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file.14 スタヴロスにようこそ


 あれは、そう。私が冒険者になった街の名は──。


 先代魔王フィラフト様との懐かしいやり取りを思い出していると、私の内から溢れ出した魔王様への忠誠心が再び、無意識に記憶投影魔術を発現させる。


 目の前には遠い過去の映像が映し出されていた。


 スタヴロス。


 今日では対魔族戦における要として魔族領域の最前線に位置する街。


 神々が遣わした勇者も、城塞都市スタヴロスを拠点として日々魔族領域への侵攻をしているように、正しく人類にとっての最前線として今尚も急速に発展を遂げている街。


 しかし、人類の要、人族と魔族の戦争における最前線にして最終防衛線と呼ばれる城塞都市スタヴロスは、実の所……どの国家にも属してはいない。


 スタヴロスは人族の味方と言うわけでは無ければ、魔族の味方だと言うわけでもない。


 スタヴロスは誰にも縛られず、さりとて誰をも縛らず。

 汝、冒険を謳歌せよ、汝、己の正義を邁進せよ。

 冒険を妨げる者はこれを許さず、

 正義を冒す者はこれを許すなかれ。

 我等スタヴロス 我等白銀兵団

 白銀の名を恐れぬ愚かなる者に裁きの鉄槌を下す者。


 この世界で唯一、人と魔が入り乱れて生活しているスタヴロスには、人族にも魔族にもない独特な価値観と理念が根付いている。


 そして、その理念を体現すべく結成されたとされている『白銀兵団』と呼ばれる人魔混交のスタヴロスの軍は、この世界で適う者なき比類なき強さを持つ。


 しかし、今でこそ魔族に対する鉄壁の要塞としての役割を担っているスタヴロスも、ほんの百年ほど前までは何処にでもある小さな街でしかなかった。


 そこに、一人の男が訪れるまでは──。


「申し訳ございません。冒険者になりたいのですが、どちらで手続きをすれば良いのでしょうか?」


「ああ? 旅の者か? えらい綺麗な顔したにいちゃんだな……何処かの貴族様かい?」


「ええ、まあ、そんなところです」


 フィラフト様の為に冒険者なる稼業を調べる事にした私は、早速近隣の人族の街を訪ねていた。


 その昔、聖都に転移した際にクレーマー扱いされてしまった私は、猛省。


 今回は魔王城から遥々二年かけて、徒歩で人族の街に到着した。


 道中、反魔王様を掲げる構造改革に異を唱える愚劣極まる輩を粛清しながらだったこともあり、少しばかり時間がかかってしまいました。


「わりぃ事は言わねえ、冒険者なんかやめときな」


「いえいえ。やめるやめないではなく、冒険者になる方法をお聞きしているのです」


 しかしながら、ようやく到着した人族の街は、お世辞にも住みやすそうには見えず。


 街は汚れ、路上では昼間から酒を飲み、管を巻く者が多数見受けられ、少し路地裏に入れば不老児らしきもの達が死んだ目を向けてくる。


 誰を見ても私の視線から逃げるようにして姿を隠してしまうので、仕方なしにその変にいたおじさんに話し掛ける事にした。


 街の規模こそそう悪いものでは無いと思って遥々徒歩で来たのだが、初めて訪れた聖都以外の人族の街は正直しょぼかった。


「なんだぁ? こっちは忠告してやってんだぞ?」


「忠告は受け取りましたが、そうではなく冒険者のなり方を聞いておりまして……。いえ、ご存知ないのであれば他をあたらせて頂きます。ありがとうございました」


 人族は違う物を恐れ、苛烈なまでに迫害する傾向がある。


 前回聖都に行った際、パン屋の店主が焼きそばパンを売ってくれなかったのは、何も私の入店方法が悪かったからと言うだけの理由ではないのでしょう。


 或いは、この身が魔族であるが故の販売拒否だったのではないかと考えた私は、今回の潜入調査を人族に変装して行う事に。


「知っとるわ! ……ったく、頑固なにいちゃんだな。その身なりからして、どっかいいトコのボンボンだろうに、なんだって冒険者なんかに興味があんだ?」


 人族と魔族の違いは、そうたいしたものではない。


 そもそも、元来、魔族とは単に魔力が多い人族のことを指した言葉でしかありません。


 しかし、魔力が多いと言う事はつまり魔術が沢山使えると言う事で……今のように文明が発展していなかった古の時代において、それは最大限のアドバンテージダッと言えましょう。


 魔力の強い者は特権階級に、魔力の弱い者は被差別階級に。


 高い魔力を持つ魔族と、ほとんど魔力を持たない人族との争いはそのような格差社会を是正する為に始まったものであると、魔王様に聞いた事がある。


「魔──我が主が冒険に興味を持っておられまして、私が代理として冒険者になる事になりました」


「はぁ〜……。金持ちってのはよくわからん生き物だな」


 もちろん、魔族と人族の違いはそれだけではなく、身体的な特徴でも見分ける事が出来る。


 魔族は全て魔眼を持って生まれてくるので、瞳になんらかの陣が描かれている。


 そんな魔族に対して、魔力が著しく少ない人族は魔眼を持って生まれる事はないので、その瞳には何の陣も描かれていない。


 哀れな事に、人と魔は目を合わすだけで判別出来てしまう。


 魔眼の陣を持たぬ可哀想な生き物、魔力をほとんど持たない哀れな生き物、それが人族。


「……ま、いいか。いいぜ、ついてきな。冒険者になれる場所を案内してやるよ」


 スタヴロスの街で私が最初に話し掛けた男。


 ロクアスと言う名の男とは、それから暫く縁が続いた。

いつになったら魔王様のお部屋に入るのでしょうね!

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