閑話Ⅴ Paola's reportⅡ
――――時は少し流れる。
いつものようにノアの報告会が行われている。
プッ! ――くくっく。
珍しく執務室に司書長の笑い声が零れる。
「先生! 笑い事じゃありませんよ!」
「すまん。すまん」そう言いながら笑い続ける。
「しかし、その信じがたい話は本当なのか?」
レオカディオが訝し気に問い返す。
「チャムもカロもモルトも見えない護衛が見たと言っていたわ」
「あいつは何か不思議なことを起こさないと気が済まないのか? ――それで、その事を本人に確認したのか?」
レオカディオが再度尋ねる。
「ええ。聞いてみたわ。直接見ていた事は伝えずにやんわりとね。惚ていたけど何かあったわね。ノアくんは顔に出やすいから」
「モルト達にその後の変化はな無かったのか?」とレオカディオ。
「ええ。見た感じは違いが無かったよ」
やっと笑いが収まったウィンリールが言った。
「面白い話をありがとう。パオラ。こんなに愉快な気持ちになれたのは久しぶりだ」
「先生! 面白がってる場合じゃありませんよ」
「精霊は契約者に似るというが、本当に思いもよらぬものが出てきたな。今後の生長が楽しみだ」と司書長。
「わたしは不安です。朝の畑への散歩も目が離せなくなりました」
「今まで通りでよかろう。護衛は付いて行っているのだろう?」そう司書長が返す。
「はい。その通りですが――この間もちょっと目を離した隙にいなくなって、辺りの騒ぎに気付いて見てみれば教会の司祭が跪いてノアくんに祈りを捧げてましたよ……」
「見失っていた時間は三分くらいなんですが、司祭を最短で攻略したみたいです。聖人認定一歩手前で何とか切り抜けました。一人にするのが心配で仕方ありません」パオラはそう言って弱ったような表情をする。
「――話は変わりますが、ホワイトボードと呼ぶ物を出してから、自重が無くなったようですね」レオカディオが話題を変える。
「教科書という物を出してから、隠すつもりが無くなったというか。知ってるけど言いませんって顔してるもんね」
「イーディセルが気にしていた飛行機か?」司書長が確認する。
「はい。そうです。ノアくんの表情は失敗したというよりも面倒だって顔でしたよ。絶対」
「神の国か――信じられない程に高度な文明なのは確かだな」レオカディオが呟いた。
「あたしはノアくんの場合は、今の自重しなくなったなって後に更に何か出してくるから心配してるわ。実はまだ自重の範囲内だったとかね」
パオラは続ける。
「この間の脱穀機と唐箕みたいに、聞いたらそのうち自分で作ろうと思っていたそうだし。早めに世に出してくれて助かったわ。おかげで王国内の麦の刈り取りがいつになく捗っているわ。でもいつ何が飛び出てくるかが少し怖いの」
「――それとこの間、ディシオルティル師がぽろっと言ってましたよね。御使いの御業」
「言っていたな。少し場が緊迫した」司書長が相槌を打つ。
「ディシオルティル師が御使いで息を呑んで、の御業と続けたせいで、のみわざと聞き取ったみたいなんです。そのせいでノアくん飲み技と理解したみたいで……」
「飴の赤い玉と青い玉を苦しそうに飲んで、指定した色をすっと吐き出すんです。たぶん、アイテムボックスから指定した方の色を出してるんでしょうけど。これでいつでも要望に応えられるってドヤ顔なんですよ」
ため息交じりにパオラは続ける。
「――見せられた。あたしはどうする事が正しいのでしょう? もういっそ御使いと呼んでいると教えてしまった方が良いのではないかと提案したいのです」
それを受けて司書長のルルが情報を開示し言葉を続ける。
「ノア君の事は祖父にも報告していることは前にも話したな。エルフの口伝の研究成果で最近分かった事がある。創造神は多くの神を創りだしたが、顕現するときたった一柱だけ連れて現れた神がいた。その神は生命をこの世界に運んだと言われている」
「この世界の生命を生み出したその一柱はそれにより力を失い。神の座から降りた事が分かった。ある口伝ではそれが竜であると伝えられ、ある口伝ではエルフの祖と語られる」
「その御方は神が上天し、この地よりいなくなった後も世界に残り、御使いとしてエルフと交流を持ったようだ。だが、エルフがあまりに崇め奉ることに辟易しお隠れになったと言われている」
「その情報も含めエルフの皆には釘を刺しておく。今後は騒ぎ立てることも無くなるだろう」
「――ノア君に隠れられてしまうと、我々エルフにとっても大きな損失だからな」
ロッチへのオマージュとして。
*この物語はフィクションです。
空想のものであり、現実社会とは一切関係がありません。




