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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

入道雲に跪く

僕の生まれた村は、日本一夕立が多い町だった。


そのせいだろう。村人たちは全員、とある宗教を信仰していた。


入道雲を『大雲様』と崇め、姿が見える度に祈る『大雲教』。


祈りをし損ねると天罰がくだるとされていたため、家の窓は常に開け放たれていた。


水に関する教えもいくつかあり、口にしていいのは雨水に祈祷を施した聖水のみ。水を無駄にすることなどもってのほかで、モットーは『御水一滴血の一滴』。まるで船乗りのような生活を強いられてきた。


僕の両親と5つ上の兄は、特に信仰心が強かった。


その熱狂っぷりはあまりに恐ろしかった。


幼い僕はとにかく反抗したかった。両親や兄のように必死で窓辺に張り付いて雲を探したり、ただの雨水をありがたがるようなことはしたくなかった。


両親は人当たりがよく優しくて、兄はスポーツ万能で頭もいい。そして彼らはちゃんと僕のことを愛してくれた。


だけど僕は彼らに対して恐怖しか抱けなかった。


遠く離れた地の高校を受験した僕は見事に合格。早々に家を出て、そのまま進学、就職。実家に帰ることはなかった。




そんな僕が今、13年振りに実家に帰ってきた。


ガラス窓は全て段ボールで覆われているが、今にも自身の重みで剥がれ落ちそうになっている。


仕方なく直しに行こうと立ち上がる。


外の様子を伺うと、暗くなってきたにも関わらず、まだかなりの人だかりがあるのがわかる。


飛び交う怒号。何かが壊される音。思わず耳を塞ぐ。




兄が人を殺した。


会社の同期を、5人。


僕に続いて地元を出て、中小企業に就職した兄。同期との飲み会の最中、事件は起こった。


酔った勢いで、同期が兄の逆鱗に触れることを口走ったらしい。


怒りのあまり冷静さを失った兄は、テーブルに置いてあった調理用の鋏で次々と彼らを刺し、気づいた頃には留置所にいたという。


13年振りにアクリル板越しに会った兄は「奴らは大雲様を侮辱した、許さない」とばかり呟いていた。



さて、この大雲教において、他人の血に触れることはタブーとされている。肉親以外の血は穢れそのものなのだ。


禁忌に触れた者の家族は、一生幸せになれない。




灯油の匂いがする。どこか懐かしい、学生時代を思わせる。


両親の顔を久しぶりにしっかり見た。いつの間にこんなに歳をとったんだろう。


父がマッチをつけた。小さな炎がやがて大きく、赤く、熱くなっていく。


意識が遠のく。


俺は、こんなところで死ぬのか。



入道雲なんて、糞喰らえだ。

ちょっとシリアスな小説を書きたかったのですがなかなか難しいものですね。

なろラジ大賞締切までまだしばらくあるのでまた他にも書いてみたいと思います。

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