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第4話  窟主

 ――不意に成り出す警戒音。


 緩やかな静寂を切り裂いて響いた。


 猫のように丸く眠っていた少女は、意識を覚醒させて、面倒くさそうにベッドの上に起き上がる。


「ヌクレオ。映像を出して」


 ベッドにペタンと座ったまま、少女は気だるげに命じた。


 ピュインという音と共に空中に展開する映像と警戒音の理由。


(ダンジョンが侵略されてる? しかも低層の2階を? 何の意味があるの?)


 映像に映し出されたのは成人したてに見える男の子。


 どうやら小規模の土魔法でダンジョンを攻撃しているようだ。


「ヌクレオ。対抗と保全をお願い」


 ダンジョンにより攻撃への対抗処置と現場復元処置が開始されるが――拮抗する。


「強度を高めて」


 ゆっくりと修復が進みおよそ10分ほどで保全処置が完了した。


(何者なの? 侵略アラームなんて初めて鳴ったわ。それに……何か近くにいるわね)


 揺らめくような、かげろうが映像を揺蕩(たゆた)


「ヌクレオ。エネルギー体に相をあわせて」


 ぼやけた画像から焦点を合わせるようにモルトの姿が映像に現れた。


(精霊? ――エルフとは盟約があるはず。……妖精かしら)


「ヌクレオ。あれは何?」


(コルンキント? 畑の妖精? ――なんでこんな場所に居られるの?)


 意味の分からない低層への侵略行為と居れる筈のない畑の妖精。


 少女は男の子がダンジョンから出るまでずっと映像を監視した。



§



 ――――王都


 レオカディオはウェンからノアが『暴発くん』と呼んだ兵器を基に作られたダンジョン抗体アイテムを受け取る。


 親指の先ほどまで最小化した魔道具が王都内のダンジョン数を上回る数用意してある。


 ウェンは厳しい表情でレオカディオへ伝える。


「ノアから届いた兵器はプロトタイプね。道理で扱いが雑な訳だわ。失敗しても問題が無いんだから。ただ、制作者の意図は見えたわ。違ったアプローチの兵器と掛け合わせてハイブリッド兵器を生み出す思想のようね」


「バイシャオウェン師、その兵器は一体何を起こすのでしょうか?」


「――私が伝えられる事は少ないわ。今言った言葉を忘れずに備えなさい。10年――いえ5年ほどで動きがあるかもしれない。レオカディオ。その時の為に怠らず準備をしておくのよ」


 レオカディオはウェンに謝辞を伝え部屋を出てゆく。


 部屋には司書長のルル、イーディセル、ウェンが残る。


「今のでは備えようがないのではないか?」


 弟子扱いのレオカディオの為にルルは言葉を紡ぐ。


「知っているでしょ。エルフの中でも錬金術師が”盟約”の縛りが強い事をあれでも抵触スレスレよ。少なくともスタンピード+αが起こることは伝わったでしょ。時期も教えたし、プロトタイプがマスプロダクションタイプになる過程で改善されない訳がない。大規模で破滅的なスタンピードが起こるわ」


 イーディセルが口を開く。


「例の思想団体じゃな?」


「そうね。錬金とは違うアプローチの兵器だったわ。あいつらは免業(めんごう)兵器と呼んでいたかしら。あの兵器は”ファギティーヴォ”。暴走、逃走者、はかないを意味する言葉だけど。私の解釈では”脱獄”ね。あいつらの流儀では神のくびきからの解天(げてん)といったところかしら」


 ルルが尋ねる。


「もう一つのアプローチとはなんだ?」


「たぶん”暴走”ね」


「スタンピード自体が暴走ではないのか?」


「通常のスタンピードはそうかもしれないけれど。今回はダンジョンから切り取られた、結果暴走したのよ。ダンジョンからの”脱獄”を強制する兵器と対をなすのは”暴走”を強制する兵器よ。その形跡があるの。いずれにしても私たちが手伝えることはないわ」


 エルフには”盟約”と呼ばれる古い仕来りがある。その1つにダンジョンに関わるなというものがある。


 既にその理由は廃れてしまったが、頑なに守られてきた。


(弟子がやる分には良いのよね)


 ウェンは知識と技術を伝えた一番弟子に期待をかける。


(それに弟子の弟子は身内みたいなもんよ)


 この頃少し元気のない。表情の乏しい寂しがり屋の背中を少し押してやろう。


 時間をかけてゆっくりと飛ぶ力をつければ良い。


 飛び立つ勇気が持てるその日まで、雛鳥は巣で守られる権利があるのだから。





 5階から出てくるでかい狼型のモルモー。


 灰色の体は筋骨隆々としてライオンぐらいの大きさがある。毛が生えていないので少しグロテスクだ。


 脚力もあり壁を駆けあがって頭上から襲ってきたりする。


 パワーもあり体当たりと噛みつきに爪の打ち下ろしは強力だが、そこはこちらの間合でもある。


 歯を食いしばって楯で受け止めて、呼び込んでカウンターの一撃を食らわせる。一番想定しやすい敵だ。


 数匹までは1人で対応できる。



 だがな……一度に20匹も出てきて取り囲むとはどういうことだ!


 なんで5階で難易度が爆上がりなんだ!


 そんなの要覧に書いてなかったぞ!


 超スピードでかっとんで、仲間の体を足場に急に方向転換して左右から襲い掛かるとか、そっちが有利過ぎるでしょ!


 なんだそのジェットでストリームな素敵アタックは、俺も混ぜてくれ!!


 今の俺はいなすのと躱すのに神経を使っいながら、コツコツ当てて数を減らしてゆく。


 背後から飛び掛かってくるモルモーの首に槍を突き刺すと爆散し煙が広がり立ちどころに消える。


 よしっ! 10匹目! 残り10!


 モルモーが囲うように距離を取って周りをウロウロしだした。


 あれ、チャムとカロが出てきてる。心配してくれたのかな?


 大丈夫! すこし油断して焦ったが、まだ余裕はある。


 奥の手も使ってないしね。


 粛々と殲滅をかけて数を減らしてゆく。さすが狼型だけあって、集団での攻撃が上手い。


 スタンピードのモンスターを見るにもっと乱暴で粗野なものを想像していたが、知能を感じるモンスターが多いね。


 怪鳥ブルーカ然り、カマキリ&コウモリのエンプーサ然りだ。


 チョンチョニー? あんなジタバタ飛ぶ奴が何か考えてる訳ねぇよ! 泳ぐウミウシを思い出したからな。


 よしっ! ラス2だ。


 悪いが実験に付き合ってもらう。

 

 俺は姿消しの腕輪を使い、姿を消して、気配を可能な限り消した。


 ――やっぱり犬型だと匂いでいる場所が分かるみたいだな。


 俺がいる場所を見つめている。


 ――音にも敏感なようだ。移動しても視線がついてきた。


 次の実験だ。


 『昏倒くん』を当てる――効かないか……モルモーは何かを振り払うように首を振っているが、気を失うことはない。


 ダメ元で『電撃くん』投てき! そいやっ!


 ――あれ? 死んだ。……電気が弱点??


 戦闘終了と共に地面に現れるドロップアイテム。


 爪とかキバとか皮とかが現れた。この皮使い道あるのかね?


 さてどうしよう。今は5階の中ほどだ。


 本当は6階入り口の転移の柱に触って帰ろうと思っていたんだが、さすがに少し疲れた。


 初日だしサボるか……。


 昨日ほぼ2週間の長旅でここに着いたばかりだ。


 週に2日は休みを取って家の魔改造も義務付けられているからな。――自分に!


 俺の遊び心とワクワクが止まらない。嬉しくて震えるがくる程だよ!


 何しろ学舎住まいで際どいこと出来なかったからな。


 何故か怒る人がいるし、パオラさんっていうんだが。。。


 学舎には入らないのに、俺を警護してる人から聞いているんだろう。


ウェン師仕込みの世界最先端の魔道具と日本の文化の融合だ!!


 混ぜたらきっと危険で危ないぞっ! 楽しみぃ~!


 ソーラーパネル?


 バカだな付けるに決まってるじゃないか! なんなら一番初めに付けるね! ふっふっふっ。


 まぁ。実際はPCとプリンター以外の必要なものは魔道具で賄えてしまうんだが。


 そして、ネットに繋がらないPCはあまり役に立たないって言う現実がある。


 表計算? 数字の表記がこっちは違う。


 文章ソフト? 言語が違う……やっぱいらないか? 電気。


 ハイテンションで進む前に少し冷静に考えよう。


 大人たちに支配されるなと叫んでいる心を落ち着けてから付けるかどうか考えよう。


 帰りの5階入り口までの通路にはモンスターは出現しなかった。


 5階には冒険者は誰もいない。あんまり稼げない階層なのかな?


 俺は生まれて初めて転移を体験した。


 広がった身体が1点に集まっていくような懐かしい感覚で転移する。


 転移先は8畳程の個室で扉が閉まっていた。


 入り口とは別の場所が出口らしい。


 後で聞いたら、個室の扉が閉まっていなかったり、誰かいたりする部屋には転移しないそうだ。


 しかも出口となる個室も20部屋あるそうだ。


 なんたるホスピタリティ!!


 ダンジョンを出るときまた独特の感覚を味わう。


 あれ? これって――そうか。朝は入るから分からなかったんだ。

 

 出るときの濃い空気の幕に後ろから押し出される感覚はあの時と一緒だ。

 

 でも……どういうことだ??


 物思いに耽りながらギルドに向かう。

 

 さっきの兄ちゃんがいたら面倒だなとキョロキョロしながらギルドに入る。


 エレンさんの空いてるカウンターに向かい話しかける。


「ノアさん無事戻られて安心しました。今日の首尾は如何ですか?」


「えぇ。初日なんでちょっと早めに切り上げました」


「そうですか、ご英断だと思いますよ。それで何階まで攻略したんですか?」


「はい。5階の中程までです」


「――えっ? ――なんと?」


「⁇ 5階の中程までですが何か?」


「……さすがですね」


 そう言うとエレナさんはカウンターを滑るように飛び越えて俺の手を掴むと、ついて来いと歩き出した。


「個室へ向かいます」


 えぇっ? ――またこのパターン!

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