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「...やっぱりこうなってしまったか...」
隣国の王達は、中央国の王城を攻め落とし、再度、中央国王都の外に近衛兵を連れて集まっていた。
中央国の城を攻め落とし、宰相に将軍、近衛騎士団長を捕らえる事はできた。
しかし、肝心の中央国王を捕らえることができなかった。
当初の計画の立案者は東国王と南国王であった。
計画の段階で、不安はあったのだ。
『何ぁに、オレ等4国が一斉に攻め込めば、中央国なんか簡単に攻め落とせるさ!』
『その通りである!我等が一斉に攻め込めば、それを防ぐ手立ては中央国にはないのである!』
『...しかし...脱出経路を塞がねば、国王を捕まえることはできませんぞ...?』
『そんなモン!オレが全兵力を以て王城を囲めばいいだけだ!ネズミ一匹逃がしやしねぇよ!』
『...脱出経路も塞げるという事かね?』
『勿論である!我に任せるのである!」
...現在は中央国王しか知らない脱出経路を、この2人はどうやって入手したのか...
勢いに乗せられてしまった我はやはり愚王であったな...
結局、この2人は脱出経路を知らなかったのだ。
「...脱出経路も塞げるのではなかったのかね?」
「...知らねぇよ...」
「...」
東国王と南国王はそのまま押し黙った。
しかし、北国王は追及の手を緩めない。
「...どういう事かね?」
「...脱出経路なんてものがあるなんて知らなかったんだよ...」
「つまり、こういう事かね?
中央国城の脱出経路を知らず、ただ単に、中央国城を完全包囲すれば、
中央国王を逃がす訳がないからそうしたが、脱出経路を知らなかったからまんまと逃げられた...と?」
「...」
「...」
東国王と南国王は依然、口を開かない。
「...黙ったままでは困るのだが?答えて貰えんかね?」
「...そうだよ...」
「何がそうなのかね?」
「お前の言う通りだって言ってんだよ!」
「...威張って言える事かね?」
「...」
...何ともまぁ、とんでもない泥船に乗ってしまったものだ...
まさか...脱出経路も知らずに攻め入ったとは...
「...いっ...今からでも遅くはないっ!
中央国王を見つけて保護し、東国王と南国王を糾弾すればっ!」
「...中央国王が、お前さんと我の言葉を信じると思うかね?」
「...」
やっと口を開いたと思えば、あまりにも自分本位な言葉を発する西国王に呆れてしまう。
それよりも、さも、自分は当事者ではないとでも言いたげに、ずっと腕を組んで目を閉じ、一言も発さない南国王には更に呆れるが...
「南国王よ、何か言う事はないのかね?」
「我に責...」
「お主に責は無いとは言わせんぞ?
お主もが言ったのであろう、『勿論である!我に任せるのである』と」
「はて...そのような事を言...」
「言っていないとは言わせんぞ!!
惚けるのも大概にするがいい!!
我が問うた言葉に対する答えを、我が忘れる訳がなかろう!!
我はこう問うた筈だ!!『脱出経路も塞げるという事かね?』と!!
それに対しての答えがその言であるぞ!!」
「...」
「お主が東国王と組んで我らを説得してこの計画を立案したのであろうに!!
お主と東国王が我と西国王を巻き込んだのだ!!
いうに事欠いて責はないなどという世迷言を言うのであれば、我がこの場でお主の首を切り落とすぞ!!」
「ほう...武勇を誇る我の首を取ると?」
我の言葉に眉を顰め、語気を強めて立ち上がろうとする南国王だが、我が右手を上げた途端に現れた黒装束の者達に近衛兵も含めて首に刃を突き付けられ、直ぐに押し黙る事となる。
...何ともまぁ、この程度で武勇を誇ると言うのだから、烏滸がましいにも程がある。
「ひっ...卑怯であるぞっ!!」
「騙し討ちのように中央国を攻め落としておいて、その様な言葉を吐けるものかね?
武勇を誇るのであえば、この程度の暗殺者など歯牙にもかけないものだがね?」
「...暗殺者などを差し向ける者に武勇が如何なるものかなど...」
「...中央国王とその近衛騎士団長は、我が差し向けた暗殺者など、歯牙にも掛けずに追い払ったが?」
「...うっ...嘘なのであるっ!!」
「嘘ではないよ。初めて我が国に中央国王を招き入れた時に、暗殺者を仕向け、様子を伺ったのだからね。
...全く...我と西国王は、脳筋愚王と粗雑愚王にいいようにしてやられた訳だ...
これでは、日和見愚王と小心愚王の誹りを甘んじて受けるほかあるまいよ...」
我が粗雑愚王と発した事に東国王が少し気色ばむが、直ぐに我が仕向けた暗殺者によって首に刃を突き付けられて押し黙る。
「...こっ...これからどうすれば...」
そんな様子を見て、不安げに西国王が声を上げる。
「どうもしないさ。なるようにしかならないよ。」
「そっ...それは困るっ!我が国はこうしている今も、帝国からの圧力を受けているのだっ!」
「お主も西国の王であろうに、中央国の力添えが無くとも何とかなると思い、この計画に乗ったのであろう?」
「そっ...それは...」
そう言いながら、我を上目遣いで見る西国王。
そんな目で見られても怖気が立つだけだ。
「我も極北の強国からの脅威を今も受けておるのでな、今後、お主達に手を貸すつもりはない。」
「おっ!!おいっ!!」
東国王が何かを言おうとするが、今も我が配下の暗殺者によって首に刃を突き付けられたままである。
我が冷たい目線を東国王に向けると、居心地悪そうに目を逸らした。
「...」
...もうここに居ても何も出来る事はない。そう考えて立ち上がる。
隣国王達は我の行動を止める事もできず、ただ見ているだけであった。
隣国王達と居た軍幕を出て背筋を伸ばし、空を見る。
「...全く以て、泥船に乗ってしまった自身を恥じるばかりだのぉ...」
誰に聞かせるでもない自身の本音に、自嘲する以外にできることはなかった。