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第24話-1  転農Ⅰ

「皆さん。恩しか受けていない身で身勝手な事を申し上げますが、私は十五歳になりましたら、研究所を出て世界を見て回りたく思います」


「記憶の無い私ですが、私がこの世界にいる意義と価値を自分の手で見つけたいのです。何卒その許可を宜しくお願い致します」


 そう言って俺は深く頭を下げた。


「ノア君。初めて会った時も言ったが、我々に許可を求める必要はない。君の人生は君自身のものだ。それを縛るつもりもない」


 そう司書長は言う。


「そうだぞ。ノア。子供が恩とか身勝手とか考えすぎだ。お前は天然のくせに頭でっかちなところがあるからな。もっと我儘でも良いのだぞ」


 ありがとう! レオさん。


 ……ん? ディスってない?


 結構な気合と準備に力を入れた決意表明と方針説明会だが、あっさりと了承された。


 十五歳の成人になったらこの世界を見て回りたい。


 たったこの一言を伝えるのがお世話になりっぱなしだから大変だった。


 ――後ろ足で砂かける感覚だからな。


 司書長にパオラさん、そしてレオさんは俺の三番目の恩人だから猶更だ。


「そんな事だろうと思ったわ。ノアくん。この頃ちょっと思い詰めていたから」


 優しい眼差しでパオラさんは俺を見つめる。


「一番初めに言っただろう、正統な雇用契約だと。まぁ。外に行っても月に一度ぐらいは便りを寄こすようにな。だが、どうやら君の話を聞くに、その言葉を疑ったようだな? 私を疑った罰だ。これを受け取れ」


 怖い! 司書長が渡してくるものが怖い!


 出されたのは見た事の無い二枚の硬貨だった。


 パオラさんが苦笑いしながら見ている。


「いろいろ手を出しているようだし、運転資金も必要だろう。早く手を出せ」


 これあれだよね?


 例の王様からの賞与ってやつ。


 おいくら万ベル分なんでしょうか?


 それって……司書長。。。自分がすっきりしたいだけですよね?


 あれ? ――司書長の精霊の力が増してる。


 ――――圧が凄いんだが。。。


 ――――俺は抵抗を諦めて手を出して受け取った。


 パオラさんが目で諦めろって言ってるのが分かったからだ。


「これは何の硬貨で、どのくらいの価値があるんでしょうか?」


「一枚で白金貨十枚分だ。足らなければ言えよ」



 ――――二,〇〇〇万ベルじゃねぇかっ! アホかっ!


 ――――折に来てる!


 司書長が俺の金銭感覚を折に来てるぞっっ!!


 どこにお小遣い感覚で二,〇〇〇万ベルを渡す奴がいんだよ!


 しかも、何すっきりしたような顔しているんだよ! 腹立つ!


 笑いながら司書長が言う。


「その顔を見れたのなら、私の留飲も下がるというものだ。ノア君。明日からの古代真聖語の授業宜しく頼むぞ」


 レオさんが慰めるように俺の肩を二回叩いた。


 ありがとよ。レオさん。


 あんた牛タン係だっけ?


 あ! 牛タン担当か!


 いい顔といい声で「牛タン定食は私の担当だ!」キリッってしたときは本当に大丈夫かと思ったが。明日から解禁だ。


 一隆でも司でも善次郎でも出してやるぜ! 仙台と見せかけてねぎしも有りだな。


 受けた恩の見返りに出て行くまでに飽きるほど食わしてやろう。


 司書長へ資金提供のお礼とお暇を伝えて、執務室を後にする。



 

 

 街の食堂に向かう。


 今日は懇親会があったので、午後からの開店を告知している。


 孤児院の子達が全員毎日店へ来られる訳ではない。


 今日は自分の番だと思っていた子達がお預けを食らって寂しそうだったんだ。


 五人に確認したら遅くても招きたいって言うので13:00からの開店にした。

 

 まだ開店準備中だっていってるのに入って来るおっさんも増えてきている。


 焼きトウモロコシホイホイに引っかかった人だね。

 

 自分で魔道冷蔵庫を作れるようになった俺は、ガンソさんに箱を作ってもらって業務用冷蔵庫サイズを店に据え付けた。


 廃熱って概念すら必要のない魔道具はどこにでも置けて便利だね。


 頼んでいた上部氷結式冷蔵庫は水の冷蔵とおしぼりの冷却で利用中だ。


 汚れていても綺麗にするシャララン魔法があるので、手を拭くとか洗う習慣のない現地人にも冷たいおしぼりは大好評なんだよね。


 もう少しで氷冷機の刻印も刻めそうだが、そんな高価なものを店に置いて強盗でも来たら危険なので店への導入はしない方針にしている。


 ちなみに上部氷結式の冷蔵庫は特許(パテント)を出願中だぞ。


 これが通れば俺のもんだ。


 出願者はメイリンさん名義でお願いした。


 特許(パテント)使用で得られる利用料は折半で了承してもらった。


 なんかメイリンさん喜んでいたが、錬金術師の矢面に立たせる予定なのに大丈夫かな?


 まぁ。錬金術師が喚こうが先に特許を取らなかった奴らが悪い。


 ほどなく店に到着だ。


 やっぱいるな。不良中年。


 子供たちはいるけど夢中で食べてるから静かだな。


 今日はこの後、髭おっさんの錬金の講義に出席だ。


 そして、明日の日本語勉強会の準備をしなきゃね。


 今日も忙しいから、ケンちゃんは後回しでいいか?


 所詮ケンちゃんだし。





 そして――翌日。


 朝9:00にエルフの方々との初めての勉強会を迎える。


 昨日のエルフの名前覚えてる?


 ふっふっふっ! 俺は覚えてるぜ。


 呼びかけると噛むけどな!


 エルフ達の自己紹介も兼ねて昨日聞いた素性をまとめるぜ!


 まずはアダンボルン・イ-ディセル師。


 司書長の祖父の右腕と呼ばれた人だってさ。人間で言うと四十歳くらいに見えるけどご高齢らしい。


 エルフ内ではイ-ディセルか老って呼ばれてた。


 俺的には老にはどう見ても見えない。


 王国内では司書長の補佐で、エルフとしての地位は同等か上っぽいね。


 次が昨日は俺の隣に座ってた。


 ルインウィアス・ジージェッジリオン師。愛称はリオン。


 司書長と仲がよさそうで司書長を結構からかって遊んでる。


 どんどん行くぞ。


 エルディン・ドゥルド-ルドリ-師。愛称ドリー。


 司書長に一番丁寧に対応してる。


 スィギエティ・リンカーベリリ師。愛称べリリ。


 あんまりしゃべらない。


 ガラリル・ディシオルティル師。愛称ティル。


 たぶん一番若そうだな。


 イ-ディセル師は他のエルフを家族姓で呼んでいる。


 司書長だとア-ルヴだね。


 べリリ師だとリンカーまでだね。


 女性陣同士は愛称で呼び合うのが普通なのかな?


 まぁ。女姓(おんなせい)の方ってことだね。


 全員ひく程の美人でシンメトリーな顔って整いすぎていて怖いくらいだ。


 俺はとりあえずエルフの言葉の覚え方を聞いてみた。


 ――それは、いろは歌の豪華版だったんだ。


 イ-ディセル師のバリトン。女性陣のソプラノとアルトのハモリ。


 聞いているとバックミュージックにオーケストラが聞こえてくるようだった。


 映像的には雲の切れ間から光が差し、神でも降臨しそうな。。。


 すげぇよ。すげぇけど。いろは歌を良い声でコーラスする必要がありますか?


 俺は準備していたホワイトボードを取り出す。


「御使い! ……の御業!」


 ――ティル師が何か言った。


 全員がティル師を見て、直ぐに俺を見た。


 ん? なんだ? ……蜜飼い……のみわざ?



 ノミワザ? ……飲み技っっ!!


 っっ! コントのネタで使われている人間ポンプの事か!!


 え? 他になんかあるか? どういうこと? 意味が分からん!


 部屋がちょっと緊迫している。


 意味はわからんが、俺は蜜飼いとしてジェントルにティル師に蜂蜜を渡す。


 なに? 他の方も欲しいの? まぁいいけど。


「ほら! ノアくん続けて!」


「あー。はい。まず、この文字列を覚えてください」


 俺はホワイトボードにカタカナで五〇音を書き。


 その隣にひらながを書いた。


「一行目のあいうえおを母音と言います。各行の発音の元となるという意味です。たとえば、かぁ。きぃ。くぅ。けぇ。こぉの様に母音と連動しているのが分かると思います」


 エルフには母音の概念が無かったんだ。


 いろは歌では整理されていないからね。


 この五〇音を覚えて貰えば俺の教える事の根幹が完了する。


 言葉は完璧に話せるんだ。意欲の高い優秀な人たちだ学習完了はあっという間だろう。


 これから漢字を教えるのが大変だろって?


 ふっふっふ! 小学一年生から六年までの漢字ドリルが出せたんだ。


 エルフへの学習指導は丸投げが決定している案件なのだよ。


 ここからはずっと俺のターンだ!

ノアだ。第8話で司書長がエルフ名は人族には話辛いでしょうって言ってたの覚えてる?

司書長の名前は話し辛いって程じゃなかったよね?違和感覚えなかった?

今回のエルフ達は元から名前が決められててそれを想定したセリフなんだ。

俺がどう思ったかって?

あんな名前を5人も付ける作者がバカだと思う。


*この物語はフィクションです。

空想のものであり、現実社会とは一切関係がありません。

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