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極北国が報告を受ける数日前、西国の西にある帝国の兵士が国境の城に集結していた。
その数5,000名、さしもの帝国も報告を受けて2日で送る事ができる兵士の数はこれが限界だった。
本来であれば、この2倍、いや、2.5倍の15,000名は用意したい所である。
何故ならば...
慌ただしく、近衛騎士団の団員が執務室に入ってくる。
「報告いたします!!西国国境に異様な軍勢が終結しております!!その数500!!」
伺いを立てず現れ、いきなり報告を告げようとするのは、王族に対して幾らか無礼ではあるが、帝国の教育として、
『礼儀を尽くすよりも重要な事であれば、礼儀よりも報告を優先せよ』
という言葉がある。
これにより、上の者は、礼儀を尽くせない程の問題が発生していると判断し、報告の内容を優先課題として解決に勤しむという文化があるのだ。
礼儀を尽くせるのであれば後回しでもよい、しかし、礼儀が尽くせないなら、それは国家の存亡にか関わる問題なのである。
勿論、報告の前にある程度の確認を行なっている。
その上でのこの報告なのであれば、それは危急を要するという事である。
帝国の王太子はその報告を受け、冷静に判断する。
「ふむ...500という数ならば、国境騎士団で充分なのではないかね?
それでも危急を要するという事は、それ程に異様な軍勢と言う事かな?」
次期帝国の王となる王太子は、弱冠26歳という年齢ながら、国王の下で国王の補佐として執務を行ないながら、帝国の王となる為の礎をしっかりと築いている。
それだけ、現国王との信頼が厚く、時期帝国の王としても申し分ない程の知力と部下達からの信頼を得ていた。
だからこそ、危急の件は最初に王太子に報告し、その後王太子から現国王へ報告する事で、危急の件を迅速に対応する事ができる。
「はい!!信じられない事ですが...西国に集結している軍勢は、全て鎧を纏った骸骨でして...
そして...その先頭には、中央国の将軍と思しき者が...
また、集結してこちらに対して睨みを利かせている状態ではありますが、こちらに攻め入る様子はありません!!」
「...は?鎧を纏った骸骨だと?...流石にそれは...何かの間違いではないのかね?
それに...中央国の将軍は、数日前に南国王に首を刎ねられたと報告を受けているが?
睨みを利かせていると言うことは、こちらの出方を見ているという事か...」
「鎧を纏った骸骨に関しては、私がこの目で実際に見たので間違いありません!!
中央国の将軍も、私は以前対談しています!!青白い肌ではありましたが、あの顔は間違いなく中央国の将軍でした!!
中央国王は平和を望むものであり、中央国の将軍は中央国王の信厚く、また、武人でありながら、武力行使を極力避ける者でした。
あの者がいきなり攻撃を仕掛ける事はないかと。」
「ふむ...其方は西国国境騎士の副団長であったか...これは判断に悩むな...
次期宰相候補、どう思うね?」
「...はい...帝国の信厚き国境騎士団の団長が、副騎士団長を送る程の問題です。
ですが、あまりにも荒唐無稽でどう判断したらいいか...
しかし、それだけに危急であるという事、その目で見るのがやはり妥当かと...」
「...やはりそうであるな...
然らば、私が直接西国国境に出向き、状況を見定める!!
西国国境へ向かう準備を始めよ!!私は父王へ報告を行なう!!」
王太子が前線に立つ、それは普通に考えれば、余程の勝ち戦であり、更に安全が確保されている状態でなければあり得ない話である。
しかし、帝国の王太子と言えど、まだ国王ではない。
それに、第二王子も第三王子も国王の下で執務を行なっており、例え自身に問題が発生したとしても、
充分に帝国は成り立つ。
ならば、自身で出向く事に何の不都合もない。
そうして、王太子は現国王への報告に向かうのであった。
「申し上げます。王よ。
現在、西国国境に異様な軍勢が終結し、こちらに睨みを利かせているとの報告がありました。
また、先日亡くなったと報告があった、中央国将軍がその軍勢の前に立っているとの事です。
あまりにも荒唐無稽な報告ではありますが、危急の件であり、判断に悩む面が多々ある為、
私が直接出向き、確認を行なおうと思います。」
「兄上!!王太子たる兄上が直接出向かずとも、私が!!」
「いえ!!、王太子兄上、第二王子兄上、私が代わりに向かいます!!」
「第二王子、第三王子、ありがとう。
しかし、今回は色々と判断に悩む事なのでね。私が直接行く事とするよ。」
「兄上...それはどういった...」
王太子は今すぐに国王となっても問題ない程の者であり、通常であれば、帝位争いがあっても当然なのであろうが、
第二王子も第三王子も王太子たる兄を慕っており、王太子も、自身に何かがあれば弟達に任せればよい、と思える程に第二王子も第三王子も優秀であり、互いの信頼関係を築いていた。
「報告では、鎧を纏った骸骨の軍勢と、亡くなった筈の中央国将軍であるそうだ。」
「そんな!!骸骨が動くなど!!それに亡くなった筈の中央国将軍が現れるなど!!」
「あり得ません!!これは罠では!!王太子兄上に何かあったら...私は...私は!!」
「そうです!!そんな場所に兄上を向かわせる訳には!!」
「第二王子、第三王子、ありがとう。しかし、だからこそ、王太子たる私が出向くのだ。」
「いえ!!ならばこそ、私が!!」
「いえ、第二王子兄上!!ここは末弟たる私が!!」
報告を受けながら、帝国国王は思った。
私が今亡くなっても、この者達であれば、この帝国を今以上に発展させ、盛り上げてくれるであろう。
王太子、第二王子、第三王子、皆賢く、強く、部下の信も厚く、それにお互いを思う者達である。
ならば、自身が動く事に何の問題もない。
「...報告、然と受けた。
お前達が賢く強く、互いに信頼関係を築いた事を嬉しく思う。
ならば、後顧の憂いはない。
私が西国国境へ出向く事としようではないか。」
「国王!!いえ、父上、それはいけません!!
ここは私が!!」
「いえ!!ここは私が!!」
「いえいえ!!ここは私が!!」
最初は王太子が出向くという報告と共に、出立する筈であった。
しかし、第二王子と第三王子、更に国王まで出向くと言い出し、違う意味で混沌とする事となった。
帝国国王、王太子、第二王子、第三王子、皆一様に知力も武勇も優秀であり、部下の信も厚く、国民からも慕われた存在である。
しかし...帝国王族の血筋か、何故か血気盛んで、争いとあれば我先に...という行動を取る。
結果として、帝国国王や王太子が亡くなる事も少なくはなかった為に、王族はしっかりとした教育を受けており、
誰が次期王として即位しても成り立つようになる文化が発達したのだった。
国王が前線に立つからこそ信が厚い、しかし、亡くなるリスクも高い。
その危ういバランスの中でも、帝国が帝国として強国であり続けるのは、しっかりとした教育と信頼関係の賜物であった。
帝国国王の横に居た宰相は目を伏せて頭を振りながら思った。『またか...』と...
帝国の王族は、確かに、皆賢く、強く、部下の信も厚く、それにお互いを思う者達である。
勿論、宰相である自身も、帝国国王を、王族を敬愛する者である。
だが、だからこそ、思うのだ。『もう少し、せめて、帝国国王だけでも、血気盛んである面が収まってくれないだろうか...』と...
「...いい加減にせんか~!!馬鹿王族共が~!!
特に国王!!もう少し自身の身の上を理解した発言と行動をしろ~!!」
宰相の剣幕に帝国国王、王太子、第二王子、第三王子がたじろぐ。
そして、紆余曲折あり、最終的には当初の予定通り、王太子が西国国境へ向かう事となった。




