第11話 秘事
なんか物足りない二一階層の大猿ラングスウィル。
そう言えばあの探知に引っかからないモンスターを調べるの忘れてたな。
ギルド長のある意味で因縁、ある意味ではデレ。誰得だよという注意を受けたせいでギルドに行きたくなかったんだ。
心配したから顔見せろ(意訳)はデレだろ?
厳ついおっさんがデレても軽蔑の眼差しを向けるだけだが。。。
まぁ。樹の上は気にしながら行こう。
見えない訳じゃなかったからな。
――ラングスウィル。
前は三〇〇匹で襲い掛かって来たのに今日は疎らだし。
あの身内だけでやる素敵ジャグリング攻撃に俺も混ざって仕返ししてやろうかと思ってたんだが。出来なくて残念だ。
予定より早く二二階層に着いてしまった。
時間も早いし開墾圃場を見に行くか?
それからギルドへ行けば夕方で丁度いいかな。
◇
昨日の今日だから開墾圃場も問題なく進んでいる。急ぐ訳でも無いしね。
そうそう。カツサンドを差し入れたら喜ばれた。皆まだ若いから奪い合うようにして食べてたな。
それと監督しているコンラートさんから女性の参加人数八名を打診されたので了承した。
まだまだ全然余裕だ。
俺の座右の銘はとりあえず駆け出せ。走りながら考えて感じろだ。足は第二の心臓だ。
立ち止まってちゃ血も廻らないし頭も回らないからね。
案外脳筋だな?
なんだとっ! このすっとこどっこいっ!
すまんっ! 言いたいだけだ。
まぁ。それにホウレン草は一列はスジ撒きしたから間引かないといけないしね。
間引いたつまみ菜はべビーリーフとして食べることも出来るし。
実際にケンちゃんのホウレン草畑は全てスジ撒きで育てている。
チビ供が間引きを手伝えるし間引いたあとのつまみ菜としても食べられるし一石二鳥だ。
サラダ用のほうれん草というのもあるが、若い葉のうちはどれを食べてもアクなどなく生でも美味しく頂ける。
アクの原因はシュウ酸でそれがえぐみの原因になっている。
シュウ酸はホウレン草がミネラル――。農家的に微量要素と言おうか。
シュウ酸は微量要素を吸収するのに必要な物質だから葉にあって然るべきものなんだ。
だから大きく育ったほうれん草は茹でて水溶性のシュウ酸を溶出させる必要がある。
サラダ用のホウレン草はシュウ酸の蓄積がしずらく改良された品種だ。
それ以外にも水耕栽培で摂取する養分をコントロールすればアクの少ないホウレン草の栽培も可能だ。
サラダ用のホウレン草には敵わないけどね。
心配な寄生虫や菌などもこの世界はシャララン魔法があるから安心だ。
ありがとう。知らない神様。
カトラリーや食器などの無機物にかけられない王都の人達でも生物には使えるからね。
一畝に三列違う撒き方をしたのは育ち方の違いと手間の違いを感じてもらうためだ。
ここでもチビ共に手伝わせる事になれば自然とスジ撒きになると思う。
葉菜類の利点は収穫の回転率が速い事だ。
ほうれん草なら秋撒きで三十~五十日。
それだけ早く収穫できるならそこで収入を得れるって事だ。
年一回の麦や米に比べて短期で収入を得られればそれだけ生活の足しにもなる。
そんな事を考えながら歩いていると夕方のギルドに付いた。
スイングドアを鳴らして中へ入る。
エレンさんに報告するがやっぱりラングスウィルのドロップアイテムはゴミアイテムだった。
十個しか持っていないからキープでいいかな。
何かに使えるか思いつくかもしれないしね。
一つだけあったレアドロップ? の小さな純魔結晶は俺の錬金で使おうと思う。
初めて手に入れた純魔結晶だからね。極小だけどな。
お礼を言ってカウンタ-を離れると直ぐに、待っていたのかバステンさんがやって来る。
「兄さんすまないな。ちょっと時間をくれるか」
「えぇ。朝に約束しましたので、そのつもりで来ました。何でしょうか?」
「実はな。兄さんを囲んだ例の十九人の冒険者連中が、少し話があるそうなんだ。もちろん。兄さんに悪い話では無いぜ。兄さんにとっていい気分では無いかもしれないが」
(――俺が詫びてもしょうがねぇ。場を整えるまでよ)
「あぁ。あの十九人ですか。そう言えばお変わりないですか?」
「まぁな。会ってやってもらいたいんだが。どうだ?」
「えぇ。構いませんよ。どちらへ行けばいいですか?」
ついて来てくれとバステンさんに言われてギルドの会議室に通される。
事前に借りていたようだ。中には二十人の男達。
つまらなそうに壁に寄り掛かるシュバインさんが俺にヨッと手を上げて挨拶した。
一番年上っぽい冒険者が俺に話しかけてくる。
「ノアさんよ。あん時は悪かった。許してもらおうとは思っていねぇが詫びだけはさせてくれ」
そう言ってすまなかったと全員が頭を下げた。
まぁ。『暴走くん』の被害者の会の方々だからね。
被害も無かったし不問と伝えた通りだ。
みんな大丈夫そうだが一応問題ないか体内検査魔法を試すか。
「ギルド長に伝えた通りです。皆さんの謝罪を受け取りました。禍根もありません」
「兄さん。それはいけねぇや。何かこいつらに償いをさせないと示しもつかねぇし。兄さんの為にもならねぇ。金なりなんなり出させねぇと」
バステンさんがそう真剣な表情で伝えてくる。
――金ねぇ。んっ? あれに協力してもらうかっ!
俺はいかにも胡散臭そうに揉み手をしながら話しかけた。
「皆さん。貯蓄はいくらほどお持ちですか? ――あっ! 言う必要はありませんよ。実はいいお話があるんですよぉ。皆さんっ! 銀行って知ってます? それは――」
§
そう言うノアから持ち掛けられ男達は今までの冒険で蓄えた貯蓄を預ける事になった。
銀行へ預ける金額はバステンの誘導もあり十九人が用意出来る満額とさせられる。
その後の和解の宴会では、にこやかなノアと機嫌のよさそうなシュバインとバステンとは対照的に十九人の顔は一様に青かった。
彼らは知っていたのだ。王民事業体イーディセルのノルトライブ支所の所長。イェルダがノアを心配して必死の形相でギルドまで探しに来ていた事を。
そしてノアとイェルダが楽しそうに連れ立って街を歩いていたのを。
この宴会の後十九人はノアに許されたという噂が流れる。
その噂には同時に付く尾ひれがあった。
侵不は王民事業体イーディセルにも影響力がありそのトップとも懇意だ。
あいつらは許されたが今まで溜めた金は王民事業体イーディセルに収めさせられた。
その金を下ろすには侵不の許可がいるそうだ。
侵不に手を出したあいつらは命の代わりにケツの毛まで抜かれたと。
この噂は事実とは異なるがバステンにより故意に冒険者に流されて広く知れ渡る。
ノアが言ったのは一年間は下ろすなという命令ともとれる。
騙されたと思って一年間は預けてみて下さいという年単位の縛りだ。
バステンはそれを誇張して広めたに過ぎない。
相棒を許してくれたノアが舐められないようにバステンなりの恩返しだ。
この噂のせいで冒険者の銀行への預金の足は遠ざかる。
一年後に5%の利子配当金を手にした十九人のバカ騒ぎが起こるまでは。
◇
あれから一週間。
やって参りました二回目のダンジョン説明会っ! 前回と同じシックな部屋に通される。
んっ? マスターさんなんか印象が違うな? なんだろう?
マスターさんが挨拶をしてくれる。
「おはよう。ようこそいらっしゃいました。お手柔らかにお願いします」
「おはようございます。こちらこそ宜しくお願いします」
神武さんが続きを引き継ぐ。
「ノアさん。今回は設備と環境と言われましたが具体的にはどういった内容をお求めでしょうか?」
「まず環境ですが例えばモンスターのいないフロアーとかは可能ですか?」
「設定上は問題ありませんが今まで実施したことはありません」
「海や火山のあるダンジョンもあると聞きますがここにもありますか? 若しくはそう言った環境に変更できますか?」
「現在は設定していません。アセットを消費すれば変更は可能です」
ここからの質疑応答もザックリまとめるぜ。
俺がやりたかった事。
それは――スパリゾート温泉だ。火山が出来るなら温泉も出来るよね?
海辺で風光明媚な海岸線にイオン溢れる荘厳な滝。そして露天風呂。
そんなリゾートダンジョン作れないかな?
ほらっ? 冒険者がいればアセットが溜まるなら人間を呼び込めばどうでしょうという提案だ。
受動的から能動的に変えて集客をするんだよ。
そしてついでに俺もその温泉に入らせてくれ。
「面白い提案ですが、一般人はダンジョンに入れないのでは?」
そうなんですよね。
「時間はかかるかもしれませんが安全だと確認されれば可能性はあります」
「アセットにも余裕がありその必要性を感じません」
そうですか。そう言われるとアセットの蓄積以上のメリットは出せない。
じゃあ次だ。
「ある階層全てを水で満たせば冒険者がそれ以下の階層に行かなく出来るのではないですか?」
「階層移動の階段を塞ぐことは設定上出来ません。またその順路を水や障害物で塞ぐことも出来ません。ダンジョンは下層に冒険者が来ることを拒めません」
へぇ-なるほどね。
ダンジョンは下層まで人が来ることを望んでいるのに管理者は望まないという皮肉。
その後は選べる環境などを詳しく説明を受けた。
「それでは設備の説明になりますが、こちらは秘匿事項が多くなります。ノアさんからの質問に回答するか回答を避けるか判断して説明します」
俺からはダンジョンのヌクレオを調べてもいいか確認したが拒否された。
ダンジョンが何階層まであるかも拒否。
監視機構はあるかについてはあると回答を貰う。
「私が襲われたときの監視映像とかってありますか?」
「えぇ。あります。ご覧になりますか?」
お願いすると目の前の空中に映像が映し出された。
逆三角の二枚羽のいびつな蝶が飛んでくる。
気づかない俺と俺を守ろうとするモルト。
――モルト。不甲斐なくてすまんな。
いつもありがとう。
蝶はうなじに張り付き肌をすべるように頭に向かって移動する。
獣のように叫ぶ俺と同時にダンジョンの地面が俺を飲み込み映像はブラックアウトした。
「この黒い蝶を放った人物は映していますか?」
「はい。ご覧になりますか? ――どうぞご覧下さい」
まさかの――知ってる顔だな。ギルドにいたバーテンだ。こいつが帝国の工作員か。
結構王国は帝国に入り込まれているな。まだまだいそうだぞ。
この事はギルド長の耳には入れておくか。
「ダンジョンに設置できるモンスターの種類を教えてもらえますか?」
「――拒否します」
「んっ? 何故ですか? 二四階層までなら良いでしょう? もうバレてますから」
あれから一週間で二五階層の入り口まで到達した。
どんなふうにカテゴライズされてどんなユーザーインターフェースか見てみたいんだ。
「……どうぞ」
目の前の映像に映しだされる。
階層ごとに分かれて姿と名前が出てくる。
ふ~ん。こんな風に見えるんだ。
……んっ?
「……っない」
あいつがいない。
――――どういう事だ?
モヤモヤとした不快感が晴れるように無くなる。俺は確かめるように言葉を並べる。
「……モンスターの強さを変更する事は出来ますか?」
「――出来ません」
「……階層にいないモンスターを襲い掛からせる事は出来ますか?」
「っ出来ません」
――返答がかぶせ気味で来たよ。――お前らやったな?
リストには二一階層で俺に襲い掛かってきた。あのアメーバみたいなモンスターは設置されていなかった。
ギルドで調べても分からなかったヤツだ。この機会に名前でも確認しようとしたのだ。
「そこにはいない階層回遊型モンスターもいます」
「なぜ私の考えていたことがわかるんですか?」
二〇匹出て来た狼型のモルモーも三〇〇匹の大群の大猿ラングスウィルも若干の違和感があった。
二つともいきなり強さの上限が上がった。
モルモーがいる五階層より六階層のモンスターのほうが弱くて不思議だった。
特に先週二度目の二一階層で戦ったラングスウィルが弱すぎる。
弱すぎるラングスウィルにいないはずのアメーバ。
いや言い方を変えよう。
異常に強すぎるラングスウィルの大群に俺に探知されずに奇襲に来た。
その階層にいないはずのアメーバ。
俺の中で線が繋がった。
場の空気は凍り付いたように静かだ。




