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file.15 知り合いではないけれど


「つー事で、ようこそ冒険者ギルドスタヴロス支部へ」


 ロクアスに案内された寂れた建物は、冒険者ギルドと呼ばれる組織のスタヴロス支部。


 二階建てのその建物は、昼間は軽食を提供する場所として開かれていて、夜は酒場となるらしいのだが、覇気のない人族がたむろしているだけの辛気臭い場所でした。


「俺はスタヴロス支部でマスターをやってるロクアスだ」


 ロクアスはそのなんとも覇気のない冒険者ギルドの、スタヴロス支部のマスターと呼ばれる役職についた男だった。


 フィラフト様の為に冒険者について調べようと思って、とりあえず魔族領から近いと言う理由だけで訪れた街。


 その街で最初に話し掛けた人間が、まさか冒険者だったとは思いもよらず。


 この時、幸先の良さを感じた私の機嫌は、少しばかり良かった事を覚えている。


「ロクアスか。私はクイン=ア──はい。クインでいいです」


「おう、クインだな。冒険者なんざいつ死ぬかもわかんねぇ稼業だが、これから頼むせ」


 面接らしいものもなく、書類審査も筆記試験もなく。


 ロクアスについて冒険者ギルドに入っただけなのに、どうやら私は既に冒険者になっていたらしい。


「はい、宜しくお願いします。早速ですが、何か指示がありましたら何でもお申し付けください。魔──我が主に比べれば劣るものの、私も一通りの事はこなせるかと」


 当たり前と言えば当たり前ではあるが、この時の私は冒険者について調べに来たばかり。


 その為、冒険者がどう言った稼業なのかを正しく理解しておらず、何をすればよいのかも全くわかっていませんでした。


「あぁ? 指示なんざねぇよ、なんかやるならあっちの掲示板から勝手に選んで受付で話聞いてこい。精々長生き出来るように頑張れや」


 冒険者とは、冒険者ギルドと呼ばれる組織に所属する事で、クエストと呼ばれる仕事を受注する個人事業主の事だったらしいと、そこで初めて認識。


 冒険者と言う名称からして、上司の指示の下で各地を探索する冒険を生業にした稼業だとばかり思い込んでいたので、その瞬間に急激にテンションが下がった事を覚えています。


 私個人としては、冒険者が細々としたクエストをこなす事で糊口を凌ぐ者だろうが、各地を冒険する向こう知らずな馬鹿だろうが、どちらでも良かったのですが──。


「なんだ、これは」


 掲示板に打ち付けられている木片を見た私は、衝撃のあまり言葉を失った。


 ホーンラビットの討伐

 角は別途買い取り


 ゴブリンの討伐

 爪は別途買い取り


 キングスネークの討伐

 牙は別途買い取り


 雑! 全体的に雑!


 掲示板に貼り付けられている木片に書かれている内容は、良く言えばシンプルでわかりやすいと言いかえる事も出来るが、悪く言えば酷く雑。説明が不足し過ぎていた。


「すみません、クエストについていくつかお伺いしたい事が御座いまして……よろしいでしょうか」


 ロクアスは私をギルドに案内した後、早々に建物の奥に引っ込んでしまったので、彼に言われた通り受付の方と詳しい会話をする事になった。


「あ、はい! 大丈夫ですよ!」


 カウンター越しの受付に座っていたのは、まだ幼さの残る顔立ちの人当たりのよい女性で──。


「……いや、待て」


 一見すると可愛らしい少女に見えるその女性は、


「おい、受付の女。いや、何故魔族が人間の街で仕事をしている」


 何処からどう見ても魔族だった。


「なッ!? な、何を、仰られているのか理解しかねますぅ~」


 魔族であることを指摘された瞬間、つい先程まで真っ直ぐこちらを向いていた受付の視線が瞬時に下に向いてしまった


「責めているわけではありません。私は理由を尋ねているだけです」


 瞳に隠蔽魔術を施して魔眼の陣を隠して、その上から更に身体全体に隠蔽魔術を施している点は悪くない。


 魔術の二重付与は少し維持が面倒なので、あまりやろうとする者は居ないのだが、中々器用に魔術を成立させている所を見るに、魔力操作が得意なのかもしれない。


 だけど、私を相手に隠蔽魔術は意味をなさない。


「いえいえ! 私の事が気になるからと言ってそのような口説かれ方は困りますぅ」


 こちらの言葉を否定して、尚もしらばっくれようとする女の警戒心は、大したものではあるがしかし、魔術はより高い魔力を持つ者の前では意味を為さないので、私の眼には目の前の女の瞳の陣ハッキリと見て取れる。


 どれだけ巧妙に術式を構築しようが、百の魔力しか持たぬ者が構築した術式など、億を超える魔力を持つ者が近寄るだけで簡単に剥がれ落ちて、呆気なく看破されてしまう。


 魔術とはそう言うもの。


「そう構える事はありません。──この通り、私も魔族ですから」


「う、そ……? 今のはまさか、変質? あなた、魔眼を変質させたの?!」


「しっ……。声が大きいですよ。お互い出来る事なら知られたくないでしょう?」


 そう言って、私は目の前の魔族の女性の唇をそっと指で押さえた。


 隠蔽魔術は表面を偽るだけに過ぎないので、魔術効果を強制的に無効化されたりすると一発で看破されてしまう事がある。


 たとえば、聖都に展開されている聖王結界など。


 魔力が乏しく魔族と同じ様な魔術が扱えない人族は、対魔族用の決戦術式をいくつか発明していて、その中の一つに魔術を無効化する結界もある。


 故に、万が一にでもそんな結界を踏み抜いた時、隠蔽魔術は簡単に解除されてしまう。

 

 そうなると少し面倒くさい事になると思った私は、自らの魔眼を人族と全く同じものに『変質』させておいた。


 変質は『物質A』を別の『物質B』へと変化させる魔術。


 大変に便利なので私は多用していますが、変質の魔術は基本的に不可逆とされています。


 一度変質させた物質は、それそのものが全く別の性質を持つモノになってしまう為、たとえ元に戻そうにも二度同じものに戻る事はない。


 と、されている。基本的には。


「は、はい」


「そう心配そうな顔をなさらずとも、私は少し魔術が得意ですので、魔眼の変質程度いくらでも元に戻せます」


「そ、そんな芸当、かなり上位の──」


「お互いに素性の詮索はやめておきましょう。貴女は貴女で何らかの目的の下にこの街で働いておられるのでしょう。私は私で、主の為に冒険者にならなければならないのです」


「わ、わか──畏まりました……」


 そんなに怯えずとも、本当に何もしないのですが、受付の女性は何を考えているのか、完全に怯えきってしまっていた。


「そんな顔をなさらず。ここでは貴女は受付で、そして私の先輩です。私はただの冒険者であり後輩です。どうか堂々としていてくださると、こちらとしても助か──」


 しかし。こちらに害意はないのでどうにかして落ち着いて貰おうと考えた私が、スタヴロスで生活を送る先輩魔族の女性に、つとめて優しく対応していた、その時。


「おいおいおい兄ちゃん……? エマちゃんが嫌がってんのがわかんねぇのか?」

「ちょっと顔がいいからって調子乗ってんじゃねぇぞ? あぁん?」

「お、おお、俺達のエマちゃん近寄るな!!」


 先程から後ろの方で何やら喋っていた、恐らくは先輩冒険者であろう人間、大きいのと、細いのと、太いのが、いきなり会話に割り込んで来た。

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