6
「何ぃ!!見つからないとはどういう事だ!!」
東国王は東国の将軍に向かい怒声を浴びせた。
「それが...中央国王は、既に王城にはおらず、逃げ延びたと思われます...」
「だ・か・ら!!なんで逃げられたかって聞いてるんだよ!!
王城の周囲は全て封鎖し、ネズミ一匹通さないように通達した筈だよなぁ!!」
東国の将軍は、若き東国王の言葉に、やはり若さが悪い方向で出てしまったと思い、諫める事とした。
「...王よ、王城には、いざという時に国王が逃げる為の脱出経路が複数存在します。
そして、その経路は、王と王太子のみが知るものなのです。」
「何ぃ?!オレはそんなの見た事も無ければ聞いた事もないぞ!!」
「...あるのです。どの国にも。いざと言う時の備えですから。
王が、父王と王太子であった兄君を...」
「おいっ!!それ今言うな!!誰に聞かれているか分からんのだぞ!!」
東国王は慌てた。
東国王は第2王子であり、当時王太子であった第一王子が優秀であった為、王になる予定ではなかった。
しかし、自由奔放に育てられ過ぎた結果、粗雑で傲慢になり、第一王子の優秀さに嫉妬し、身勝手な思いで暗殺し、更に、それを知って自身を廃嫡しようとした父王を暗殺したのである。
これは、現東国王と宰相、将軍、近衛騎士団長の4人だけが知る秘密である。
「...我が国の脱出経路を知る者が居なくなってしまっただけです。」
将軍は目を閉じ、軽くため息を吐きながら答えた。
「それは...お前も知らないのか? 宰相は? 近衛騎士団長は?」
「知りません。王と王太子のみが知るものですから。」
「何故だ!!何故そんな重要な事をオレに知らせないっ!!」
「知っても無意味でしょう。場所が分からないのですから。」
「国に戻ったら、兵士をかき集めて脱出路の捜索をするぞ!!」
「いけません!!王と王太子のみが知る脱出経路を他の者に知られては、
いざという時に脱出経路で待ち伏せされる可能性があります!!」
「...」
東国王はこれには押し黙る以外になかった。
王と王太子のみが知る脱出経路があるという事を東国王に誰も知らせなかったのは、
そこを兵士を使って捜索してしまう可能性があったからだ。
そして、兵士を使って捜索してしまえば、脱出経路が外部に漏れ出す可能性が極めて高くなる。
今、脱出経路があることを知らせたのは、王と王太子しか知らない事のメリットを自身が身を持って理解できるタイミングだったからであった。
勿論、中央国の脱出経路は現王しか知らなかった。
だから、隣国の者にも脱出経路を知る術はなく、結果として脱出経路を塞ぐ事ができなかったのだ。
「ちくしょう!!ふざけやがってぇ...!!卑怯者めぇ...!!」
東国王は粗雑で傲慢であった為、自身に落ち度があるとは思わなかった。
ただただ、中央国王が逃げた事に対して恨み言を呟くのみであった。