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file.17 掃き溜めの街


 スタヴロスの街における、自身の序列を思い知らされた私は猛省。


 フィラフト様の為にも、より精確な冒険者の情報を持って帰る為にも。


 大きな者のナウポさんと、細き者のゲイリーさん、そして太き者のデイブさんの三人の先輩冒険者の下で教えを請うこ事になりました。


「生意気な奴だと思ったが、なるほどな……。お前も苦労してるんだな」

「ちょっと言葉遣いがいいからって調子に乗ってるのかとおもっちまったぜ」

「お、おお、おぉ……」


 身奇麗な私はスタヴロスの街で完全に浮いていて、まずは冒険者らしい装いと言うものを学ぶ所から始まり、次に髪型を、その次に言葉遣いを。


 郷に入っては郷に従えとはよく言ったもので、先輩方に教えを請うようになってからは人族との距離がぐっと近くなったように思います。


 御三方に倣ったオラオラ言葉なる喋り方は、今でも気持ちが高ぶった時に時々出てきてしまうように、彼らの教えは私の魂に刻まれているとも言えます。


 やはり印象と言うのは大事なのでしょう。


 魔族のファッションリーダーである魔王様のトータルコーディネートをしている私の価値観と。人族のセンスはまた違う。


 スタヴロスでは、人族について本当に色々な事を学びました。


「そうですか? 俺は主の為に冒険者になりたくてスタヴロスに来ただけであって、別に苦労なんてしてないですけどね」


「馬鹿野郎……。無理しやがって……。いいんだよ。俺達の前では弱音を吐いたってかまやしねぇ」

「ちょっと大変じゃねぇか」

「お、おおぉ………」


「え、スタヴロスってそんなにヤバいんですか?」


「おま……マジでなんも知らんでこんな所に飛ばされたのか?」

「ちょっとヤベェじゃねぇか」

「お、おお!」


「すみません……。全然何も知らないものでして……」


 本当に申し訳ないので、ただただ平身低頭だった私を見兼ねて、御三方は色々な事を教えて下さった。


「ここは……。スタヴロスはよう……。人間の嫌な所が全部流れ着いた、掃き溜めみてぇな街なんだよ」


 スタヴロスの街をぶらぶらと歩きながら、先輩冒険者である大きな者のナウポさんは、ぽつぽつと話し始めた。


「掃き溜めですか、それはスラム街のような?」


「だったら良かっんだがな。……お前も知ってるだろ? あの山を越えたずっと向こうの方に聖都がある事くらいは。てか、クインもあっちの方から来たんだろ?」


「え? ええ……まあ」


 聖都の方角を顎でしゃくりながら話すナウポさんは、少し悲しそうな顔をしていた。


「人間ってのは、結構残酷な生き物でよぉ。自分と違うものは拒絶するし、弱ってる奴がいりゃあ、そいつが死ぬまでたかって食い物にしたり。抵抗しない奴が居れば皆喜んで石を投げて嬲り殺したり。金を持ってりゃあ何やっても大抵の事は許されたりな」


「……確かに、そう言う傾向もありますね」


 魔族の間でも、人間観察はよく行われている。


 なので、そう言う輩がいる事は重々承知しています。


 とは言え、そういう奴は魔族にもいるので、人族だからと言ってもなんとも思わないですが。


「そう言う強い奴らはみーんな聖都に住んで、その次に強い奴らは聖都の周辺に、その次は──ってな、具合にな。そんでまあ、弱い奴は端に端に追いやられてって」


「スタヴロスはその一番端っこの方って事ですか」


「ああ。スタヴロスは殆ど魔族領域みたいなもんだしな。聖王もここは捨て駒くらいにしか思ってねぇよ。その証拠に、ここからちょっと西にすすみゃあ『アラゴ』っつうすげぇ城塞都市があっただろ?」


「すげぇ城塞都市?」


 人族の街にナウポさんが絶賛するほどのすげぇ城塞都市があるのか。


「おめぇだってあっちから来たなら通ってるだろうが! 通り過ぎただけにしてもあんな立派な都市忘れねぇだろ!」


「あ、ああ! ……アレですね!」


 全然知らない。私が来たのは聖都方面では無くて、あっちの魔族領方面ですので……。


「そう、アレな」


 どれだろうか。後で見に行こう。


「んで、そんな御立派な城塞都市の外。最終防衛線とか呼ばれてるアラゴの城塞都市よりも先にあるのがここ──スタヴロスなわけでな」


「なるほど。つまり、ここは」


「……ああ。スタヴロスは魔族や魔物の餌場としての役割くらいしか果たせねぇような、ゴミが送られてくる掃き溜めなんだよ」

 

 スラム街とも違うとはそう言う事か。


「ちょっとやべぇ場所だんだぜ」

「お、おお……」


 それまで黙っていたゲイリーとデイブも、ナウポさんに同意するように静かに言葉を漏らした。


「クインは……まあ、多分、お前はあんまり賢くなさそうだから、よくわかんねぇうちにこんな所に来ちまったんだろうな」

「ちょっと普通じゃねぇ感じするじゃねぇか……」

「お、おお、俺達のエマさんに近寄るな!」


「……なるほど。確かに」


 魔王様に比べて私の頭が悪いのはなんとなく知っていましたが、こうして人族の者に指摘されるレベルだったとは。


「はっ! そんな暗い顔すんなって! スタヴロスはゴミばっかり集まる掃き溜めだが、ゴミにはゴミなりの楽しみ方があるってもんよ! ゴミってのは集まれば結構面倒だったりすっからな! はははは!」

「ちょっとヤバいからって気にすんじゃねぇ!」

「お、おお!!」


 何やらいつの間にか同類に思われてしまっている事に、何とも言えない気持ちになりますが……。


 それはそれとして、日々を先輩と過ごす事でスタヴロスの事や冒険者の事はなんとなくわかってきたように思います。


 スタヴロスと言う街は。人族から不要と切り捨てられた者が最期に流れ着く掃き溜めのゴミ箱。


 冒険者とは、そう言った人族にとって居ても居なくてもどちらでもいいようなゴミが、どうにかこうにかありつける最期の稼業。


 ナウポさん達のように、一撃で俺を殺す事が出来るほどに強い人族であれば話は変わるのでしょうが、多くの人族にとっては最低な場所がここスタヴロス。


 魔族との戦場に出て来る貧弱な人族は、魔族領域のそこら辺を歩いている虫や獣を魔物と呼んで怖がっているくらいです。


 そんな、貧弱な人族にとって、恐怖の対象である魔物とやらを討伐するような仕事しかなく、死ねばそこで終わり、運よく討伐できても、雀の涙ほどの報酬しか貰えない。


 冒険とは名ばかりの夢も希望も、未来すらもない仕事──それが冒険者の正体でした。


 フィラフト様が興味をもたれたが故に、調査を始めた冒険者なる謎の稼業は、残念ながら御方が想像されているようなものではありませんでした。


 私はそれが少し悲しくて、しばらくの間、冒険者にも何か良い所は無いかと必死になって調査をしました。


 フィラフト様が聞きたい話はきっと、こんなくだらないものではなかったはず。


 そう思って、必死になって冒険者の良い所を見つけようと努力したのですが……それでも、知れば知るほど冒険者の悪い所ばかりが目に付くようになりました。


 そうして、私がスタヴロスに滞在するようになってから三年が経過した頃。


 もうこれ以上調べるべき事は何もないと判断して、そろそろ調査報告書の纏めに取り掛かろうとしていたある日──スタヴロスの運命を決定づける出来事が起きた。

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