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「何と...何という事だ...」
中央国の前に設けた隣国4国の陣地の中で火の手が上がった事に気付き、そちらに向かうと、
漆黒の衣服を纏い、漆黒の衣服を纏い頭に王冠を乗せた、全身から炎を発する骸骨が、
南国王の顔を鷲掴みして持ち上げていた。
「あれが...あの慈悲深き賢王の...中央国王の姿だと言うのか...」
「...私達が、中央国王をここまで追い詰めてしまったのですね...」
南国王が、中央国王の身体から噴き出した炎に包まれる。
「...まだ...まだ言葉は通じる...異形となれど、中央国王は、まだ我々の言葉を聞きうけていただいている。」
「...そうですね...覚悟を決めて誠心誠意謝罪し、我等の国を滅ぼす事だけは思い止まっていたかねば...」
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「中央国王様」
炎で焼かれ続ける南国王を見ている所に、背後から私を呼ぶ者の声が聞こえる。
「...北国王...」
「謹んで、謝罪申し上げます。」
「...西国王...」
いつの間にか、北国王と西国王が私の背後に平伏していた。
「...今更であるな...それで、此度の仕打ちの理由は?」
私は、北国王と西国王に向き直り、答えを促す。
「...唯々、我々隣国4王が愚者であった、唯それだけの事ございます...」
「東国の粗雑愚王、南国の脳筋愚王、北国の日和見王、この私、西国の小心者愚王...
まさに、我々がそう呼ばれて然るべき愚者であったのです...」
「...」
中央国王は続きを促すかのように沈黙し、次の言葉を待ち続けた。
詳細を話すべきであると認識した北国王と西国王が話を続ける事とした。
「発端は、東国王の対抗意識による中央国王様への嫉妬...
南国王は東国王に乗せられたように見せかけ、手柄を横取りをする考えのようでした...」
「中央国王様がご存じの通り、私と北国王は、東国王と南国王と違い、武勇はありません。
話に乗らねば、中央国を滅ぼした後、次は我々の国だと...」
「既に、最北国の脅威に晒されている北国、帝国の脅威に晒されている西国...
結局...私と西国王は、東国王と南国王に乗らねば我が国が滅びる可能性を示唆されては、
我が国の為にも乗るしか無かったのです...」
北国王と西国王が詳細を説明した後、長い沈黙が訪れた。
1分か5分か、いや、もしかしたらほんの数秒であったのかも知れない。
しかし、重苦しい空気が漂っていたその場では誰一人として言葉を紡ぐ事はせず、中央国王の言を待つのみであった。
「...そうか...我が国は、お前達の醜い嫉妬により滅ぼされたのか...
して、此度の事、どう収める考えであるか?」
「我々、北国王、西国王、南国王、東国王の命を持ちまして、中央国王様への贖罪といたします。」
「勿論、中央国の復興の為の支援を惜しむ事なく行なう事を約束いたします。」
「...ほう?お前達は自身の命は惜しくはないと?」
「我々、北国と西国は、常に隣国の強国の脅威に晒されております。
国王となった時点で、我が命は我が国を護る為のものです。」
「唯々、我々の祖国を滅ぼす事だけは、どうか、どうか、伏してご容赦頂きますよう、お願い申し上げます。」
「...南国王と違い、お前達は真の王であるな。だからこそ、私も、お前達には敬意を持って接してきた。
それが...それが...その様な相手から、このような仕打ちを受けるとは夢には思わなんだ...」
「それに関しては、伏して、伏して謝罪を申し上げます。」
「どうか、我々隣国4王の命を持って、怒りをお納めいただき、我々の祖国を滅ぼす事だけは、
どうか、どうか、思い止まってくださいませんでしょうか...」
北国王と西国王はそこまで言った所で、頭を地に着け、深く、深く平伏した。
中央国王は、北国王と西国王の言に、嘘偽りがあるとは思わなかった。
腹に一物を抱えるのはどの国の王でも同じではあるが、それでも、強国から自身の国を守り続けた北国王と西国王には、
自身が嘘を言っていい時といけない時を充分に理解できているという評価を下している。
「...全く以て、嘆かわしい事であるな...
そこまで理解していながら、そこまでの覚悟を持っていながら、このような愚行を犯すのであるから...
何故、このような結果となる前に、私を頼ってくれなかったのか...
私は、お前達にとって、信頼できぬものであったのか?」
「...返す言葉もありませぬ...」
「...唯々、我が行ないを恥じるばかりでございます...」
北国王と西国王は、再び、頭を地に着け、深く、深く平伏した。
「私としては、お前達隣国4王の命で矛を納める事も吝かではない。」
「あ...ありがとうございます!!」
「中央国王様の慈悲に感謝いたします!!」
国が滅ぼされる事は許される、その事に喜び、顔を上げる。
「しかし...我が国の民達はどうであるか...」
そう言い中央国王は、中央国の方を見遣る。
「...は?」
中央国の国民は全て殺害され、生き残りはいない筈である。
「そ...それは、どういう...ひっ!!」
中央国王に意味を問おうとした時、それは現れた。
干からびた姿で空を舞う男...
青白い肌をした屈強な男...
首を右腕で抱えた男...
そして、その更に背後には、兵士の格好をした骸骨と、焼け爛れた身体の襤褸を纏った者達が数万体...
「宰相よ、どうであるか?」
干からびた姿で空を舞う男...宰相は言葉を発する事無く、北国王と西国王の後ろに共に平伏していた近衛騎士団長達を指差し...
「うっ...うわぁ!!」
「うぎゃあ!!」
そして、北国王と西国王の後ろに居た騎士団長達は一瞬で炎に包まれた事により、悶え苦しんだ。
「...やはり、そうであるな...
私が許したとて、お前達の身勝手で無残に命を奪われた、中央国3万6千人がお前達を許すまいよ。」
我が国の者達も赦されない。
そう感じた北国王と西国王は、再度、深く、深く平伏し、慈悲を乞う。
「どうかっ!!どうかっ!!我が国の民に慈悲をっ!!」
「平に、平に、ご容赦いただきますよう!!」
「我等が無辜の民の命だけは、ご容赦くださいっ!!」
「...無理であるな...」
「そ...そんな...何故でございますかっ?!中央国の民を虐殺したのは南国王ですぞっ!!」
「そっ...そうでございますっ!!我らが民には罪はございませぬ!!どうか、どうか、我等4王の命だけで怒りをお沈めいただきますよう、平に、平に、お願い申し上げます!!」
自分の命は惜しくはない。自身の命で我が国が救われるのであれば...
しかし、それだけでは、中央国王の、中央国民の怒りが収まる段階は既に超えていたのであった。
「...お前達が我が国に攻め入った時点で、我が国の民の過半数が、お前達の放った火矢によって亡くなっている。」
「そっ...それはっ...」
北国王と西国王は青褪める。
結局、攻め入った時点で、自分達が中央国の無辜の民を虐殺していた事に変わりはない。
ただ、1人で大勢虐殺したか、命令により多数の兵を使って大勢虐殺したか...
大勢虐殺した事に変わりはないのである。
「そういう訳だ。これから、我が国は、隣国4国を滅ぼす事とする。
自身の愚かさを、地獄で悔やむがいい。
...将軍、近衛騎士団長」
中央国王がそう言うと、青白い肌をした屈強な男...将軍が北国王の前に立ち、
首を右腕で抱えた男...近衛騎士団長が西国王の前に立つ。
「...言い残す事はないか?」
「...唯々、我等が愚かでした....」
「...謹んで、謝罪申し上げます...」
自身の前に立つ、将軍と近衛騎士団長の姿に覚悟を決めた北国王と西国王は、中央国王へ、最後の謝罪の言を述べた。
「首を刎ねよ。」
中央国王は、淡々と何の感情もない言葉で、北国王と西国王の首を刎ねるように告げた。
こうして、隣国4国の運命は決した。




