第7話 速達
スタンピードを鎮圧したチャムとカロは俺の中に入った。
あんだけ働いたんだし疲れたのだろう。
――ゆっくり休みな。
モルトは平気そうだな。
畑仕事で疲れるもんかっ! って顔だな。頑張り屋で、可愛い奴だ。
――あれが畑仕事かどうかは議論の余地があるが。。。
ツンツク達には街の外を見回りがてら自由に飛び回ってもらっている。
俺は休憩を兼ねて宿を取り手紙を書いた。
取り敢えず有利とまでは言えないが、有益な情報がいくつか手に入った。
1つは、今回のスタンピード暴発作戦は初めての実行だった為に、作戦の成功を見守るべく別働隊を含む全員が昼頃。
――つまり、スタンピード発生直後までこの都市。より正確にはダンジョン周辺にいた。
その後、別動隊は西へ移動を開始し、都市の部隊は刻を待って東へ展開する予定だった。
ここは鉄壁の防御を備え、スタンピード時には閉門を前提とするから、連絡用にいくつか地下を抜けて外への繋がる抜け路が用意されているのだ。
都市部隊は少数の工作員を残し、第一波の混乱に乗じて移動予定だったが、残念ながらそれが城壁に来ることはなかった。
ツンツク達のおかげだね。
想定外を想定して作戦を立てるのは基本なのにね。例えば行動開始の最終時刻を決めておくとかさ。
あいつらは5つのダンジョンを暴発させた事で、勝った気になったのが敗因かな?
おかげで手間が省けた。
俺は目標を設定する。最善手はダンジョン暴発前に部隊の確保。だが、さすがにこれは非常に難しい。
次善はダンジョンの暴発数を抑え部隊の確保だ。
敵は騎獣で移動しているから、およそ1日の移動距離は、無理押しして最大で300kmと想定する。
午後の1時から移動を開始して夕方6時まで移動すれば、およそ150kmってとこかな。
――今は4時だ。だから、部隊との距離はおよそ90kmか。
近いとは言えないが――しょうがないアレを使うか。。。
後は手紙をどうやって王都へ届けるかだが、ツンツク達に頼むのが一番早そうだ。
テイムというか、ツンツクとの意思の疎通は20km圏内でそれ以上離れると視界も借りられないし、会話も出来なくなる。
ツンツクはあんだけ動いたから、オナイギに行けるか聞いてみるか?
――すると。
腕の関節を引っ張られる感覚。見るとモルトがぶら下がっている。
ニコニコしながらモルトが意思を伝えてくる。
えっ? ――モルトそんな事まで出来るの?
モルトは、ラ――♪ と言いながら頷いて、まかせとけ! とばかりに胸を叩いた。
――モルトお前は無敵だ!
あの何でも屋ケンちゃんを超えるっ!
まぁ。ケンちゃんは乱暴に扱っても壊れないから、それはそれで好きだが。
そうなると、モルトって何だかアレみたいだなとちょっと想像した。
すると――モルトの身体が一瞬薄らぎ、その後に俺が想像した格好で現れた。
ちょっとブカブカの緑色をした制帽風で深めなキャスケット帽をかぶり。
帽子の中心には小麦色でTの文字が入っている。
詰襟のシャツも淡い緑色で大きめのボタンが3つ。それはどこか業者の制服を思わせた。
そのシャツの左の胸元にも同じく小麦色のTの文字。下は濃い緑で長めの半ズボン。
焦げ茶色で半円形の大きめの鞄。
その鞄のフタは大きなボタンで留められていて、右肩からたすきに掛けられている。
そこにいたのは手紙の配達員! ――少年バージョン!
モルトの性別は良く分からないので、その事は放っておくことにしている。
ブカブカの帽子がズレるから、こまめに直す仕草があざと可愛過ぎる。
あっ! 帽子のつばで俺が見づらいから、つばが横になるようにかぶり直して、にっこり。
きゅん! を超えるきゅるるん! が胸を貫いた。
ヘロヘロになりながら、モルトに手紙とアイテムを渡す。
じゃぁ。――頼むぞモルト。
モルトはバイバイと手を振って消えて行った。
§
その時、イ-ディセルは休憩も兼ねて、御使いの箱庭のベンチに座り、お気に入りのシイタケ茶を飲んでいた。
ノアがいたときの騒がしくも愉快な日々と、ノアが旅立った後でもネスリングスで提供される料理に感謝をしながら畑を眺めている。
(んっ? ――あれはコルンキント。たしかモルトと言ったか。――服装が変わっているな)
モルトは畑に姿を現すと辺りを見回し、イ-ディセルがいるのを確認すると近づいてくる。
モルトは鞄をガサゴソさせると手紙を取り出し、イ-ディセルに見せた。
「ほう。御使いからパオラ嬢かレオカディオ宛の手紙じゃな。――付き合いも多かったパオラ嬢が良かろうて、ついて参られよ」
イーディセルは研究所に向かって後ろを気にしながら歩き出す。
モルトは宙を浮きながらその後ろをついて行った。
§
――――アールヴ王立神聖語研究所
司書長の執務室に集まった5人。
メンバーは、ルル、イーディセル、ウェン、パオラ、レオカディオだ。
レオカディオが口火を切る
「ノア本人は都市名を把握していませんでしたが、ドゥブロベルクで間違いないでしょう。5つのダンジョンでスタンピードが発生し、それを鎮圧済み。帝国と思われる工作員の追跡を開始する模様です」
「分かった。しかし、すまないが我々は人間界の異変には不介入だ。身を守る以外ではな」
ルルが素早く釘をさす。
「はい。承知しています。ノアからバイシャオウェン師宛にアイテムが届いています」
レオカディオはそう言うとアイテムを取り出した。
ウェンはそれを睨むように見つめる。
「また現れたわね。――それで? ノアは何て言ってきたの?」
「はい。敵兵は『ファギティ-ヴォ』と呼称していたアイテムです。ノアは『暴発くん』と呼んでいます。1つのダンジョンで使用すると、およそ5,000体の魔物を外に放出します」
「――使い切りのアイテムで一度使われたダンジョンでは、もう放出は起こらないようです。ノアは”免疫”と書いていましたが、ダンジョン側で耐性が出来るという事と認識しました」
「へぇー、じゃあ。スタンピードを起こさずにダンジョンに”免疫”をつけさせれば良いのね」
ウェンはノアから免疫が何か聞いて理解していた。
我が意を得たりとレオカディオは頷く。
「はい。その通りです。ご協力頂けますか」
特に感情を見せずにウェンは答える。
「弟子からのお願いだからね。一番弟子は特別なのよ?」
レオカディオは、ほっとしたように返答に答えた。
「ありがとうございます」
「今後は工作員の捕縛及び、スタンピード対策の為に王都より少数の部隊を派遣します。拙速が重要な場面です。王都からの兵では間に合いません。現地で戦力を募ります。合わせて、ドゥブロベルクへ工作員の捕縛部隊を手配するよう依頼し、出兵を打診しておきます」
仕事中のお澄まし顔で、パオラの膝の上にちょこんと座るモルトへレオカディオは問いかける。
「モルト。ドゥブロベルクの領主にも手紙を届ける事は出来かい?」
頬に指を当てて、小首を傾げるモルト。
何かを思い付いたように、顔を輝かせるとニッコリ微笑んで、ラ――♪ と頷いた。
そしてお手紙屋さんだからね! と大きく胸を張った。
「ノアの畑に『ポスト』なるものを設置すると離れていても手紙のやり取りが出来るようです。緊急時に有用です。設置の許可を頂いても宜しいでしょうか」
「うむ。許可する。速やかに設置してくれ」
今ではエルフの聖域となった御使いの箱庭だ。
ルルの許可もなく設置はできない。
そこで会議はお開きとなり、レオカディオはダンテス公爵家の人間として手紙をしたためる。
「モルトちゃん。前の格好も妖精らしくて可愛かったけど。この格好も素敵ね。おしゃまに働くって感じで」
パオラが誰に言うとも無く思った事を言葉にする。
言われたモルトは窓にかじりついて外の鳥を楽し気に、そして一心不乱に見つめている。
飛び立つ練習をする雛鳥のようだ。
まだ慣れない羽ばたきを応援するかのようにラ――♪ と声が漏れている。
レオカディオが手紙を折るとそれに気づいたモルトが仕事の時間だとばかりに近づく。
レオカディオは書いた手紙に蜜ろうを使い、公爵家の家紋を押して封印しモルトに手渡す。
「――頼んだよ。モルト。宜しくな」
モルトは受け取った手紙をガサゴソと鞄に入れて、ラ――♪ と敬礼したあと、バイバイと手を振って消えていった。
§
――――城楯都市ドゥブロベルク
北門前の自ら作り出した円域にモルトの姿が現れた。
そこでモルトはノアの言葉を思い出す。
『一番でっかい家に最も偉い人は住んでるんだよ』の言葉だ。
街一番の家を目指してモルトは飛び立つ。
都市の上空まで一気に上がりキョロキョロと見回し目星を付けた。
その領主館に近づくと、壁を通り抜け館の色々な部屋を探し回る。
そしてその中でも一番立派そうな机を見つけ手紙を置くと、満足そうに微笑みその場から消えた。
合同会館の作戦会議室に詰めていた領主の元に、ダンテス公爵家からの手紙が届くのは、ほんの少し先になる。
屋敷から届けられた手紙の不可解さに、領主は更に混乱した。
現場の自分が今まさにに知り得た情報と同等の内容を王都の公爵家が把握していたからだ。
しかも遠く離れた王都から手紙が届けられている。
混乱しながらも、領主は帝国の工作員の討伐のため兵を組織し派遣の指示を出した。
◇
ちくしょう! 本当はもっと王都から離れてから王都の最先端だぜっ! フフンって自慢気に出したかった。
まったく! いい迷惑だ!
俺はそう思いながら、トラクターゴーレムを取り出す。
最大時速100キロを誇るモンスタートラクターだ。
ブレーキ機構が甘いからそんなに出したら止まれない、命知らずのゴーレムだ
道も悪いし怖くて危ないから時速40キロで進むけどね。
取り敢えず暗くなる7時位までは移動するか。
まぁ。――なるだけ頑張りましょう。
作動音のほとんどしないトラクターで俺は奴らの行く先を目指す。




