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file.11 永遠のライバル


『──それで私は参りました、と』


『ははは! なんだそりゃ! クインも結構バカじゃん!』


 あれ程までに離れていた私とステファノス様の距離は、皮肉にも私が死ぬ直前になってぐっと縮まったように思います。


 念話は一瞬だったような気もするし、何時間も続いたような気もします。


 念話の最中はなんとなく周囲が騒がしいような気ましたが、マルチタスクが苦手な私は敬愛すべきステファノス様との最期の会話に集中する為、ぎゅっと瞼を閉じていて周囲の事は何も記憶できていませんでした。


 死ぬのが怖かったので、見ないようにしていたとも言います。


 《ええい!! 何故だ!! 何故攻撃が通らん!!!》

 《槍も弓も素手も、何もかもが効かないとは………》

 《しかし、あらゆる全てを無効化する結界などありえません》


『ええまあ……私は少々変わっていると魔王様もよく仰られていますので。或いはバカと言う指摘も正しいかと……』


 《全てを遮断する結界は理論上存在しますが、全てを遮断すると言う事は世界との断絶を意味する》

 《それはつまり、死を意味する。そんな事は知っている。だからこそ、何かしらの世界との繋がりが……。弱点がないかと探っているのではないか!》


『クイン、俺さ……。将来やりたい事があるんだ……』


 《いや……!! ……待て。そんな、はずは》

 《パトリオット様……? 何かお気づきになられたのですか?!》


『ステファノス様であればどのような事も可能でございます』


 《だがしかし……そんなことが……有り得るのか?》


『はは、まだ何も逝ってねぇのに適当な奴だな、全く……』


『適当では御座いません。ステファノス様が望むのであれば、それが如何なる事であっても必ず実現すると信じているだけです』


『そうか……そう、だな』


 《もし仮に。仮に、だ》


『言葉にすればそれはやがて行動に表れ……そして、行動はやがて貴方様の未来に繋がります。やりたい事があると仰られたその瞬間にステファノス様はもう歩きだしており、貴方様が歩き出されたのであれば、その先が必ずや栄光と言う名の未来に通じている。私はそれを確信しているだけでございます』


 《死を……。死を超越した存在がいたとすれば…》

 《それはあり得ぬ事です!》

 《魔族とで首を刎ねれば命を落とします、死の超越などそんな……そんな事は》


『言葉にした瞬間に、か。わかった。クイン、俺は将来……魔族領を変える。どう変えるかなんて今はよくわかんねぇけど、でも……多分、俺が望んでいる世界はこんなんじゃないと思うんだ』


 《皆の者も、奴の結界に弱点がない事など、もういい加減にわかっているはずだ》

 《──っ! それは……》


『問題御座いません、世界は魔王様の思うがままです』


 《完全に世界と切り離された無敵の結界。そうとしか思えん。見よ、奴は昼過ぎから今の今まで目を閉じて座っているだけだ。……座っているだけだと言うのに、こちらの被害は甚大だ。立て直しに一体何年掛かるか想像も出来ぬ程に──》


『ああ。……てか、今どう言う状況なんだ? 聖王騎士団に絡まれてるんじゃなかったのか?』


 《魔王は、死と言う概念を超越した存在かもしれぬ》

 《そ、そんな相手……どうすれば……》


 《だが、それでも!!》


『そうですね。待ってくださいとお願いしたのは私ではありますが、まさかこんなにも待ってくださるとは。少し様子を見てみます』


 そうして、ステファノス様との念話を一時切りあげ目を開けた私の前には──。


「なんだ……これは」



 何故か死屍累々の聖王騎士団の連中が悲しそうな顔を浮かべる光景が広がっていた。


すっかり陽が落ちてしまったその場所には、昼間見た時と同じように、魔王様すら一目置く最強の人族であるはずの聖王騎士団団長パトリオットが、傷だらけになって立っていた。


「それでも私は! 立ち向かわねばならない!!」


「はい」


 ステファノス様と念話をしている間に何があったのかは、皆目検討もつかない。


だが、夢や希望という概念を重さに変換して戦うのであろうパトリオットは、何故か傷だらけの今にも死にそうな姿をして、必死の形相で何事かを叫んでいた。


「来い! 魔王! 貴様がどれほど遠く高い存在であろうとも……。私は、俺は、人は──決して負けはしない!!」


「ほう!」


 パトリオットは人族にしては礼儀正しい奴だった。


 魔王様の事をいきなり褒め始めるとは、中々に見所のあるやつかもしれない。


 魔王様を貴様と呼ぶのは少々いただけないですが、遠く高い存在と言う表現は私的に高評価です。


 魔王様もまた、パトリオットの事を強い仰られていた事を考えれば、これは、そう言う事なのですか?


 真のライバルは互い褒めて称え合うとは本当の事だったのですね。


 しかし、です。


「──パトリオット……! 貴殿こそ(魔王様の)真のライバルだ!」


 パトリオットが如何に最強と言えど、よくわからないうちに瀕死になっている今この状態であれば、私でもうっかり倒せてしまう可能性がある。


 それは……なんだか魔王様に申し訳ない気がする。


 血気盛んな魔王様の事です。自分で倒したかったと仰られるのは目に見えている。

 

「な……に……?」


「そこで、これは私からの提案なのだが……。此度はどうか、(ほこ)を収めては貰えないだうか」


「な、何を馬鹿な!! 貴様を前にして収める鉾などない!!」


「まあそう言わず。……見れば、貴殿の怪我は中々に深い。急ぎ治療をした上で、万全の状態で相見えて欲しいと思うのは私の我儘だろうか」


「……見逃すと。そう言うのか」


「ええ、出来る事なら。(魔王様の)ライバルである貴殿をこのような場所で失うのは余りにも惜しい。……それに、私とて出来る事ならギリギリの戦いは避けたい』


 どう見ても瀕死にしか見えないが、それでもこの男は魔王様が一目置く男。


 その強さは計り知れない。


 うっかりと夢や希望などと言う未知の魔術によって殺されてしまう可能性もゼロではない。


「………わかった、その提案、受け入れよう。だが、条件がある」


「他ならぬ貴殿の頼みです、聞こうではありませんか」

 

「見ての通り我々は今回大打撃を受けた。立て直しには時間を要する」


「はい」


 何があったのかは知らないが、心配になるくらいだ。


「故に、数年──10年とは言わぬ。せめて5年、立て直しの時間が欲しい」


「5年間戦争行為をしない、と言う事ですか?」


「ああ……そうしてくれるのであれば、そうすれば、必ず……。必ずや、決着を着ける。……この私をライバルと言うのであれば、これ以上の条件はなかろう?」


「……わかりました、一度持ち帰って検討させて頂きます」


 どうなのだろか。


 魔王様としても元気なパトリオットと戦いたいだろうが、休戦協定なんて私一人で決められる事ではないですからね。


「検討、か。……いや、検討してくれるだけでも助かる。此度はこのような事になってしまったが、まさか魔王の気紛れに感謝する日が来ようとはな」


「ほう!」


 魔王様に感謝とは!


 やはりパトリオット、出来る男かもしれない!


 ◇


 あれから300年あまりが経過。


「──結局、魔王様とパトリオットは決着を着けられたのでしょうか」


 あの後、命からがら聖都から帰還した私とステファノス様の関係は念話で色々と語り合ったお陰か、改善。


 ステファノス様は人族の政治形態を勉強されて、その結果、戦闘員と非戦闘員の区別という大改革を敢行。


 今では魔族史にその名を刻む賢王として様々な改革を魔族領域にもたらした。


「ふふふ。柱の傷とは全然関係ないんですけどね」


 王の間の巨大な柱についた傷を触った私は、何故か全然全く関係のない昔の話が映し出された記憶投影魔術の映像を見て、少しだけ笑ってしまい……そしてまたダフティリーズ様の居室に向かって足を進めた。

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