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匂い

作者: いたみ

「学校。やだなあ」

いつも通りの通学路を徒歩で登校する。今日の朝は悲惨だったなあ、ああでも相変わらずか。

ママの階段をどすどす駆け上る音。僕の名前を呼ぶ。僕は起きない。体を揺さぶるママ。だがそれでも起きない。ついには体を強くたたき始める。ようやく僕は体を起こす。

「今日の朝ごはんなに?」

「焼きそば」

「ええ、またあ、、」

全然うれしくない一昨日のフレンチトーストがいいのに。でもそんなこと口に出して言えない。

「この焼きそばはちみつかけたらおいしい?」

「何言ってるの。寝ぼけてないで早く準備しなさい。」

僕の通う学校は町にある学校の中でもかなり田舎のはずれたところにある。山はもう見飽きた。

歩いて10分もすると学校につく。コンビニは歩いて30分のくせに。

学校に着いて教室に入る。挨拶もなしに僕は机にカバンを置く。教室の端で僕の所属している野球クラブのチームメイトがクラスメイト何人かで遊ぶ計画を立てている。引き寄せられるように僕はその集団の輪に入る。

「僕も遊びにいってもいい?」

「駄目だよ。定員オーバーだから。僕の家は4人までしか入れないんだ。」

「ああ、そうなんだね。ごめん」

皆には必ず一人ずついやそれ以上友達がいる。なのに僕だけ友達と呼べる存在がいない。なぜ。僕は何かみんなにとって悪いことをしたのだろうか。毎日見る取っ組み合いの光景。誘われない遊びの会話。一日2回するはずのあの挨拶。うらやましかった。だがそんな僕にでも唯一遊ぶクラスメイトがいた。まあそれも親同士が仲が良く、僕ら子供の学年も一緒で時々遊ぶ程度ではあった。

名前は藤田君。学年にクラスが一つしかないから必然的にクラスも一緒だった。今日その藤田君が家に来る。何して遊ぼう。少しワクワクする。いつも通りの日常を終えて家に帰って少し部屋を片付ける。藤田君が来るのは夜の6時だったかな。

「ただいまあ」

ママが帰ってきたみたいだ。

「おかえり」

「今何時?もうそろそろ藤田家が来るだろうからママ準備しないと。なにつくろっかなあ」

「今4時だよお母さん。肉じゃが食べたい」

「材料があるかしら」

来るまでの間何をしようか。パパは仕事があるから夕方5時ごろにならないと帰ってこない。遊び相手がほしい。あそうだ妹がいる。駄目だ喧嘩する。ママとパパに藤田君の前で怒られたくはない。結局積み木をして時間をつぶすことにした。

気づいたらもう5時50分だ。没頭しすぎた積み木を藤田君が来る前に片付ける。部屋を出ると肉じゃがのいい匂いが家中に広がってるのがわかる。

「お母さん!肉じゃが!」

「ふふふ。うれしいでしょ」

「それにもやしのナムルにジャガイモの味噌汁だ!」

「藤田君と食べ物の好みがそっくりだからねえ。地味だけどこれでいいかな?」

「藤田くん家も喜んでくれるだろうし全然大丈夫だよ!」

「あ、パパいたんだ。おかえり」

パパの二の次感が否めない。ごめんパパ。

外から砂利をタイヤが踏みつける音が聞こえる。

「藤田君家だ!」

久しぶりの感覚だ。この感じ。なんていうんだろう胸が高鳴っている。友達が僕にもいたらこんな気分を毎日味わえるのだろうか。

「お邪魔します!」

「どうぞ上がってね」

「久しぶりだねえ、元気だった?藤田家は」

「ええ元気にやってましたよ。宮瀬家は相変わらず元気そうで何より」

談笑している父親たちを傍に僕らは二階へと駆け上がる。藤田家の鼻を料理たちの匂いが刺激する。

「ああ、いい匂い。肉じゃがかしら。酒飲みたい。酒」

「ふふふ。相変わらずよねのん兵衛は」

「のんでる時が一番気持ちいいわ」

「そろそろ降りてきなさーい。ごはんたべないのー?」

母親たちの声が聞こえる。僕らは遊びの続きをしたいのに。

「どうする?降りる?」

「でも藤田君の持ってきたゲームまだやってたいな」

「でも怒られちゃうよ」

「、、、、」

「降りよ」

同時にゆっくり立ち上がる僕ら。下の階へとのそのそ降りていく。

「いただきまあす」

「ああ、ほんと宮瀬んちの料理うまい。あ、おいしいです麗子さん」

「ふふ、礼儀正しいのね春樹君は」

「ありがとうございます」

藤田君の顔が明らかに赤くなっていた。

「顔あっか」

思わず声に出してしまった。

「うるさいなあ」

家中が温かい笑いに包まれる。このままずっとこの空気に包まれていたい。明日が来るのが怖い。僕らは所詮親が仲いいだけの、たったそれだけで遊んでるだけの上辺の関係だと子供ながらに自覚していた。実際前回も遊んだ次の日は他の子と仲良く遊んで僕には一切の関わりもなかった。

夕飯を食べてかなり時間がたった。かなり遊んだ。そろそろ藤田家は帰るらしい。

「今日はほんとにご馳走様でした。それとありがとう」

「いえいえ、また来てね」

「またね。天竺くん。」

「、、、え、またね!」

動揺した。親以外の誰かに下の名前で呼ばれたのは久しぶりだったから。そうか。僕の名前は天竺か。

家には春樹君の微かな柔軟剤の香りが残っている。それと肉じゃがの匂いも。

この小説を読んで下さりありがとうございました。皆さんの心に何か響くものがあれば幸いです。

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