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第23話-2  動地Ⅹ



 いやぁ~。俺って料理の天才? って思っていた時もありましたよ。


 誰が六次産業(食品加工)の申し子だよ!


 そんなこと言って調子に乗っていた奴を連れてこい!


 親の顔が見てみたい!


 ――――思い出せないけど。


 料理人見習い(ネスリングス)に料理を教えだして、たぶん三日目くらいで味付けで抜かれた。


 職業料理人は伊達ではなかった。


 同じレシピでも俺が作るより、味の陰影がはっきりする。


 結局、料理は塩加減というが、その勘所がミリ単位で的確なのだ。


 どこまで行っても俺は器用貧乏どまりらしい。


 大丈夫の価値がティッシュより薄っぺらいアルバロにすら俺は敵わなかった。


 今の俺は衛生管理者とフロア-ディレクターを目指している。


 やらせる側だが、ビジネスだからですます調だ。


「良いですか。皆さん。このお店はオ-プンキッチンです。舞台上の役者と同じようにお客様の視線を意識して料理してください。料理の味を見るとき指を突っ込んで舐めたり。レードルで直接飲んだりしてはいけません。スプーンの使い回しも禁止です」


「レードルは小皿へ触れないように移して味を見て下さい。スプーンは常に新しい物と交換して使って下さい。おっさんが口をつけて味を見た料理にお金を払いたいと思いますか? それと同じことです」


 個人攻撃をするつもりはないが、一番多いのはビビアナだ。


 赤髪ポニテの彼女は良く言えばおおらかで、今俺が注意したことを全てやっている。


「はーい。ノアちゃん! 気をつけるぅ」


 いい返事だなビビアナ。少しづつ慣れれば良いんだ。


「料理は五味と言いますが、もうひとつ大事なものが食器の温度です。今は温かい時期ですので、冷たいものは冷たい器で用意して下さい。特に冬は温かい料理はしっかり器まで温めて提供して下さい」


「職人は工房を見れば腕が分かると言います。料理人も同じです。清潔で整理整頓された厨房の上にしか美味しい料理は存在しません。毎日の掃除はしっかりとお願いします」


 負け犬の俺はもっともらしく言ってやるのだ! 負け犬の遠吠えをな!


 彼らが自分達でうどんとピザを作ったあの日。


 初めて食べる料理に大騒ぎで喜んだ後は、次の日から彼らに店を任せた。


 彼らには9時から仕込みをしてもらい。


 10:30に俺が味のチェック。


 11:00開店で孤児院の子達を招いて料理の提供。


 十名の子供たちを順番にローテーションで回して、食材がなくなり次第終了だ。


 提供する料理はうどん、ミートソースパスタ、ピザ、コーンポタージュ、焼きトウモロコシだ。


 パオラさんは昼めし前だというのに、毎日コーンポタージュは欠かさず飲んでいる。


 孤児院の子供は店で注文するのが初めての為、大はしゃぎで引率の大人を困らせていた。


 ガンソさんの工房で預けて依頼した品は三日で完成した。


 ミートミンサー、パスタマシーン、麺キリカッター16型だ。 


 それを使って他の料理などもレシピを増やした。


 料理の腕は越えられたので、今の俺は料理のレシピを書き増ししている。


 下りてくるレシピには法則があり、食材を見て味わったものでないとレシピに反応しない。


 あとは誘われるように食材と出会ったりすることが良くあった。


 下りてくるデータベースを増やす為に、率先して現地産の名前も知らない食材を口にしている。

 

 当たりの食材を口にすると、時と場所を選ばず唐突にレシピが下りてくる。


 俺はガンソさんに依頼してルーズリーフバインダーを作った。


 面倒なのでルーズリーフは日本産だ。


 紙まで手を出すつもりもない。


 そこへレシピを書きなぐる。

 

 そして今の俺には豆乳で作るシチューのレシピが舞い降りてきている。


「パオラさん。師匠の目が光ってる……」不思議そうにエステラが言う。


「ああなっている時は、何を言っても聞こえないから光が収まるまで待ちましょうね」


「オーナーのあれって良くある事なんですか?」クローエが尋ねる。


「街中でも急に始まるからやめてほしいんだけど、自分ではコントロール出来ないみたいなのよね」


「……でも、なんか綺麗ね」


 ビビアナがそう言いながら、俺の目の前で見えているのか確かめるように手をひらひらさせる。


「あっ! ――――戻って来るみたい」


 見慣れているパオラさんが俺の戻りを悟る。


「――やっぱり焼きトウモロコシは、外で焼いた方が良いですかね?」


「……唐突ね」


 ん? 前から考えていた事だ。


 屋内で焼いているのに、既にホイホイされた奴らがいるんだ。


 焼きトウモロコシの焦げた匂いには人を惑わす悪魔の効果がある。


 醤油の代わりに魚醤みたいなのを使っている。


 俺にはちょっと違和感があるが、スープによく入っているので現地の人には抵抗がないらしい。


 それが集客にはもってこいだ。


「そんな事よりエルフの方々との顔合わせで食事を披露することの許可が下りたわよ」


「それは良かった。今までの練習の発表の舞台にもってこいです」俺はニッコリと微笑んだ。





 ――顔合わせ当日。


 うどん、ミートソース、ピザ、焼きトウモロコシ、温かいコンポタ、冷たいコンポタ、枝豆、キュウリの浅漬け、スイカからなるお試し料理がサーブし終わるのを待って俺も席につく。


 全員に料理の並べ順の通りに料理名を記載したお品書きを配ってある。


「今回はノア君との親睦を兼ねた懇親会だ。堅苦しい挨拶もよかろう。早速頂くとしよう」


「そうですな。ノア殿とはじっくりとお話したい」エルフ唯一の男性だ。


 エルフの名前は難しいという事でパオラさんが事前に名前の入った席順表を渡してくれた。本当に卒が無くて有能だね。


 司書長が上座に座り、司書長から見て左手手前が俺の席だ。


 俺の正面に座る男性がアダンボルン・イ-ディセル師。


 チャムとカロを受け取った時に話をしたエルフだ。


 その隣の女性がエルディン・ドゥルド-ルドリ-師


 そして俺から一番遠い端には、同じく女性のガラリル・ディシオルティル師


 長い方のテーブルに三人のエルフが座っている。


 俺の隣に座る女性がルインウィアス・ジージェッジリオン師


 この人にも一度会って少し話をした。


 その隣がスィギエティ・リンカーベリリ師だ


 司書長の正面にパオラさんとレオさんが座っている。


 って! 座るまで気づかなかったが俺の席上座じゃねぇか!


 上座の概念がエルフにあるかは知らんが……。


 俺との親睦会だからかな?


 昨日リストを貰ったから名前は覚えたが、エルフの名前って噛みそうだな。


 俺の隣のジージェッジリオン師が話かけてくる。

 

「ルルがなかなかノアちゃんに会わせてくれないのよ」


 ルルが司書長の愛称のようだ。


 詳しく聞くと司書長のアールヴが家族姓で母親の元の姓によってルルが付くらしい。


 エルフ同士ならアールヴィルルと聞けば母方の血統も直ぐに分かるそうだ。


 例えば、仮に司書長の父親が別の女性と結婚していたら女性姓がアールヴティルとかになるって事。


 関西にも似たような風習あったよね? 女紋だっけ?


 エルフはあれの更に複雑な感じかな。


 三々五々に食事が始まる。概ねうどんの評判がいい。


 エルフは肉類は鳥や魚を好んで食べるって聞いていた。そして肉よりも野菜が好きな傾向にある。


 今回の為に用意したピザはオカラの素揚げひき肉風と豆乳チーズを使ったビーガンでも食べられる特別製だ。


 それともう一つは鳥肉をトッピングしたものの二種類を用意した。


 グルタミン酸とイノシン酸のダブルパンチだぜ。


 一人だけ全種類食べているパオラさんはいの一番に注文を入れて、鳥肉トッピングピザと冷たいコンポタ、ミートソースをキープした。


 ピザに手を伸ばすレオさんの手を叩きガルルルル言ってる。


 あ! レオさんが諦めて同じものを注文にいった。

 

「ノア殿この枝豆と言う豆はおいしいですな」


 イ-ディセル師が俺に話かけて来る。


 この枝豆はメグでお馴染み雪印の味風香(あじふうか)だ。


 枝豆は大豆の未熟果だろって?その答えじゃB+も貰えないぜ。


 大豆の中から甘味の強い品種を選抜育成したのが今の枝豆だ。大豆では食べない専用種だぜ。


 その中でも味風香(あじふうか)は香りがよく旨味がギュッと詰まった甘い品種だ。


「イ-ディセル師。お口に合って何よりです」


「今度ノア殿の畑を拝見に上がっても良いですか?」


「ええ。いつでもどうぞ」


 そう答えるとイ-ディセル師はにっこりと微笑んだ。


「あたしも行きたい。この冷たいスイカというフルーツとキュウリの漬物? 美味しいね」


 そうジージェッジリオン師が話しかけてくる。


 そのスイカも特別性だ。


 ナントの小玉スイカ、ピノ・ガール。種が小さくて柔らかい。


 種ごと食べても気にならない画期的なスイカだ。スイカの革命と呼んでも過言では無い。


 まぁ。俺はスイカの種を気にした事はないが、種のせいでスイカの消費が落ち込んでいるらしい。


 大玉スイカの方が強い傾向にあるスイカの歯ざわり、シャリ感っていうんだが、小玉でもシャリ感が強いんだ。


 スイカの赤い果肉部分。しかも中心の甘味の強いところだけを切り取って食べやすく盛付ている。


「ジージェッジリオン師。今日の為に料理人がたくさん用意しました。好きなだけ召し上がって下さい。畑の方もいつでもどうぞ」


 なんでみんな畑に来たがるんだ? モルトが珍しいのかな?


 蜜蜂の蜜が溜まったかチェックしたいのかな?


 六月くらいにならないと蜂蜜はたぶん取れないよな。

 

 俺は食事もそこそこに紅茶のポットをもってエルフへのあいさつ回りをする。


 司書長以外の女性陣から愛称で呼んで良いとの許可がでた。


 ものの見事に全員の名前を噛んだからな!


 大盛況のうちに食事会は成功し、最後に料理人達を紹介し盛大な拍手のもと懇親会は終了した。


 ――おみやは蜂蜜だ。


 パオラさんからも用意した方が良いよって言われてたしな。


 エルフは蜂蜜が好きなんだろう。


 市場では見かけなかったので日本産の蜂蜜を用意して瓶だけ現地で調達した。


 この後いよいよ俺の方針説明会だ。


 上手くいくと良いな。

*この物語はフィクションです。

空想のものであり、現実社会とは一切関係がありません。


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