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数時間後、我が国の城下に隣国の兵が攻め入ってきた。
執務室の窓から見える、壊されていく城壁...街並み...
ほんの数時間前まで、我が国の民は不自由なく、幸せな笑顔で暮らしていた。
それが...それが...
城下は火矢を撃たれて焼かれ、民たちは逃げ惑っている。
何故だ...何故だ...
将軍や宰相は、我が国の兵士達に指示をし、我が国の民を護る為に動いていたが、私は呆然としたまま、我が国が火に焼かれていく様を呆然と見ている事しかできなかった。
「東国よ、何故...何故、我が国を滅ぼそうとするのだ...」
「西国よ、何故...何故、我が国を焼くのだ...」
「南国よ、何故...何故、我が国の民を追い立てるのだ...」
「北国よ、何故...何故、我が国の民を焼くのだ...」
火が、我が国を滅ぼそうとしている...
火が、我が国を焼いていく...
火が、我が国の民を追い立てる...
火が、我が国の民を焼いていく...
いつしか、今まで感じた事のない感情が我が身に宿り、執務室の窓を掴み、自分の声と思えぬ声で叫んでいた。
「火よ!!何故、我が国を滅ぼそうとしているのだ!!」
「火よ!!何故、我が国を焼くのだ!!」
「火よ!!何故、我が国の民を追い立てるのだ!!」
「火よ!!何故、我が国の民を焼くのだ!!」
その感情は、まぎれもない、憤怒の感情であった。
「火よ!!火よ!!答えよ!!何故だ!!」
「火よ!!火よ!!」
「火よ!!火よ!!答えよ!!」
王が初めて見せる、憤怒の感情に囚われて叫ぶ姿に、周りに居た者達も驚きの目を向けるが、
それでも、思いは同じであるかのように、王の見る先を見ながら、自分の無力さにただただ、歯を食いしばるのみであった。
「...将軍、一人でも多くの民を国外へ逃がす為、兵を率いて出てくれぬか?
私も、文官を指揮し、兵達の後方支援を行なう。」
「...宰相、承った。我らが民を守護するのが我等の使命なれば、否応はない。
後方支援を頼む。」
宰相と将軍は互いの顔を見て頷く。
「近衛騎士団長、王を頼む。」
「将軍、承りました。それこそが我が使命なれば。
近衛騎士団の団員は全て、将軍の指揮下に入るように伝令いたします。」
「済まない...いざという時は、王だけでも逃げ延びる様...」
「...分かっています。」
宰相と将軍は、王と近衛騎士団長を執務室に残し、去っていった。
民を護る為、王を護る為に。