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第26話-2  転農Ⅵ

 さぁ。いよいよ。ガンソさんに預けて作ってもらった赤い秘密兵器のお披露目だ。


 ――それは。



 ――赤いSeederでお馴染み向井の種まき機ごんべえ。


 これをガンソさんに作り直してもらっていた。


 出来上がったものは素材が軽鉄に変わって黒いのだが、特許(パテント)も取ってある。


 ガンソ式種まき機HS-320とガンソ式種まき機HS-801の二機種だ。


 320は大豆とトウモロコシなどの大粒品種をメイン播種にさせるための機種だが、一般蔬菜(野菜)も播種可能だ。


 801はほぼ完璧な一粒播を可能とする高性能機で、今どきの高い種を希望の株間で一粒ずつ落とす事により、播種可能面積の最大化が可能だ。


 百粒を二粒撒きにすると五十ヶ所だが、一粒で播種すれば百ヶ所に撒けるって事だな。


 つまりは、畝の欠株を取るか原価のコスパを取るかの選択だが、種の発芽率は70%~80%程だから俺は一粒播を選ぶね。


 一粒播のもう一つの利点は間引きの手間が省ける事だろうな。

 

 この世界の801は木製の播種用ベルトを採用している。


 見本にした向井製のプラスチックと異なり、対静電気性に優れる結果になったのは利点かな。その分耐久性は落ちたが。


 ちなみに、ベルトに静電気が帯電するとどうなるか?


 静電気により種がベルトにくっついたままになり、せっかく一粒で調整した株間で撒こうとしたのに、ちゃんと落ちずに芽が出てみたら欠株だらけとか、くっついた種がバラバラに落ちて株間がめちゃくちゃになったりするんだぜ。


 まぁ。対策は簡単でホッパー、種を入れる容器だね。その中の種にシッカロールか片栗粉や小麦を塗して対策するんだけどね。 


 今日は王領の畑8haへキャンベラトウモロコシ、大豆は鶴の子とふくゆたか二種類を捲く予定だ。


 この種まき機があれば一〇倍は早く作業が捗るぜ!


 トウモロコシは、3ha分を播種し、大豆も3ha分播種するつもりだ。


 トウモロコシは分散播種して収穫期をずらすように指示をした。


 そのほうが長期で収穫できるし、一回の収穫量もコントロール出来て作業が楽になるからね。

 

 残りの2haにはシシリアンルージュを中心に色々な植物を植えるんだぜ。


 ――ハーブ系は欠かせないな。


 ミントは……どこか場所を選ぼう、難雑草と言われるくらい繁殖力が半端ないからな。


 パオラさんに8haとは別に使っても良い場所を用意してもらって、各種果樹も植えてみた。


 桃栗三年柿八年って言うくらいだから俺が王都にいる間には生らないだろうが、後はケンちゃんに任せよう。


 他には胡椒も植えた。胡椒は蔓化だから支柱栽培が必要になるけど、上手く育てば数年で収穫できるだろう。


 まぁ。全部ケンちゃんに丸投げだ。


 頼むぜ! ケンちゃん。それ行け! ケンちゃん。


 今日のこの日を迎えるに辺り、俺には一つだけ懸念事項があった。


 俺の呼び出せる野菜の種は、殆どがF1種だ。日本語だと一代交配だな。


 受粉して採種をしても同じ品種を増やせないという問題があったんだ。


 F1の詳しい説明は省くけど。それが一発で解消される出来事があった。


 あれは……。





 その日の俺は早朝のうちに、いつものようにモルトとチャム&カロと戯れながら大学の畑へ向かった。


 販売所での需要も順調に伸びており、各種野菜をせっせと増産中だ。

 

 ガンソ式播種機の生産にも目処が立ち、王領の畑の刈り取りももうすぐ終わる。そして、ようやく王領の耕耘が開始されるという時期だった。


 ずっと頭にあった俺の懸念事項である。F1問題。


 最終的には俺、モルト、カロ、ケンちゃんの交配努力で、優良品種の固定化を図らなければいけないのだろうが、それを頑張ろうなという意味を込めてモルトとカロに心の中で話しかけた。


(モルト、カロ、品種の固定化は大変だと思うが頑張ろうな。宜しく頼むよ)


 人差し指をほっぺに付けて首を傾げるモルト。


 スパンと勢いよく俺の頭をかすめるチャム。


 俺もいるやろが! とばかりにツッコまれる。良い音がするが痛くない。さずがプロ。


 モルトはにっこりと微笑むと両腕を広げて宙に浮かんだ。


 モルトの手に繋がる様にチャムとカロが吸い付く。

 

 モルトはチャムとカロを優しく握るとゆっくりと回転し始めた。


 ――――すると。



 モルトを中心に白く輝き出し、強く光った。

 

 ――――光が消えると。そこに……。



 ――――モルトに似た大人の女性が立っていた。


 ギリシャ神話の女神のように白いゆったりとした布で上半身を覆い。


 トップスの布は右手は肘ほどまで、左手は膝まで垂れさがるアシンメトリーでゆったりと波打っている。


 スカートは落ち着いた若竹色で、体全体の服が風に(なび)いて揺蕩(たゆた)っている。



 ――――え?

 

 その女性は両手のひらを上に向け顔の前で揃えると優しく息を吹きかけた。


 そこから、光輝く粒子が戯れながら回転し俺の方に飛んでくる。

 

 そして、俺のツイストバングルに吸い込まれて消えると手首が一瞬熱くなった。


 俺は驚き慌てて右手を持ち上げ、無意識にバングルに左手を添える。


 目の前の女性は再び輝くとその光の中から、チャムとカロが飛び出し俺の体に飛び込んできた。


 光が収まるとそこにはモルトが、疲れたように笑い立っていた。


そして、バイバイと手を振るとモルトも消えていった。



 ――――えぇぇぇぇぇっ?


 何っ! なにっ! ナニッ! 何っ!!


 どういう事!? モルト。お前。女の子だったの?


 ――――名前どうしよう……。


 いやっ。待てっ。そっちじゃない! 冷静になろう。状況確認だ。


 一度目を瞑り深呼吸をして、アイテムボックスをイメージする。


 すると……。




 種族:四葉(すうよう)系短形きゅうり

 氏名:シャキット

 分類:固定種

 特徴:真祖


 種族:トウモロコシ

 氏名:キャンベラ

 分類:固定種

 特徴:真祖


 種族:イタリア系中玉トマト

 氏名:シシリアンルージュ

 分類:固定種

 特徴:真祖


 …………etc。

 

 俺が今までに呼出した種が各一粒ずつ収められていた。


 

 ――――また嫌がらせかっ! ポンコツさん。さすがだな。意表を突いてくる。


 こいつらを植えたら動き出しそうで怖ぇぇよ!


 実が生っても何か食欲がわかない。


 知っているか? 今、俺。キュウリっていう種族を食ってるんだぜっ!! って! 気色いわ!


 何で品種、品名じゃねぇんだよ! 真祖って何なの? 眷属を生むの?


 とりあえず見なかった事にしよう。


 そして――このことは無かった事にもしようと思う。


 反対のものは挙手? ……いないな?


 その日は、モルトもチャムもカロも現れなかった。



§



 その光景を驚いた表情で見つめる者がいる。――パオラの配しているノアの護衛だ。


 普段は捉える事の出来ない精霊と妖精が自身の瞳に映りまず驚く。次に訪れる瞬く光。そして――現れた女神のごとき神々しい存在に言葉も無い。


 急ぎ護衛は報告をする。


「精霊と妖精が一体化して。……女神が現れた」


 高エネルギーを発した時に、極稀に起こる精霊と妖精の可視化現象。それが、原因だ。


 そのありえない報告を聞き、司書長は楽し気に破顔した。

 




 ――――翌日。

 

 朝起きると俺の胸元に顔を押し付けたモルトが大の字で乗っかっていた。


 チャムとカロもいつも通りだ。


 よかった。暫く会えなくなるかと思った。俺はほっと胸を撫で下した。


 畑に行くとモルトの様子がおかしい。


 寂しそうな、悲しそうな顔でこっちを見てくる。俺が動くとその視線が付いて回る。


 いや。分かっている。


 ――――昨日の種は植えないの? ……どうして? だな。


 無かった事にはできなかった。


 昨日の〇票から一転、反対票が三票入ったからだ。


 モルト。チャム。カロ。平等な民主主義を標榜する俺が屈した瞬間だった。


 そして俺は考え直す。


 俺が困っているのを助けてくれたのは、モルト、チャム、カロ達だ。


 だから、種は気にせず撒こう。


 イラっとさせる表示がポンコツさんの嫌がらせなのだ。そう思う事にした。


 ねぇ。みんな。キュウリの種の自家採取ってした事ある?


 普通は下位のキュウリを収穫せずに大きくするんだけど。


 ヘチマみたいな大きさになって、黄色く熟すまで置いとくんだ。


 黄色い瓜できゅうり(黄瓜)って説がある位なんだぜ。


 何故、俺が急にこんなうんちくを言い出したかというと、目の前の現実が受け入れられないからだ。


 ――――真祖は凄かった。


 目の前のキュウリは、蔓の筈なのに自立して高さが5m程あり、わんさかキュウリが実っている。


 ――――俺の感想?


 ジャックと豆の木って蔓科の豆なのに、どうして天まで自立できたんだろう?


 その模範解答が目の前にあるな! だな。


 他の真祖も一事が万事だが、俺の認識が拒否するので詳しい説明は省く。


 おかげで固定種の種は大量に手に入った。


 採れた種の方は普通に品種、品名で表示されたから安心したよ。本当に。 


 でっかくなった真祖達を、モルトが畑の中を整理するようにスルスルと自在に移動していた。


 モルト……おまえ。畑では何でもありだな。


 そして気付きたくはなかったが、バングルに新たな機能が追加されていた。


 その機能は……。

 


 ――――『種族固定化』


 ……物騒そうな機能だな。何だよ。これ!


 せめて品種固定とかなら受け入れられたかもしれないのに。


 これも見なかった事にしよう。


 のちに知ることになるが、真祖のヤツら冬でも気にせず実をつけた。


 ……この畑、早いうちからもう農業じゃねぇ!



 今日はメイリンさんを連れて、王国の人型ゴーレムを研究しに来た。


 この人型ゴーレムが作れない最大の理由が、主要動力原にして動作の根幹を制御する物質である。純魔水晶が手に入らないからだ。


 高難度ダンジョンの最下層で発見の記録が残っているが、王国内で未使用なものは王家が保有する一つのみ。


 あとは、”紋”を彫られて純魔刻水晶となり、この人型ゴーレムの動力源とされたものしか存在しない。


 王国の二,〇〇〇年の歴史でたった二つしか発見されておらず。同時期に発見された事から、同一人物が手に入れた可能性が高いと推察する。


 そして、それは過去の研究結果では腹部に収められていると記されていた。


「パオラさん。――このゴーレム。バラしても良いですかね?」


「バッ! ――ノアくん。ダメに決まってるでしょ。何考えてるの?」


「……」


「本当にダメだよ! ちょっとノアくん。こっち見なさいっ!」


 この五〇〇年でこのゴーレムの真理に一番近づけたのは俺だと思う。


 まだ、ヒントに気付いたに過ぎないが。これから更に勉強と研究は必要だが、純魔水晶が手に入らない以上。


 外側と各種関節を完コピして、純魔刻水晶を載せ替えて上手く作動するか確認はしてみたい。


 喫緊の話しではない。


 まだ俺の技術が伴っていないし、外側の作成にはガンソさんの協力が必要だ。

 

 俺が作りたいものを、メイリンさんとガンソさんで作れるようになってもらわないと困るしな。


「はい。分かりました。パオラさん」


「ノアく~ん? 諦めませんって顔してるわよ?」

*この物語はフィクションです。

空想のものであり、現実社会とは一切関係がありません。

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