file.10 パトリオットに感謝を
『俺は全然……優しくなんかねぇよ……』
『いいえ、お優しい方です』
慌ただしく動き始めた私を取り囲む聖王騎士団の連中。
それらが煩わしくはありましたが、マルチタスクが苦手な私には精々自動防衛の結界を展開するくらいしか出来ないので、とりあえず時間稼ぎにしかならない結界を展開。
命が尽きるその時まで、ステファノス様に礼を尽くそうと決意しました。
『違う! ……こ、今回だって俺は。俺は、お前の事が気に食わなかった』
『……それは、申し訳ございません』
『そうやって、すぐ下手に出る所も嫌いだ。あれをやれこれをやれって口煩く言ってくるお前が嫌いだ』
『家庭教師の任を仰せつかったものでして』
《魔王が1人で居るこの好機を逃すなああ!》
《第一魔法師団! 構え!!》
《狙いはただ一点、外すことは許さん!》
『わかってる……! そんな事わかってるんだよ!』
《放てええええええ!!》
《うおおおおおおおおお!!》
『申し訳、ございません』
《ぐわあああああああ!!!!》
《馬鹿な! 魔術反射だと!?》
《いいえ違います! こちらの撃った魔術を相殺した上で、魔術を解析、更に高難度の魔術構成に書き換えた上での迎撃です!!》
《そんな馬鹿な!? ただ座っているだけにしか見えないと言うのに……なんと高等な魔術を……。おのれ、魔王め……》
『いちいち謝るな。それも、腹が立つ』
『……はい、申し訳、いえ、はい』
《ええい構うな! 砲手前へ! 魔族相手に魔術戦ではやはりこちらが不利だ!》
『俺は、俺は……いつも、父上や母上から褒められてばかりいるお前が嫌いだ』
《魔術だけがこの世の全てではない事を思い知らせてやる──! 第一射! 撃てええええい!!》
『申し訳……』
《ぐわあああああああ!!!》
『だから謝るなって言ってるだろ! ムカつくんだよ!!』
『はっ!』
《ぐうううう……。い、一体、何が起きた……? 状況が、わかる者は、いるか……?》
『父上も母上も、口を開けばクインが何をした。クインが小さな頃はこうで、クインが俺くらいの年齢の時には既にこれくらいは出来て。そんな話ばかりされる……』
《い、いくつかの砲弾を除いて、ほぼ全てが確実に命中した所までは確認いたしましたがその後は私にも……》
《何が、どうなっている……?!》
『そう、でしたか……』
確かに、私が少しばかり優秀な魔族なのだと言う自覚はある。
周りの魔族が何故これほどまでに弱いのか、まるで理解出来ないことも多々ある。
しかし、それは私が魔王様に育てて頂いたからであって、断じて私が強いわけではないことくらいは理解している。
《砲弾が奴の体表面に展開されている魔術に着弾後、数百から数千の極小単位に分裂、それが奴を中心にして全方位に拡散した模様!!》
それに、ステファノス様は幼き日々の私と比べるまでもなく大層優秀な御方だ。
魔王様が少しばかり私の事を過大評価する癖があるのは何となく知っている。
今まではそれが嬉しくもあって、その期待に応えられるようにより精進しようと思えていました。
けれど──。
《そんな芸当、出来るはずが……。あ、有り得ない》
《そもそも何故………奴は聖王結界の中であれ程までに平然としていられるのだ……》
『俺だって頑張ってる! 俺だって必死に勉学して、必死に魔術の修練積んで……俺だって……』
魔王様が過大評価している私と、ステファノス様とを比較しているのであれば、ステファノス様のお気持ちも知らずに、私は……。
《魔族であれば誰もが弱体化を免れない聖なる檻、何故、奴は?》
《これほどまでの怪物であったとは、これが──》
『わかっております』
『うるさい! 同情なんてすんな!!』
《これが、魔王か……!》
『いいえ、何度でも言わせていただきます。私にはわかっております』
《飛び道具は全て無力化され、倍返しの反撃がくる……》
《今まで見てきた魔族の結界がどれもくだらない玩具にみえてしまうな》
《ああ……しかし、勝機はある!》
『お前に何がわかるってんだよ!! ……お前が、クインが嫌いだから! 痛い目を見ればいいと思って……それで聖都まで焼きそばパンを買いにいかせるような……俺の何がわかるってんだよ!!』
《見ろ、奴は地面に腰掛けたまま一向に動く気配がない》
《確かに……。あれは一体……?》
『わかっております。それでもやはりステファノス様はお強く……そして、お優しい方です』
《魔術相殺からの迎撃、物理攻撃の拡散反射。未だかつて見たことのない驚異的な結界。それを何の犠牲も払わずに展開出来ると思うか?》
『だから何処が!!』
《な、なるほど!!》
《つまり、奴はいま結界の維持だけで精一杯である、と?》
『何故ならステファノス様、貴方様は嫌いだと言う私めの為に泣いてくださったではありませんか』
『な、何を……』
『ステファノス様は御自身の気持ちを置いて、それでも、死にゆく私の為に涙をながされた。私のような者がステファノス様を推し量るなど無礼極まりありません。ですが、それで、貴方様のその根底には優しさがあると言う事くらいはわかっております』
《そうして防御に徹する事で援軍が来るとでも考えているのか………》
《もしくは、我等が根負けするとで考えているか、ですね?》
《ふっ……。そう言う事だ。あれは最期の悪あがきにすぎん!》
『ふん……それはお前の買い被りだ』
もう長くはない自分の命運が尽きるその時まで、彼の御方の家庭教師であり続けようと心に決めた私とステファノス様の念話はそれからしばらく続いた。
目を閉じているせいでよくはわからないが、なんとなく周囲が騒がしかったが、それはどうでもよかった。
それでも、つい先程は今にも襲いかかって来そうだったパトリオットが、私とステファノス様との会話を邪魔しないで居てくれた事には少しばかり感謝していた。
感謝します!