file.28 魔王様もいろいろ
お声掛けにもかかわらず、何の反応も見せてくださらない現魔王様にどのように対応すればよいのか迷った私は、早速行動。
『お久しぶりにございます! フィラフト様! 私です、クインにございます!』
先代魔王様に相談する事にしました。
『やあ、久しぶりだね、クイン。私に連絡をしてきたと言う事は何かがあったと考えていいのかな?』
念話を試みるとすぐに、お優しいフィラフト様は反応をして下さる。
流石は先代魔王様です!
『はっ! しかしながら、此度の件を報告すべきかどうか、未だ考えあぐねている現状もまた、確かでありまして。本来であれば魔王様の秘書である私が解決しなければならない問題である事に間違いはなく、このような事でフィラフト様のお手を──』
『うんうん。いいから早く話しなさい、クイン』
『はっ! この二十日程、ダフティリーズ様が無断欠勤をされておりまして、何事かと思いながら本日居室を訪れたところ返事がなく。どうしたものかと!』
『ふむふむ。──え? それだけかい?』
『はっ! お身体の調子を崩されているのであれば、急ぎ治療を施さなければならないと考えてはおります。ですが、許可を得ぬままに居室の扉を触れるような事は私には出来るはずもなく! 中を確かめる術がない現状です。故に緊急事態と判断して、急ぎフィラフト様に連絡を差し上げた所存です!』
『ふむ。そうか、リズがねえ』
ステファノス様もフィラフト様も、そしてダフティリーズ様も。
いつの時代も魔王様はとても勤勉です。
仕事を任せると言って二,三年何処かへ行かれる事はあっても、無断欠勤をされる事は基本的にありませんでした。
そんな魔王様が何の連絡もなく仕事を休まれるなんて。
きっとそこには、私ごときでは計り知れないような何かがある。
それは間違いないでしょう。
『うーん……。まあ、大体の事は聞いてるから知ってるんだけど』
『やはり! 何か重要な作戦を遂行している最中でしたか!』
遠く離れた人類の生存領域。
そこで命を懸けて潜入調査をされているフィラフト様は、それでもやはりダフティリーズ様との連絡は密に取られていたようで、今回の無断欠勤の理由にも心当たりがあるらしい。
流石でございます、先代魔王様!
『作戦と言うか、なんと言うか……。まあ、勇者が関係しているからこっちも迂闊に動けないんだけど──。さて、どうしたものかな』
勇者。神々が人類と魔族の争いを集結させる為にこの世界に送り込んだとされている、本来この世界に存在するはずの無い異界より来たりし異分子。
その勇者が今回のダフティリーズ様無断欠勤の原因になっている、と?
どういう事なのでしょうか
『ほら、あの子──アナフレクシ君だったかな。先日勇者がうっかり倒しちゃった子がいただろう?』
『はっ! 炎滅のアナフレクシですね! 私が育成した新世代四天王にてリーダーを務めていた好青年でございます』
『うんうん。そのアナフレクシ君──と言うか、四天王の一角を勇者が切り崩しちゃった事で、人族がえらく盛り上がっちゃっていてね。なんでも、今なら魔族領域を制圧できるのではないかとかなんとか言って、世論がめちゃくちゃになってるんだよね、こっち側は』
『なるほど、そのような事になっていたとは。これはいよいよもって、本格的な最終戦争が始まると考えてよさそうですね』
『最終戦争? そんな事にはならないと思うけど──って、あー……、でも、そうか。いや、うん。クインも知っての通り、勇者は厳密には聖王国所属の人族ではなくて、永世中立都市であるスタヴロスに市民権を持っている子でね』
『はっ! フィラフト様の報告書は一言一句記憶しております故、もちろん存じております!』
『うんうん。もちろん、勇者としてもスタヴロスとしても魔族領に攻め込むつもりなど毛頭ないんだけど、聖王国の連中がうるさいみたいで、ちょっと面倒な事になっているみたいでね……。いや、この話はいいか』
『はっ!』
『うん、まあ、とりあえず今はリズの部屋に入る事も許可するから、後はクインの判断に任せるよ』
『その、宜しいのですか? 以前はプライベートを尊重してダフティリーズ様の居室には近寄らないようにと仰られておりましたが』
『三十年くらい前だったかな? 確かに以前はそう言ったけど、リズももうそろそろ大人になるからね。それに、魔王になったからにはしっかり仕事はしてもらわなければならないし、無断欠勤もよくはない』
『なるほど! 確かに無断欠勤は宜しくありません!』
『うん。だから、今後どうするかは二人で話し合って決めるといいよ。心配せずとも、アナフレクシ君も、一緒にやっつけちゃった彼の部下も、スタヴロスで元気にしているから。頃合いを見て解放してもらえるように尽力してみるよ』
『なんと! フィラフト様はそこまで人族の中心部に入り込んでおいででしたか!』
流石は先代魔王様です!
アナフレクシが生きていた事は知っていましたけど、念話が遮断されている空間に幽閉されていたせいで、状況を把握できずにいたのですよね。
そんな未熟な私と違って、魔王様はアナフレクシの所在まで正確に把握していらっしゃるとは!
『お任せ下さい。作戦が決まりましたら、私もアナフレクシ解放作戦に助力し──』
『いや、それはいい。クインがここに来ると色々と変な事になる気がするからね。いいかい? くれぐれも君は魔王城から動かないでくれ。こちらのことはこちらでやるから、クインはまず、リズと話し合って勇者問題をどのようにして解決するかだけを考えるんだ』
『はっ!』
『いいかい? 前にも言ったけど、リズは少し繊細な子だからクインがしっかり支えてあげるんだよ』
フィラフト様との念話はその後も少しだけ続きました。
敬愛すべき御方との会話ほど心躍ることはなく、ダフティリーズ様の居室へ入室する許可まで頂けた事に私の心は舞い上がり、涙を流しながら念話を終えました。




