだわ!そーに違いない」
ヒステリックに騒ぐマリレ。ラギィが制する。
「その女を探しましょう。マルケ・ベリーの通話記録を調べて」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その日の午後。"潜り酒場"。
「テリィたん、ヲハヨー」
「テリィ様。クレジットカードはどこ?」
「その前に淑女のみなさん、質問がある。もし自分が愛する人に浮気をされたら、君達はどうやって殺す?」
ミユリさん即答。
「"雷キネシス"で黒焦げにします」
「ソレが無理なら?」
「音波銃で射殺」
スピアに指鉄砲で撃たれるw
「他には?」
「毒を盛ります。苦しんで死ぬトコロが見れるわ」
「ミユリ姉様、素敵。無様に死んで行くのね?」
思い切り楽しそうなスピア。
「やれやれ。今まで連続殺人鬼の小説を散々描いてきたけど、我が女性陣がこんなに怖いとはね。ところで、クレジットカードは何のため?」
「モチロン教会の御ミサに着ていく服に決まってるでしょ?ダメなの?」
「…今あるのじゃダメかな」
カウンターの中と外で同時に首を振る女子達w
「テリィ様。美しさは無料ではナイのです」
「そーょテリィたん。だから、女は男に裏切られたと知ると復讐したくなるの」
「おいおい…」
食べていたパンケーキのナイフで僕の胸を刺す…じゃなかった指すスピア。さらにナイフを近づける。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。ラギィにコボす僕w
「女性の浮気への怒りは、仮定の話とは逝え、凄まじいモンだね」
「そう?私ならどう殺すと思う?」
「聞かないでおくよ」
やれやれ。
「ヲタッキーズ。3Pやってた残りの1人の女性は見つかった?」
「ラギィ。ソレが未だ絞れない」
「絞れない?」
会議室に入る。スーパーヒロインがズラリ。アメリカンなコスプレ、レオタード、メイド服も。
全員が"blood type BLUE"なのか?座っていたヒロイン達は一斉に立ち上がって僕達を睨む。
今にも目や口から光線が出そうw
「スーパーヒロインのリアリティショーかコスプレAVの冒頭シーンみたいだ。クリスマス特典的な絵だな」
「ベリーは、ココにいるヒロイン全員とセックスをしてたワケ?…ってか、3Pじゃなかったの?」
「全員、恋人は自分だけだと思ってた。裏切られたスーパーヒロインだらけょ」
会議室は、正義の怒りで溢れているw
第2章 謎の戦闘員
万世橋に捜査本部が立ち上がる。とりあえず、ホワイトボードにヒロイン達の顔写真を貼り出して逝く。
「やれやれ。まるで地下アイドルの物販ショーみたいだ。しかし、わからないな。見た目も平凡だし、顔も仕事も月並みな奴が、どうやってあんなに大勢のスーパーヒロインと交際出来たんだ?」
「つまり、騙したんでしょ?」
「でも、ヒロイン達には本名を名乗ってた」
おや?確かクモナには…
「全員じゃないょ。偽名でセックスしたヒロインもいる。本名と使い分けをしてるな」
「この中で昨夜彼と会ったヒロインは?」
「みんな彼女が秋葉原にいないと思ってたみたい。彼は1ヵ月前に6週間クアラルンプールに行くと言ってたそうょ」
KL?
「予定より早く帰国を?」
「そもそも行ってない。クレジットカードの履歴を見るとクアラルンプール行きと言うのはウソね」
「どうして、ソンな嘘をついたの?スーパーヒロインの恋人達とモメずに別れるため?」
何かワケがありそうだ。
「勤務先に聞いてみたら、彼はここ1ヵ月の間、休暇を取ってるそうょ」
「へぇ。会社からもヒロイン達の前からも姿を消したワケか」
「自宅からもょ。マンションのコンシェルジュ曰く、この1ヵ月間、週に数日しか帰宅してないらしいわ。因みに、昨日は終日留守だったって」
マリレは、証拠品用のビニール袋を示す。
「だから、毒を盛られたのは自宅じゃない。ウォークインクローゼットの中に、コレが入ってたわ。運転免許証だけどジェク名義よ。クモナに語った名前だわ」
「じゃコッチが本名?」
「いいえ。ジェクは偽名だから、その免許証は偽造ってコトになるわ」
本物ソックリだ。ホログラムまで入ってる。
「スゴく精巧に出来てる。まるでスパイが使う奴みたいだ」
「でしょ?で、トドメはコレ」
何とマリレが見せるのは札束だ。
「現金ょ。ざっと1000万円の大金だ」
「ナンパ遊び用の"見せ金"にしては手が込んでるな」
「現金に偽造ID。被害者は一体何者なのかしら」
エアリがタブレットを示す。
「ジェク・ヘリーで検索かけたら、アレやコレやがヒットしたわ。秋葉原在住だけど出身は仙台」
「クモナに言ってた通りだ…やや?家業とやらの偽サイトまでアルぞ?ナンパにしちゃ手が込んでるな。やっぱり、単なるナンパ師じゃなくてスパイじゃナイか?」
「OK。ヲタッキーズは、ジェク・ヘリーが情報機関の関係者かどうか調べて。テリィたんは、私と一緒に来て。ジェク・ヘリーの上司に会いましょう」
先ず長期休暇を取った理由を聞かなきゃな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
まるで24時間続いてる会議みたいだ。テーブルを挟んで10人ほどの男女が対峙。全員が疲れ果ててる。
「では、次に当方よりトリウムの見積もりと…」
「失礼します。ハラスCEO、万世橋警察署の警部さんがいらしてます」
「…万世橋?少し休憩しても良いかな」
秘書に呼ばれ、中央に座っていた老人が立ち上がる。因みに、彼を呼びに来た秘書はメイド服だ。
だって、ココはアキバ(以下略)…
「OK、ハラス。劣後債の算定を続けてるよ」
「直ぐ戻る」
「どうぞ、ごゆっくり。どのみち交渉は行き詰まってるしね」
何処か投げ槍な女幹部がいる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
死体の顔写真を見詰め、やがて、ゆっくりと背もたれに身を沈めるハラスCEO。
「彼は企業買収部で働いていた。将来有望だったんだがな。どーしてこんなコトに」
「1ヵ月前から休んでたそうですが、理由は?」
「個人的な理由と聞いている。かなり深刻そうだったがな」
のらりくらりだw
「ニセのIDや1000万円もの大金を持ち歩いてた理由は?何か御存知では?」
「知らない…ただ、昨日彼のオフィスに不審者が侵入しようとしたと聞いているが、警備員が来る前に逃げたそうだ」
「発見者は?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
女幹部と逝えば、ヒロピン界隈では"悪の女幹部"が有名だが今回はレッキとしたキャリアウーマンだ。
やや?さっきの投げ槍発言の主だ。
「マラソン交渉中、私はトイレに行くために席を立ったの。廊下に出たら、見知らぬ女性がオフィスの扉をコジ開けようとしてた。ペンチやペーパークリップを使ってね。鍵を忘れたのかと思って、冗談で"鍵で開けたら?"と声をかけたら、彼女はエラい驚いた様子で私を突き飛ばして逃げて行ったわ」
「どんな人でした?」
「警備員にも話したけど、30代で黒のウェーブヘア。コートを着てたけど、前が空いてて星型の徽章が見えた。アレはシヲンの星、彼女はエルサレム航空のCAょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のモニターに制服姿のCAの画像。エアリが情報を整理スル。
「彼女の名前はコレト・ロスー。中近東のエアライン、エルサレム航空の客室乗務員で週2回、神田リバー水上空港に来てます」
「冷戦時代、客室乗務員のスパイってよくいたよね?彼女は、情報機関モサダのエージェントなんじゃないか?」
「そーなのょ。しかも彼女は元軍人。モサダのスパイは毒殺が得意だわ」
ジェクのスパイ説が一挙に浮上だ。スマホが鳴る。
「はい、ラギィ…了解。ねぇコレトの旅客飛行艇が神田リバー水上空港に着水したわ。彼女、間も無く連行されて来る」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室。コレト・ロスーは気性の激しい女子w
「私はスパイじゃナイ!客室乗務員です」
「OK。マルケ・ベリーとの関係を歌って」
「愛し合ってた」
胸を張るw
「なら教えてくれ。昨日の午後4時から6時。君はどこにいた?」
「彼のアパートの外で、彼が帰ってくるのを待ってた。でも、帰ってこなかったわ」
「貴女は、昨日は大忙しだったのね。その前までは彼のオフィスに押し入ろうとしてた」
何処か楽しそうなラギィ。
「何か手がかりがあるかと思った。彼の敵が誰なのかを知りたくて。彼は狙われてたの」
「誰に?」
「知らないわ。だけど、問題を抱えているコトだけはわかった。クアラルンプールに行くと言ってたのに、ずっと秋葉原にいて、何度も見かけたわ。でも、その度に私には気づかないフリをしてた。だから、彼の家を見張ったの」
そりゃ単なる…ストーカーだろ?
「なんと思われたって構わない。ただ彼を守ってあげたかったの。彼は、全然帰ってこなかったけど、数日前にやっと会うコトが出来た。彼から、今は何も話せない、次の日に全てを説明スルと言われたわ」
「そして、その後は音沙汰ナシだった?」
「いいえ、翌日も会った。でも、彼から話を聞く前に、突然、私達は襲われたの」
襲われたって…誰に?
「戦闘員。突然、現れた戦闘員に襲われて、彼は連れ去られた。私は、必死で抵抗したけど叶わなかったわ」
「戦闘員?悪の組織の?…でしょうね。なぜライダーは助けに来なかったの?で、警察に通報しなかったのはナゼ?ウソだから?」
「いいえ。通報したら彼を殺すと言われたからょ。でも、もしかしたら、解放されてないかと翌日探しに行ったけど…結局、彼は悪の組織に殺されてしまった」
いや。今頃はライダーに改造されてるだろ。
「そう…で、その戦闘員に襲われたのは何処?」
「地下アイドル通り。公衆の門前ょ!」
「そうなの。よーくわかったわ」
頭を抱えるラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部のモニターに退屈な画像が流れる。
「コレトが言ってた地下アイドル通りの防犯カメラ映像ょ。ココで誘拐が起きたと言う話だけど、今のトコロ異常ナシ」
「マリレ、ご苦労様。でも、何の変化もない単調な映像を全員で見てても仕方ないわ。もう停めて。コレトのアリバイはどうなってるか、エアリに捜査状況を聞くわ」
「待って、ラギィ。マルケが来た!」
コート姿のマルケが画面の右側から登場。左側からダッシュで現れマルケの首っ玉に飛びつくコレト。
ストーカーに追われて逃げ出すかと思いきや映画のシーンみたいにコレトをクルクル振り回すマルケw
と、ソコへ黒のSUVが急停車。ドアが開いて…
真っ赤なレオタードに網タイツの昭和な女戦闘員が現れ、捜査本部の全員がドン引き呆気にとられるw
「アレは…女戦闘員?悪の組織の?」
きっとキィキィ逝ってるのだろうが、音声がないので聞こえない。マルケを取り囲みSUVに推し込むw
「マジ戦闘員に襲われたの?しかも、女?」
「やや?SUVを運転してるのはゴキブリ怪人"プマキラー"じゃナイか!」
「確か2057話で死んだハズだぞ」
マルケを取り返そうと必死のコレト。彼女の強烈な肘鉄が女戦闘員の鼻に命中!全員から声が上がる。
「あちゃー。アレは鼻が折れたな」
「女戦闘員vs元軍人CA?ヒロピンが1本撮れそう」
「しかし、偽のIDに大量の現金。人目をはばからない、というか思い切り人目を引いてる女戦闘員による襲撃からの誘拐。やっぱり彼はスパイだ」
全く脈絡ナイ結論だが、ラギィは圧倒されてるw
「信じられないわ」
第3章 腐女子達の秘密
万世橋の捜査本部。ホワイトボードの前で雄弁に語る僕。
「マルケ・ベリーは、グローカル12の会社員だが会社務めはダミー、地下で秘密工作に従事してた。1ヵ月前にスリーパーの覚醒命令が下り、偽名に生い立ち、当座の資金も用意される。だが、マズいコトに敵が現れて、彼は誘拐されてしまった。その後、何とか脱出したが、彼には弱点があった。美女に目がないコトだ」
ホワイトボードに貼られたクモナ以下の美女達の写真を指差し、ラギィのデスクに腰掛け話を続ける。
「敵はとびきりの美人スパイを派遣する。彼女はマルケを誘惑し、毒入りプロテインで暗殺した」
「うーん妄想に反論が出来ないわ」
「はい、エアリ」
舌打ちするラギィを尻目にスマホに出るエアリ。
「マジ?わかったわ。ありがとう。内調も公安もマルケ・ベリーを知らないと言ってたそうょ」
「おいおい。彼等が"ハイ、うちの職員でした"とでも答えると思うか?」
「ねぇねぇ女戦闘員の車のナンバーがわかったわ」
マリレが飛び込んで来る。
「さっきの映像では見えなかったけど?」
「ソレが、先の交通違反監視カメラに映ってた。SUVの所有者はパブバ・ロズー28才の営業マンね」
「ソイツもきっとスパイだ。住所は?」
メモをヒラヒラさせるマリレ。
「わかってるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「万世橋警察署!万世橋警察署!」
拳銃を抜いたラギィを先頭にメイド服の上に防弾チョッキを着て音波銃を構えたヲタッキーズが突入!
「キャー!ナンなの?」
「貴女達もコスプレ風俗嬢?4P?乱パ?」
「うるさい!全員手を挙げて!」
部屋の中は、ブラとパンティだけの女戦闘員や半裸のゴキブリ怪人"プマキラー"やらで溢れてるw
「パブバ、どーゆーコト?このコスプレ女達、何処のお店の子?!…まさかモノホンのヲタッキーズなの?うわーホントにメイド服なのね!」
「となるとメイド2人を従えて…もしかして、貴女がムーンライトセレナーダー?」
「いいえ。万世橋警察署のラギィ警部ょ」
露骨にガッカリされて脱力するラギィ。
「貴女達こそ何処の女戦闘員?ってか、パブバ・ロズー28才の営業マンがいたら、手を挙げて」
「いかにも…パンツを履いても良いか?」
「聞け!マジで何かの間違いナンだ!」
そう叫ぶ男の腰でライダーベルトの風車が回る。傍らには、半裸の女戦闘員vs音波銃を構えたメイド。
ヒロピンAV1本分の内容が凝縮されてるw
「ラギィ。ライダーベルトの男の鼻が折れてるわ」
「ソイツも連行。他は…後ろを向いて」
「イタタタ…乱暴しないで」
フト耳をすます僕。
「ラベルのボレロだ」
「ホテルでも流れてた曲ね?」
「…な?だから、俺はワルだと言ったろ?」
パブバが女戦闘員に自慢してるw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。担当は僕とラギィ。モニターに女戦闘員の襲撃シーンがループ再生中。
「SUVを運転してるゴキブリ怪人、貴方ょね?」
「いや。プマキラーだ。23085話で死んでる」
「なぜコンなコトまでしてマルケを殺したの?」
初めて真顔になるパブバ。
「あいつ、死んだのか?あの女ストーカーにやられたんだな?」
「トボケないで。貴方達が誘拐したんでしょ」
「違う。アレは"女ストーカー撃退作戦"だ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕達のお隣では、鼻が折れたライダーが力説中だ。ライダーのお相手はヲタッキーズのメイド2人組。
「マルケは、コレトって女に付きまとわれてた。あの襲撃は、その女ストーカーを追い払うための作戦行動だった」
「え。じゃマルケもグルなの?」
「当たり前だ。俺達は"部隊"の戦友だ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「戦友って…君達は民間軍事会社か何かなのか?」
「俺達は、レイヤー殺しの"ナンパ部隊"なのさ」
「…スーパーヒロインを専門に口説く部隊?」
アンタがか?ジッとパブバを見る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
隣室ではヲタッキーズが言葉を失ってる。
「YES。出来るだけ大勢のスーパーヒロインを口説くのが部隊の任務だ」
「なるほど。だから、被害者はスーパーヒロインばかりなのね?レベルも高かったわ」
「だろ?」
胸を張る鼻折れ男。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ラベルのボレロもナンパテクの1つか?」
「YES。ボレロを流すと勝率が12%上がルンだ…しかし、良く気づいたな。アンタもヒロイン専門のナンパ師か?」
「ソンなコトより!事件前夜マルケから何か聞いてナイの?」
ラギィがイライラと口を挟む。
「何も聞いてない。そもそもアイツは1ヵ月前から部隊とは距離を置いていたンだ」
1ヵ月前?顔を見合わせる僕とラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
鼻折れ男は得意の絶頂だ。
「すると、どーだ?ストーカー女の件で、久しぶりにマルケの方から連絡を寄越したのさ。だから"女ストーカー撃退作戦"の後で、俺達はアイツを尾行した」
「怪人とライダーのコスプレで?」
「バレなかった。ココは秋葉原だからな…すると、マルケは"マジックポヨヨ"とか言うつまらないメイドバーに御帰宅した。全然良いメイドのいないバーだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マジックポヨヨはデブ専だw
「マルケは俺達を見てビビってた。大層慌てて、一緒につるんでも良いが、この御屋敷ではジェクと呼んでくれとかヌカしてた。スパイみたいだよな?」
ソレは…翌日ホリーに名乗った名前だw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「とりあえず、御屋敷にはイケてるデブもいたから、マルケも守備範囲を広げたのかと思いきや、一切興味なしだ」
「じゃ何しに御帰宅したの?」
「ソレが…奴は恐ろしく平凡な女に狙いを定めて、猛烈にアタックを始めたのさ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ソレが結婚指輪をした女でさ。部隊の矜持として、人妻には手を出さないコトにしてたが、奴はお構いナシだ」
「ソレは、ご立派な矜持ね。マルケは、最初から彼女がお目当てだったの?」
「間違いない」
大きくうなずくパブバ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ねぇライダー。マルケはナンで狙いを定めたのかしら。その人妻に?」
「知らない。だが、スゴい勢いでナンパしてた」
「で、結果は?」
悲しげに首を振る鼻折れ男。
「全く脈なし。取り付くシマもなかったよ。でも、マルケは粘った」
「まぁ。ソレでどーしたの?」
「"無害アピール作戦"に出たのさ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「何なのソレ?美味しいの?」
「下心は全くなく、ただ話をしたいだけだ、と見せかける高度な作戦だ。しかし、ソレでも彼女はナビかズ、その次は"悩み相談作戦"だ」
「その作戦、知ってるわ!」
ラギィも腰が浮いて来るw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
すっかり感心して聞き役に回ってるヲタッキーズ。
「つまり、友達の彼女が浮気されてるって相談するワケさ。何しろ、女ってのは、頼られて助言スルのが大好きだからな…しかし、ソレも失敗して"ジラシ作戦"に移行した」
「そ、その"ジラシ作戦"とは?」
「何と彼女の友達と戯れるのさ!そしたら、俄然彼女がエサに食いついた。すかさず、マルケは決め技を出した…」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラギィは身を乗り出す。
「決め技?!どんな?」
「マルケのヲ箱だ"そろそろ帰る時間だ"と言って席を立ち、彼女自身に心を決めさせるのさ!大胆極まりない、史上最大の作戦だ」
「ソレで彼女は?」
拳を握りしめるラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「2人は一緒に出て行ったよ」
そう聞いて深く溜め息をつくヲタッキーズ。
「あーあ」
「メイドさん。君の瞳、綺麗だな」
「ヤメて」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ラギィ警部。コレは数の問題なのだ。90%は失敗スル。軍隊用語で言う"エサ"だ」
「ソレを聞いて安心したわ。で、マルケが口説いた人妻ヒロインの名前は?」
「リサラ。俺が見た中で、最高のナンパだった。マルケの元帳に載らないのが残念だ」
え。元帳?
「ナンパの元帳がアルの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"ナンパの元帳"をめくる僕w
「ホントに大勢のスーパーヒロインと寝たんだな」
「単なる妄想ノートなんじゃナイの?」
「この写真の生めかしさやポージングはモノホンだな。日にちとオリジナルのアダ名入りだ。2024年12月9日、官能のキャリ。2025年1月1日。魅惑のマジャ…おっと」
元帳を覗き込むエアリと顔がぶつかる。
「テリィたん、邪魔」
「2日前のリサラは?元帳には載ってナイ?」
「最後の記録は1ヵ月以上前だ」
更新をサボってるw
「先ずリサラを見つけましょ。犯人カモ」
「軟体ルシラか。彼女、スゴいポーズだ。何があったか知らないが幸せな奴だ(誰が?)」
「ねぇ!鼻折れライダーとパブバは犯行時刻にアリバイがあったわ」
貴重な情報を持って捜査本部に飛び込んで来たマリレは、室内に漂う異様な空気に驚く。
「テリィたん、うらやましいの?そのスーパーヒロイン達は部隊にもてあそばれたのょ?彼等は詐欺師の集団だわ」
「そうょマリレ。まともなメイドさんが1人でもいて良かったわ。ヲタッキーズは、デブ専メイドバーに行って、マルケがなぜリサラに狙いをつけたのかを調べて来て。マルケが彼女を口説いた理由もね」
「ROG」
文字通り窓から飛び出して逝くメイド達。後に残された僕は、元帳をめくりながら物想いにフケる。
「どーしたの、テリィたん」
「うーん何となく見覚えがあるんだ、このページ」
「え。」
僕は元帳を開いて見せる。
「…ウソ!マジ?コレは…マリレ?」
「アラレもない格好を披露してくれちゃって」
「未だヲタッキーズに入る前では?」
so say we all…あだ名は"腰振りマリレ"だw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
デブ専メイドバー"マジックポヨヨ"。
「あぁ彼か。2日前に友達と来てたな」
「彼と一緒に帰ったリサラを知ってる?」
「モチロンだ。彼女も常連だょ」
エアリのバッジを見たバーマンは、協力姿勢で接してくれる。何か後ろめたいトコロがあるのだろう。
「彼女の姓を知りたいんだけど」
「調べよう」
「…この御屋敷、気に入ったわ」
呆れるマリレ。
「私達はヲタッキーズょ。ココに来る御主人様は若い弁護士やファンドマネージャーばかり。しかも、全員デブ専ょ?私達の出番はナイわ」
「あら、私だって負けてナイけど」
「好きにして。私は捜査に専念スルわ」
マリレにしなだれかかるエアリ。
「ねぇナンパに付き合ってょ。"悩み相談作戦"を試してみたいの」
「え。マジ?ウケる」
「"ジュラシー作戦"の方が良いかしら?」
ソコへ割り込んで来るバーマン。
「メイドさん。クレジットカードの伝票を見た。リサラ・ヒルーとあったょ」
「リサラ・ヒルー?」
「何処かで聞いた名ね。悪役だったのかしら」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「リサラ・ヒルー?秋葉原セレブのNo.1大金持ちじゃナイの!母親はステフ・ダシー!」
「え。ダシー出版の?」
「いつも長者番付に名前が載ってるわ」
僕もダシー出版からは、ベストセラーを何冊か出版してる。代表作は"宇宙艦コレ"シリーズかな。
「マルケは、この世界では相手に見合うよう、身分を偽ってる。弁護士のホリーの時と同じキャラの"ジェク"だ。いわばセレブに化ける"カメレオン作戦"だな」
「マンションのコンシェルジュの話だと、マルケだかジェクだかは、事件当日の夜6時半に自宅を出たそうょ」
「毒を盛られた30分後だな」
エアリが話を継ぐ。
「しかも、彼女の妹は製薬会社のオーナーで、その会社はコルヒチンを作ってる。簡単に入手出来たわ」
「セレブの仲間入りか。ホリーとリサラのナンパの時だけジェクを名乗っていたんだ」
「彼が…恐喝したってコト?」
ラギィと僕との間で妄想のハレーションが始まる。ラギィとは波長が合うンだ。さすがは元カノだょ。
「ソレなら脅し取った大金の説明もつくな。セレブと関係し、秘密をバラすと脅し、大金を出させたンだ」
「ところが、リサラは支払いを拒んだ?」
「彼女が怪しいわね。明日、話を聞きましょう」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
御屋敷のバックヤードを、スチームパンク風に改装したら居心地良くて常連が沈殿。経営を圧迫中だw
今宵も常連のスピアがファッションショー?
「わぉ!素敵なドレスだな!」
「そぉ?似合ってる?色んなお店を回ってJDFってお店でやっと見つけたの」
「大収穫だったのょね」
黒のカクテルドレスで立ってるスピア。カウンターから出て来たメイド長のミユリさんとハイタッチw
「テリィたん、このドレス以上に素敵だったのが経営者のジョン・ディア・ファスなの」
「JDFか。何者?」
「私達が会計をしていたら、オーナーの孫が夕食の迎えに来たの。つまり、JDF3世ナンだけど、超イケメンだったわ」
最近盛ってる男子が流行ってるからなw
「そしたらね、夕食を御一緒にどうですかって誘われちゃったの」
「えっと念のタメの確認だけど、ナンパして来たのは爺さんの方?それとも孫?」
「テリィ様。からかわないで」
ミユリさんに睨まれるw
「2人とも紳士だった。で、身内だけのチャリティイベントに招待してくれたの。洋服屋スイフトが歌うんですって。テリィたんの元カノ会の総会の日ナンだけど…ねぇこんな気持ちになったのは、テリィたんと別れて以来なの。行っても良いでしょ?」
「元カノ会の開催は、元カノ達の発意に拠る。僕に断らなくて良いょ…でも、そーなるとこのカクテルドレスは不要だね」
「ソレが、テリィたん!ファミリーイベントなんだけど、ドレスコードはセミフォーマルなの」
ドレスの肩越しにウフフと笑うスピア。その肩に手を置き…僕のカードを手にして悠然と微笑むミユリさん。
「で、夕食の後、私もJDFに戻り、新しいメイド服を買ってしまいました」
やれやれ。ダブルパンチかw
第4章 オレンジ色の憎い奴
朝焼けが電気街を染めて逝く…秋葉原ヒルズの谷間に登る太陽は、いつもオレンジ色をしている。
「見捨てるなんてヒドいわ」
「見捨てる?午前2時半まで付き合ったでしょ?」
「あと5分で落とせたわ」
捜査本部直通EVの扉が開き、ヲタッキーズのメイド2人が出て来る。エアリはドーナツを食べながらだ。
「ソレよりエアリ。マジでスーパーヒロイン殺しの捜査が人生の役に立つナンて思ってるの?」
「私に当たらないで。ウソでもついて彼氏の友達を口説けばよかった?」
「あのね…これ見よがしにドーナツ食べないで!」
エアリが食べていたドーナツを取ろうと、つかみかかるマリレ。阻止するエアリ。メイドvsメイドw
「待って!何スルの?」
エアリの背中に回り、フルネルソンをキメて絞り上げるマリレ。何とかドーナツを奪おうとスル。
「マジ?ねぇヤメてょ」
それでも食べ続けるエアリ。ちょうど捜査本部に入って来た僕達の面前でメイドコスプレのキャットファイトw
「落ち着け!何やってるんだ?」
「ちょっと。何やってるの」
「ラギィ。エアリが私の目の前でドーナツを…」
フランス人みたいに肩をスボめるエアリ。
「…食べてただけょ」
「マリレ。大丈夫なの?もう9日も頑張ったんだから、健康ドリンクはヤメたら?」
「全然大丈夫ょ。いいえ、私が悪かったわ。ごめんね、エアリ。で、リサラは見つかった?」
正気?を取り戻すマリレw
「えぇ神田山本町のスパにいたわ」
「美白から自白か。休憩から求刑、極楽から獄門、指圧から…あれ?何だろ」
「間も無くリサラが署に到着ょ」
ラギィは腕時計を見る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋にリサラ・リローが出頭。テレパスとのコトで、僕はサイキック対策ヘッドギアを装着。側面に"SF writer"と描いてアル奴だ。
ラギィは、ジェクの写真を示す。
「彼に見覚えは?」
「あるわ。彼の名はジェク」
「そう聞かされてたけど、実はマルケ・ベリーです。彼は、貴女を脅迫しましたか?」
上品な花柄ブラウスにジャケットを羽織るリサラ。
「脅迫?何のコトかワカラナイわ」
「トボけナイで。彼に騙されたと知って、復讐したのでしょ?妹さんは製薬会社のオーナーよね。彼を殺すためにコルキチンを手に入れたのね?」
「違うわ。彼の企みを知らないのに復讐なんて出来ナイ。でも、彼が何か企んでいたのは知ってる。ソレに早く気づくべきだったけど、夫が仕事人間で私は寂しかった」
悪びれもせズにアッサリ不倫を語るリサラ。
「だから、家に入れた。楽しかったわ。でも、私がバスルームから出たら、私のPCを盗み見ていたの。クレジットカード情報でも狙ってるのかと思って直ぐに追い出したわ。彼を見たのはそれが最後。マジそれっきり」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。モニターにメールの拡大画像。
「マルケは、自分宛にメールを送ってる。リサラのPCにあった文書を添付してたわ」
「どんな?」
「極秘。KPIマイニング社の経営情報ね。リサラの夫ローン・ヒルーは投資銀行の勤務で会社売却を担当してる」
モニターにローンの顔写真が出る。
「おいおい。ソレがリサラの夫か?グローカル12で見かけたタフな交渉してた連中の1人だぜ?」
「YES。ローンは、その交渉にKPI側の代理人として参加してるわ」
「そっか!マルケは、産業スパイだったのか。ローンの妻リサラと寝て、KPIの秘密を入手してた産業スパイだったのね?もしかして、産業スパイ専門の民間軍事会社の腕利き社員ってコト?」
確かに腕利きだょ。関係するスーパーヒロインと次々寝ちゃうンだから。色仕掛け専門の産業スパイだ。
「テリィたん。やっと動機が見えてきたわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「マルケは、得意のスーパーヒロイン専門のナンパ技を駆使してローンの妻と寝て、KPIの極秘情報を盗み出した。奴は、情報も奥さんもいただいたってワケだ」
カウンターの中で溜め息をつくミユリさん。
「情報が盗まれた時、ローンは激怒しただらーな。交渉は台無し。奥さんも寝取られ、夫婦関係も台無しだ。殺人の動機が最もアルのはローンだな」
「でも、テリィ様。ローンもリサラも殺害時間帯のアリバイがアル。マラソン交渉の最中でしたから」
「姉様。念のためKPI側の布陣を調べたわ。ケリー&ホリー法律事務所がついている。担当弁護士は誰だと思う?」
即答だ。
「ホリー?」
「YES。ホテルで偽名を使ったクモナ・ホリー」
「リサラとホリーの共通点が、やっと見つかったわね」
一歩前進だ。
「きっとマルケは、この件で他のスーパーヒロインにも手を出してる。あと何人他のヒロインに手を出したんだろう?」
「会社売却に関わってるKPI側のスーパーヒロインを全員調べなきゃ。エアリ、お願いね。投資銀行の関係者や弁護士も含めてょ」
「姉様、ROG」
飛び出して逝くヲタッキーズ。
「ミユリさん。でも、こんなコトをマルケ1人で計画出来るハズがナイょ」
「綿密過ぎますね」
「しかも、彼はグローカル12は休暇中だったンだ」
ミユリさんは人差し指を頬に当てる。
「では、彼に休暇を許可した人は誰でしょう?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「私が休暇を許可した…しかし、貴女がムーンライトセレナーダーか。マジでメイド服ナンだな」
グローカル12のハラス・ハリーCEOは宣う。
「そして、休暇用に偽の身分証と現金も渡した?」
「ムーンライトセレナーダー。ソレは知らないと申し上げたハズだ」
「マルケがリサラと寝て、KPIの極秘情報を盗んだのは御存知かしら」
ゆっくり首を振る老CEO。
「知らない」
「トボケないでくれ。マルケは、ソンなコトは考えない。彼は君の部下ナンだろ?アンタは、グローカル12を代表してKPIと抗争中だ。さぁ話すんだ。たまたまデブ専バーでナンパしてるマルケを見て、企業買収の交渉に上手く利用出来ると思ったのか?」
「おい。トンでもナイ言いがかりだ」
ムキになって怒るCEO。
「そもそも、私や会社の不正の証拠は無いんだろ?みんな状況証拠だけだ」
「あのね、ハラスさん。私達は12の不正の話ナンかどーでも良いの。ヲタッキーズは、マルケ・ベリーの殺害犯だけを請け負ってる。後はどーでも良いの」
「OK。ムーンライトセレナーダー、私にどうしろと?」
やっと交渉のテーブルにつきそうだ。
「マルケ・ベリーは、他には誰を狙ってたの?殺された日は誰といたのか、全て話して」
「つまり、私に対する容疑はナイのだな?ならば、失礼させてもらうょムーンライトセレナーダー」
「え?」
部屋を出て逝く老CEO。ダメじゃん、ミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再び"潜り酒場"。お腹が空いたので馴染みの街中華"新秋楼"から出前を取る。
「ミユリさん。KPIには、女性の管理職が300人以上いた。その誰もがターゲットにされた可能性がアル」
「ソレに加えて法律事務所には、投資銀行の女性もいましたね」
「あぁ中華だなーやっぱり」
関係ナイが春巻きを頬張って超幸せな僕。ソコヘ先ずエアリが戻って来る。
「エアリ、状況は?」
「ソレが姉様。マルケが寝たスーパーヒロインを絞り切れません。ソレから、寝たと逝えば元帳の件、マリレに話すべきでしょうか?」
「え。みんな僕からマリレに話すなって逝ってたょな?だから、僕は話してナイぜ?」
ムーンライトセレナーダーの変身を解いたミユリさんは、メイド服で上海焼きそばを頬張ってる。
「マリレは、例のシン彼に薦められて、ココ何日も食べてません。先日のドーナツの1件とか考えると…」
ソコへマリレが帰って来る。カウンターに並ぶ出前の中華料理を見て絶句している。呻くように話す。
「この、書類、持ってく、わ…」
カウンターの上には、麺類と炒飯類の大きな皿が並び、囲むように青椒肉絲的な料理、点心が湯気を立てる。
「マリレ、座って」
「え。姉様、何?みんな深刻そう」
「何か食べろょ」
中華を薦める。
「でも、シン彼との約束なの。ソレ、豚肉炒め?」
「そうょ。メチャクチャ美味しいわ」
「マリレ。貴女、お腹を空かせた野良猫みたいょ」
上司や相棒から熱心に薦められる。トドメを刺す僕はヲタッキーズのCEOだ。
「マリレ。もう良いンだ。食えよ」
次の瞬間、僕の手から餡かけ炒飯が消えて、マリレの手にテレポートするやスゴい勢いでかっこむw
「新秋楼の出前中華さ」
「これマジで美味しい!最高ょ春巻きもとって!」
「だろ?ところで、マルケの元帳ナンだが…」
口いっぱいにかっこんだ炒飯を食べながらマリレ。
「私も載ってた?聞こうと思ってて、忘れちゃってた。ここンとこどうも忘れっぽくて。その麻婆豆腐もお願い」
「元帳のコト、前から知ってたの?」
「姉様からヲタッキーズに誘われる少し前、マルケに会ったの。まさかナンパ師だとは気づかなかったけど」
あっけらかんとしてるマリレ。拍子抜けの僕達。
「で、マリレは怒ってないの?」
「別に本気じゃなかったし…ソレ、モンゴリアンビーフかしら?たまらないわ」
「どんどん食べて!」
何だか良い方向に向いてる。中華の魔力だw
「でね、姉様。私、マルケの秋葉原での1ヵ月間の滞在先を考えてみたの。彼は、グローカル12の雇われスパイだとわかったから、グローカルの施設、つまりゲストハウスを調べてみたワケ」
「グローカルのゲストハウス?ソレは名案だわ」
「確かに盲点だ。全く思いつかなかったな」
マジで感心スル僕達。熱心に点心を薦める。
「そしたら、ジェクの名義で神田同朋町のゲストハウスに1ヵ月間滞在してたコトがワカッタの」
「マリレ、ソレを早く逝ってょ。直ぐ逝かなきゃ」
「ヲタッキーズ、GO!」
一斉に立ち上がるウチのスーパーヒロイン達…マリレだけは立ち上がりながら色んな中華料理を摘むw
「そのスペアリブを取って。途中で食べるから。ソレから私の元帳のあだ名"星降りマリレ"でお願いしたンだけど…ロマンチックでしょ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
グローカル12の神田同朋町ゲストハウス。
「ベッドオフィスから連絡がありました。どうぞお入りください。ただし、もうジェク氏は戻らないと聞いており、彼の荷物は全て寄付に回してしまいました。また、常備品の補充や掃除・洗濯は全て済んでおります」
慇懃無礼なネクタイ姿の支配人?マスターキーで解錠してくれる。タワマン高層階にある高級物件だ。
巨大な冷蔵庫を開けるマリレ。
「姉様、エアリ、テリィたん(呼ぶ順が変だw)。コレを見て。チョコ味のプロテインシェイクょ。原材料はホエイプロテイン」
「コレはどの部屋にも常備品ですか?」
「YES。インバウンドに大変好評でして」
ミユリさん、じゃなかった、ムーンライトセレナーダーと顔を見合わす僕。
「コレにコルヒチンが入ってたんだ。ジェク・ベリーは、ココで薬を盛られたw」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再び"潜り酒場"。モニターが明るくなりルイナの"リモート鑑識"がスタート。
「凶器が確定したわ。ゲストハウスにあったシェイクは、ジェク・ベリーの胃の内容物と一致したわ。つまり…」
「ソレにコリスチンが入ってたのね」
「コンシェルジュによれば、ジェクは毒が盛られた時間帯は部屋にこもっていたらしい。ベルは鳴らすなとドンディスのタグが出てたって」
色仕掛けスパイは重労働だw
「その間に訪問者は?」
「はい、姉様。もちろん、ありました。前にも何度か来ていた夜の訪問者です」
「ロビーの監視カメラの画像にバッチリ写ってます」
あっけらかんと写ってる素顔の犯人。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
グローカル12の会議室。延々と続くM&Aに関するマラソン会議だ。ローンの粘り強い交渉が続く。
「…第3四半期に絞るのが1番生産的なのでは?」
ドアをノックする音。全員が振り向く中、入室して来たのは…モノホンのムーンライトセレナーダーだ。
息を飲むホリー。
「何なの?どーゆーコト?」
「諸君、静粛に。なんでもない。ムーンライトセレナーダー。私がマルケ・ベリーについて知っているコトは全てお話しした。頼むからお引き取り願いたい」
「ハラスさんに用ではありません」
「アンタには、後で証券取引委員会が来るよ」
僕が補足スルと顔をしかめるハラスCEO。
「今日は、ある女性に会いに来たの」
会議室に入って逝くムーンライトセレナーダー。一歩一歩近づくスーパーヒロインに息を飲むホリー。
「彼女は、交渉のKPI側にいて、マルケ・ベリーのコトも良く知っていた」
目を伏せるホリー。
「COOのエミケ・イプー。貴女ょ」
ホリーを含む、その場の全員が納得してエミケを振り返る。
「マルケ・ベイリーの殺害容疑で逮捕ょ」
「…さよなら、ハリー」
「逝きましょう」
呆気にとられるハラスCEOの前を連行されて逝く。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
解散が決まり後片付けが始まった万世橋の捜査本部。
「エミケCOOは、マルケを殺すコトが会社にとって最善のビジネスだったと供述してる。とにかく、マルケが2度とナンパ出来ないのは、スーパーヒロインにとって幸いね」
「マルケは、どの作戦が当たったのかは知らないが、一旦はエミケを夢中にさせた。でも、彼女はどこかで感づいて、企みがバレたのね」
「私とは無縁の次元のお付き合いだわ」
ムーンライトセレナーダーとラギィの会話にケラケラ笑いながらマリレが混ざる。まぁこの手の話は、
結婚してからの方が大変なのだが。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
クリスマスが近い日の御ミサ。始まる前に座る席を物色していたら、僕を小声で呼ぶ人がいる。ラギィだ。
「テリィたん。まるで迷子の子犬みたいょ。スピアと一緒じゃなかったの?ミユリ姉様は?」
「ソレが…洋服屋スイフトと何ちゃら3世に取られたよ。勝てるワケない…実は、御ミサで1人って苦手ナンだ」
「ソレはお気の毒。ねぇじゃお互いを同伴者ってコトにしない?」
いきなり腕を絡めてくる。おい。教会の中だぞ。
「ROG。そうすれば、肩身の狭い思いをせずに済むな。とても良いアイディアだ」
「でしょ?」
「おや?何だか幸せな気分になって来たぞ」
学生の頃、キャンパスにあるチャペルに冗談で通っていた記憶がよみがえる。何もかもが昔みたいだ。
「逝こうか」
ラギィと腕を組んで、御ミサの会場に入って逝く。まるで新郎新婦みたいにさ。聖歌隊が歌い始める。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"企業買収"をテーマに、得意?の経済小説的な側面を意識しながら描いてみました。学生の頃から、世界を動かすモノは法でも秩序でもなく、経済だと信じる私は、その最前線でビジネスする人達に昔から興味がありました。アラ還をとっくに過ぎてからヒルズ族になり、まだまだ経済が気になる日々を送りそうです。
今回のおまけストーリーは、シン彼に勧められて健康ドリンクにハマるメイドです。ラストシーンは主人公と元カノの結婚シーンを彷彿させるエンディングにしてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、すっかりパンピーのインバウンドが増えて、いろんな意味でヲタク色を失いつつある秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。