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隣国の王達は、中央国の王城を攻め落とす最終段階の話し合いの為、中央国王都の外に近衛兵を連れて集まっていた。
正方形の机と、その東西南北に椅子が置かれており、それぞれの国の王が椅子に座わり、これからの事を協議しようとしてた。
「これで良かったのだろうか...」
大きなため息を吐きながら、西側の席に座った王が呟いた。
「今更何を言う!そのような事ばかり言っておるから西の小心王と卑下されるのだ!」
西国王は小心王と呼ばれ、少しばかり気を悪くするも、身体と声の大きい南国王からの言葉では反論もできない。
「しかしだな...南国王よ...我らの行ないは、決して許されるものではない、
我が北国とて、極北の強国に脅かされ続けている...
それを撃退する手助けを何度もしてくれた中央国を滅ぼすのは、
裏切り以外の何物でもない...」
北国王からの援護により少しばかり気を持ち直すが、それでも不安なものは不安なのである。
「な~にいい子振ってんだよ、北国王!
それともあれか?ここでオレ達と敵対して中央国に寝返るか?
北の日和見王さんよ!!」
まだ年若く、粗雑な態度の東国王に北国王は眉を顰める。
自分がどれだけ恵まれた国で生活しているかを理解していない隣国王に対し、一言申したい気持ちを抑え、反論のみをする。
一言申した所で、この東国王の粗雑は変わらないし、その粗雑で身を滅ぼすなら願ったりだ。態々、アドバイスをする程仲のいい相手でもない。
「それこそ無理な話だ、東国王...今更退けんよ...
だが...我等は一体、何故、このような事になったのか...
改めて考える必要はないだろうか?」
「私もその通りだと思うのだ、北国王。
大義名分の無い我等の行動に、我が国の民は納得すまい...
下手をすれば、我等の国も...」
そうだ、そこなのだ。
これからは、自分達でどうにかしなければならない。
西国王の言葉に頷きながら、北国王は隣国王達を見る。
「だぁ~かぁ~らぁ~!!
そんな大義名分なんか、後から付いてくるって言ってんだろうがよ!!
なぁ、南国の!!」
「その通りである!!我等は一致団結し、宗主国となり我等を支配しようとした
悪しき中央国を滅ぼす事に決めたのである!!」
「そうそう!!我等を支配しようとした悪しき中央国!!
お前等もそれで納得して攻め入る事に賛同したんだろうに!!
そうだろう?!北国の!! 違うか?!西国の!!」
勿論、そのような事実はない。
ただただ、中央国王が賢王と呼ばれるに相応しい人格者であり、我々隣国はその恩恵を少なからず...
...いや、多大な恩恵を受けてきたのだ。
そして、そんな中央国を我等は暗愚な思いで以て滅ぼそうとしているのだ。
...それを理解しながらも、愚王と呼ばれる事に、中央国無しではやっていけないと揶揄される事にまでは、納得できはしなかったのだ。
そう、中央国を滅ぼそうとした理由は、ただただ愚かな隣国の王達の嫉妬なのである。
「そのように単純に考えられるのは、隣国に強国のない東国と南国だから言えるのだ。
我が北国は言わずもがな、西国に至っては、帝国がこちらを虎視眈々と狙っているのだ...」
「うむ...我が西国は強大な帝国が隣接しておる。帝国が今まで我が国を攻めなかったのは、
ある意味で中央国の賢王のお陰でもあるのだ...
それが無くなろうとしている今、我は先行きが不安でならんのだよ...」
「はぁ...情けねぇなぁ、西の小心愚王!! そんなんで民が付いてくるかよ!!」
西国王はまだ年若い東国王の事が嫌いであった。
東国王の粗雑で歳上を敬わない態度と、あまりにも考えなしの発言に、これでよく王を名乗れたものだと逆に関心してしまう。
それに、西国王はこれでも東国王よりも20年以上、西国を維持してきたという自負があるのだ。
だから、小心王と呼ばれるのは100歩譲って認めるにしても、小心愚王と呼ばれる事は我慢ならなかった。
「...隣国の脅威もなく、何不自由なく育ってきたお前さんには分からんだろうが、
小心者だからこそ、今まで帝国とやり過ごすことができた事も事実なのだよ。
何なら、我が国とお主の東国を入れ替えてくれんかの?
粗雑なお前さんでは数日と持たんのではないか?東の粗雑王よ。
いや、粗雑愚王の方が正しいか。」
「てめぇ...オレも粗雑愚王だとぉ?!」
「事実であろう?」
「まぁまぁ、東国王よ!!売り言葉に買い言葉なのである!!
それに、その程度の言葉で切れていては腹芸はできん!!」
「...そういうお前が一番腹芸ができなくて一番喧嘩っ早いんじゃねぇか、南の脳筋王...」
「...東国王よ、お主、我にも喧嘩を売るつもりであるか?!」
「ほら切れた...お前さんにだけは言われたくねぇよ...」
...駄目だ、危機感が無さ過ぎる...
北国王は、西国、東国に次いで南国まで喧嘩腰でいがみ合いを始めた事に眩暈を覚えた。
中央国がなくなるからこそ、我等4国が連携を取り合い、団結していかなければならないのに、
その我等がこの場でいがみ合っていては、我々が滅びるのも時間の問題なのだ。
「いい加減にせい!!そんなだから、我も含めて愚王四衆と呼ばれ、
中央国の賢王が居るからやっていける愚王と揶揄されるのだ!!
...もう、中央国を頼って自分等の国を維持する方策は取れんのだ...
...愚王なりに、自分達の国を、民を導かねばならんのだ...」
「...北の日和見王に諫められては愚王であると認めざるを得んのぉ...」
「何はともあれだ!!もう最終段階だ、腹を括れや!!」
「そうだのぉ...これからどうするかのぉ...」
「なぁに!!何かあれば我らが支援する故、心配無用であろう!!」
「そう簡単に済めばいいが...明日は我が身とならん事を祈るばかりだ...」
結局、この話し合いは、お互いの愚かさを見せつけ合うだけの場となってしまい、お互いの親睦を深める処か、
むしろ、お互いの溝を深める結果となってしまった。