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file.12 伝説の聖騎士


 人類であれば恐らく誰もが知っているであろう偉人。


 聖騎士パトリオット。


 その辺を歩いている野良犬や野良猫ですら『聖騎士とは誰か』と聞かれたらワンニャー言う事なく『それはパトリオットである』と鳴いて答えるのではないか……と思える程に、人類にとってあまりにも偉大すぎる存在。


 元より正義感の強い性格であった彼は、幼少期より数々の戦いにその身を置き、20歳になる頃には聖王騎士団の団長と言う人類最強の守護者の地位にまで上り詰めた。


 何よりも人を信じ、誰よりも人を愛し……そして彼は魔族すらも許そうとした。


 当時は魔族に情けをかけるパトリオットに疑問を持つ者も少なくはなかった。


 敵は殺す者であり、魔族とは殺さなければならない悪しき存在であると、誰もが信じて疑わなかったからだ。


 しかし、そんな思想が蔓延る人類の中にあっても、唯一パトリオットだけは魔族との対話の可能性を信じ続けていた。


『意思疎通が出来るのであれば対話を試みるべきである』


 人類の中で誰よりも強く、人類の中で誰よりも魔族との戦いにその身を投じてきた男は、誰からも理解されぬ理想を掲げ……。


 そして、そのあまりにも馬鹿げた思想故に、徐々に立場を悪くしていき……いよいよ聖導教会による異端審問にかけられるのではないかと言う、正にその時だった。


 ≪超越魔王聖都防衛戦≫

 

 三百年も過去の出来事故に、今では記録にのみ語られる想像を絶する戦いが聖都で勃発した。


 曰く、その魔王は白銀の髪である。

 曰く、その魔王は執事服のような衣装を身に纏っている。

 曰く、その魔王は表舞台に決して現れる事が無い。

 曰く、その魔王は他の魔王と隔絶した強さをもった魔王である。

 曰く、その魔王は死を超越した存在である。


 その魔王はある日突然現れた。


 それも、魔族であれば何人も入り込む事が叶わぬはずの幾重もの聖王結界が張り巡らされている聖都に、まるでそれが当たり前であるかのように現れたのだと言う。


 それまでも魔王と自称する個体は数あれど、結界を打ち破れるほどの者はただの1人もおらず。


 魔族の王であっても例外なく弾く無敵の聖王結界の中に、忽然と姿を現した。


『ふはははは! 我こそは死を超越せし真なる魔王也!』


 突如聖都に現れた超越魔王は、その言葉の通りありとあらゆる攻撃がまるで効かなかった。


 誉れ高き第一魔王師団による業火炎熱も、三百年以上の過去とは言え聖都の錬金術師たちが身命を賭して作り上げた魔導砲による攻撃も……弓、槍も、殴打も。


 超越魔王にはその全てが通じる事はなかったと言う。


 千の魔術師による攻撃をその身に受けようとも。


『ふははは! 効かぬ効かぬ!』


 千の魔導砲による攻撃をその身に受けようとも。


『ふははは! 今、何かしたのか?』


 千の槍で刺されようとも、千の矢で射られようとも。


『効かぬ効かぬ! 貴様らは今日をもってここで死ぬ運命さだめにある!』


 数千人からなる人類最強の集団、聖王騎士団の攻撃はまるで歯が立たず。


 ただ1人の魔王、真なる魔王、超越魔王の手によって、聖都は見るも無残に崩壊。


 陥落まで秒読みと言う段階に入ったと言う。


 誰もが人類の未来を諦め、誰もが生きる希望を失くしかけたその時──。


『来い! 死を超越せし真なる魔王よ! 貴様が死なぬと言うのなら、私もまた貴様が死ぬまでは決して死にはしない!』


 誰もが人類の敗北を受け入れていたその戦場でただ一人、パトリオットだけが立ち上がった。


『……ほう?』


 それまで人になどまるで興味を示さなかった超越魔王は、その時初めて驚いた表情をみせたと言う。


『人は……人類は……決して負けはしない! 私の意思だけは死しても不滅である!』


 人の守護者でありながら魔族との対話の可能性を信じた異端なる男パトリオットは、周囲の誰からも理解されずとも、それでも唯一人で決して敵うはずのない超越魔王に挑んだ。


『な、なんという強き意志だ……! 身体が崩れていく…!?』


 確かに、超越魔王に攻撃による弱点はなかった。


 しかし、弱点は確かにあったのだ。


『人の紡いできた歴史を……託された夢を……残された希望を……人の力を思い知れ! 魔王!』


『ぐわああああああ! 何と言う強さ──っ! こ、これが人の意志の力だとでもいうのか!?』


 あらゆる攻撃が効かない死を超越魔王は、パトリオットの持つ穢れ無き高潔な心にだけはどうしても勝てなかったのだと言う。


 パトリオットから溢れ出る高潔なる魂の輝きに、無敵に想われた超越魔王はたじろぎ、息も絶え絶えになった。


『み、認めよう……。貴様が俺のライバルであることを……』


 もはや勝負はあった。その場にいた誰もがそう思った。


 パトリオットが止めを刺して長きに渡るこの戦いは遂に終わるのだと、しかし──。


『もうよい、魔王よ。……これは私からの提案なのだが、此度はどうか鉾を収めては貰えないだうか?』


『……この我を、見逃す、と言うのか?』


 あろうことか、パトリオットは目の前の魔王との対話を試みたのだ。


 誰もがあり得ないと思ったと言う。誰もがパトリオットを内心で罵倒したと言う。


 しかし、結果的にはこれが正解だったと後の世になって人々は知る事となった。


『……ふっ。我が宿命のライバル、パトリオットよ。……見ての通り私はしばらく動くことも出来そうにない』


 パトリオットの高潔なる魂に触れた超越魔王が何を思ったのか、その後パトリオットが亡くなるまでの約50年の間、魔族と人間による大きな衝突はなかった。


 誰にも理解されることのなかった男の心だけが、唯一、死を超越した無敵の魔王を打ち倒したのだった。


 歴史上、超越魔王が表舞台に姿を現したのはこの戦いの一度きり。


 今ではもう、その生死を確認する術はないが、例え生きていたとしても、聖騎士パトリオットの心に触れた彼の魔王が人類に勝てる日は決して来ないであろう事は断言できる。


 何故なら、今では我ら聖王騎士団の誰もが皆、聖騎士パトリオットと同じ志を胸に生きているのだから。


 聖王騎士団現団長、パトリシア=セラスの手記より一部抜粋。

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