十
まーくんは可愛い三人の女の人に囲まれていた。女の人? 一人は私より年下にみえるから女の子かな? 後の二人には見覚えがあった。高校のOBで教育実習生として一学期に来ていた大学生とその妹で在校生の私より一学年上の先輩に当たる人。高田姉妹。
数少ない友達から絶対二人に目をつけられたらいけないと教え込まれた人物。
なんでも気に入った人は必ず取り巻きにし、気に入らない人は徹底的に排除する怖い人たちだそうだ。三歳上の友達の姉は目をつけられて人目が怖いと家から出れなくなってしまったらしい。
「ねえ、一緒に行きましょう」
高田姉がまーくんの腕に自分のそれを絡ませようとしていた。
嫌だ。見たくない。けど、あの中に入っていく勇気もない。
「連れを待っていると言っている」
まーくんはスルリと腕を避け、私が聞いたことのない低い冷たい声を出していた。
「ほおっておけばいいじゃない」
「そうよ、私たちと一緒に遊びましょう」
無視して移動しようとするまーくんの進路を遮っている。高田姉はまーくんの方をチラチラ見ながらスマホをいじりだした。なんか態度悪い。
「じゃあ、その人も一緒に遊べばいいんじゃない」
高田姉妹とよく似た容姿をした女の子が無邪気に提案する。親戚かなんかかな? 高田妹が末っ子と聞いているから。
「それならいいでしょ」
「私たちが一緒で彼女も喜ぶわよ」
高田姉が自信満々に言っているけど、まーくん、お願いだから了解しないで。その人たちと関わりたくない。私は縋るようにまーくんを見てしまった。
「断る」
そう言わずにと触ろうとする高田姉の手を弾き、まーくんはハッキリと言った。
「低俗な者と関わらす気はない。穢れる」
「ていぞく……」
「けがれる……」
高田姉妹が目を見開いて固まっている。いいなー、可愛い人はそんな表情も可愛く見える。私がしたら面白い表情だろうな。
それにしても低俗、穢れるって、まーくん、何言っているの?
「な、なにを失礼な………」
「失礼? それはそちらだろう。断っているのにしつこく言い寄ってきて」
「と、友達なのに酷い」
復活した高田姉が泣きそうな顔をして、如何にも酷く責められている感じを出している。
歩いている人たちが何事かと立ち止まり出していた。
友達? まーくん、その人たちと知り合いだったの?
「友達? 初対面で馴れ馴れしく声をかけてきて」
「そ、そんな………、酷い、うそを吐かなくても………」
高田妹は顔を覆ってしくしくと泣き出した。高田姉は健気に涙を堪えているって感じを出しながら相変わらずスマホをチラチラ見て苛っとした表情を浮かべていた。
こんな所でそんな態度とったら、まーくんが悪者になってしまう。知っているのに知らないと言って無視しているって!
「そのスマホで僕の写真を勝手に撮り、誰かに調べさせているんだろ。その情報をもとに友達だと言いきり、周りに誤解させる。こっちの立場を悪くして言いなりにさせようとしているだけ」
あっ、だから、高田姉はスマホを見ているんだ。友達に調べるように頼んだまーくんの情報が届いていないか確認するのに。その情報を元に友達なら知っていることを人が見ている前で話して、拒否した相手を追い込んでいく…。卑怯だ!
「ち、ちがうわ」
高田姉がスッとスマホを背中に隠した。
足を止めた人たちは最初高田姉妹に同情的な目をしていたけど、今は顔をしかめている。
「じゃあ、僕の名前は?」
「………、久々すぎて………」
久々で忘れているのにあの態度だったの? 友達の名前って忘れる? 久々だっとら忘れることもあるけど。うん、私もお父さんの名前、覚えていないし、思い出す気ももうない。
「そう、じゃあどこでどう友達になった? 僕は全く身に覚えがないかないんだけど」
「そ、それは……」
高田妹も泣くのを止めて、傷ついている表情をしながらもどうするのか高田姉とアイコンタクトを取っているように見えた。可哀想なのは女の子だ。急な展開にどうしたらいいのかオロオロしている。と思っていたから……。
「せっかく声をかけてあげたのにその態度って、あんた、何様なの?」
高田姉妹と一緒にいるということで常識がない子なんだと納得した。
けど、その言葉でまーくんの言い分の方が正しいっていうのが証明されたと思う。まーくんに何様って、そっちが何様だよ、上から目線でムカつく!
「何様? そのまま返すよ。勝手に写真撮られて調べられたのって、警察に訴えること出来たよね?」
確か、肖像権だのプライバシーの侵害だの色々あったような? 弁護士さんに電話してみようかな。
まーくんの言葉に高田姉が顔色を変えた。
「す、すっげー」
立ち止まった人の中から声が上がった。ほらほら、と連れの男性にスマホを見せて興奮している。
「これ、アップされててさー、あの二人、こういうことの常習犯だったみたい」
その場にいた人たちが次々とスマホを取り出して何かを見始めている。高田姉妹もスマホを見て、高田姉がすぐに電話をかけていた。
私も友達からメールが来て、添付されていたアドレスをタップする。
今までの流れが動画で上がっていて、そのコメントが目まぐるしい速度で変わっていた。
「今からいうサイトをすぐに閉鎖して!」
高田姉の言葉に立ち止まった人の声が被る。
「無理だろ、もうすぐ十万超えるぞ。関連もアップされてるし。あっ、顔にやっとモザイク。けど、知っているヤツには全部ばれただろ」
「何様発言のヤツも地元じゃあエゲツナイことしてるみたいだしな」
「何様? って、お前らの方が何様じゃん。人をいいように操って!」
「げっ、引きこもったヤツもいるって!」
女の子は自分に刺さる視線に身を竦ませいるけど、何が悪いのか分かってないみたい。
姉高田妹は軽蔑露な視線を睨み返している。強い人たちだなー、悪いことをしていたとは今も思っていないんだろうなー。
「七海! 何してんだ、行くぞ」
人を掻き分けて女の子のお兄さんみたいな人が現れて、女の子の手を引いて足早に去っていく。高田姉妹も慌ててその後をついて行った。
私は逃げ足は早いんだなーと思って、人混みに消えていくその後ろ姿をボーと見ていた。
「さーちゃん、お待たせ」
まーくんが覗き込むように私と目線を合わせてきた。
「うわっ!」
まーくん、近い、近いよ、まーくん。目の前にまーくんのカッコいい顔かある。私の姿を頭の先から足元まで見るとまーくんはわらって頷いた。
「うん、この姿も可愛いね」
まーくん、それは反則です。勘違いしてしまいます。
「行こうか」
何事もなかったようにまーくんに手を繋がれて、お店を出て人混みの中に入っていく。
何か重要なこと忘れているような気がするけど…。さっきの二人(+女の子)のことが気になる。取り巻きがいっぱいいるって話だし、まーくんに何かしてこないといいなー。取り巻きがいっぱいいるって聞いているし、ここにも来ているだろうから。
て思っていたら、目の前に人の壁が出来ていた。
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