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第3話  邂逅

 ――――あれから一週間。


 歩むれど歩むれど、なお我が生活(くらし)楽にならざり。


 目を覚ましたあの場所で、他の選択が正解だったか?


 夜まで待ったら街の光が見えるとか、事案発生まで待機とか?


 他にも右か左へ進むってのも選択肢にはあったけど、どれも一応検討はしたが、選択しなかった。


 右と左は積極性に欠けるし、待機は俺には性に合わない。


 迷ったのが森か平原だからな。


 ……あの状況なら、何度選んでも結局平原を選んだだろうしな。


 一度森向かってからが正解だった気がするが、ちょっと行ってみようって距離じゃなかったからなぁ~。


 この一週間で何度も思い返しているが、もうこれぐらいで後悔はやめておこう。


 幸いなことに野獣には遭遇しておらず、世知辛いことに食べ物も発見できていない。


 一つ僥倖があったとすれば、水は何とか確保できた。


 昼と夜の寒暖差が激しいので、深夜になると濃い霧が発生する。


 それが、霧雨のように降り注ぐので、朝になると地面に水溜りが出来る。


 知らない初日は、地面をべット代わりに外套掛けて寝ていたらずぶ濡れになって凍死しかけた。


 まぁ。その霧雨のおかげで水溜りが出来るので、あとはこれを手ですくって少しずつ水筒に集める。


 すると案外きれいな水を集められる。


 最悪の場合、自分の小を水の代用とすることも検討していたので、それに比べれば天国だ。


 水の確保は問題なくなったので、誰でもいいからとりあえず食える物をボクに下さい。


 草? たくさんあるが”タベルナキケン”なものでした。


 渋柿のように口の中が麻痺する程のえぐみ。


 ボクは草ですっ! 食べれるものなら食べてみろっ! と自己主張の強い臭い。


 少量の経口摂取で腹痛と嘔吐、下痢まで発生する凶悪さ。


 水問題が解決してなければ脱水性のミイラになってたよ。。。


 野生の草食動物でも食べられないから、生息していないのだろう。


 草以外、動物も花なども一切ないこの草原は不思議なことに、驚くほど平らで、石などもなく、低木すら生えていない。


 石があればドロップ代わりに舐められたのに。。。


 草丈の低い草原にもいろいろあるが、起伏のあるモンゴルの草原と言うよりも、ただただ平らに広がる南米のパンパにイメージが近い。


 パンパ? ──────そうっ! この一週間で一番の収穫は、記憶を一部思い出したのだ。


 といっても名前も家族のことも思い出せないが、日本の一般常識と農業に関する知識。


 祖父母のことを思い出したのだ。


 どうやら、俺は農業に従事していたか、農業資材関連を販売していたようだ。


 年齢は思い出せないが、二十歳は越えていたのだろう。たぶん。 


 その為だろう。農業関連に偏った記憶を持っていた。


 この調子で他のことも思い出せればと思っている。


 さて、今日も歩きますか。歩くだけのお仕事です。





 ――――それから一週間。


 歩むれど歩むれど、なお我が生活(くらし)楽にならざり。


 人間って二週間絶食しても死ねねぇのかよ。


 もういっそ一思(ひとおも)いに。。。って気分になりかける自分を叱咤して、敢えて笑顔を作る。


 おなかと背中は既にくっ付いた。


 くっ付いた後ねじれて、メビウスの環のように表裏一体だ。


 ……はっ? どういうこと?


 もはや俺の思考もパルプンで、出てはいけない量の脳内麻薬が今の精神を維持しているのだろう。


 人間は水だけで一ヶ月ほど生きられるらしいが、それは動かなければだ。


 日の出とともに歩き出し、日の入りとともに寝床につく。


 この今の俺がいつまで生きられるかは、もはや不明だ。


 今日かもしれないし、明日かもしれない。


 でもまぁ。――――いいさ。


 既にその覚悟は決めている。


 覚悟を決めたと言っても、眠ったら目を覚まさないのではないかと毎晩眠るのが非常に怖い。


 それは死という終わりへの怖さでは無い。


 ――――死に方への怖さだ。


 眠るように死ぬ? はっ! そんなのなんてまっぴらだ。


 天邪鬼な俺は、どうせなら生きあがいてのたうち回っても、天に唾しながら最期を迎えたい。


 俺をこんな目に合わせた。


 ――――ポンコツのクソ野郎と叫びながらな。


 それまでは意地汚く生きてやるんだっ!


 ションベンまで飲む覚悟をしたんだ。


 泥水どころか食える物はなんでも食ってやる。


 ――――それすら残念ながらないんだけどね。。。


 俺には元の世界の思い出がないから、そこに戻る未練も湧かない。


 その為の記憶無しの処置かもしれないが、俺に真意は闇の中だ。


 戻るための方法も分からないし、戻っても日本にいたときの俺とは違うものになってる。


 だったら選択肢もない。


 この世界で生き延びてやるっ!


 ――――それだけだ。


 どうだっ! 見たかっ! 思ったよりしぶとかっただろと皮肉に笑うんだ。


 天寿を全うするのが、こんな目に合わせたヤツへの意趣返しには丁度いいだろ。


 そしてその時を迎えたら、やるだけやったお前は偉いと自分を褒めそやし、中指を立てて笑顔で死を受け入れよう。


 その機会がもうすぐそこまで来ていても、最期は同じことをするまでだ。


 ――――笑いながら死のう。


 ――――その方が俺らしい。


 俺が線を引いた覚悟は、そういうものだった。


 この死の行進でも、俺は笑顔を顔に張り付かせて歩いて来た。


 そうやって二週間歩いて来た過去の自分の行動の上に今の俺がいるんだ。


 今まで積み重ねた志と意地を裏切りたくない。


 幸いな事に体は頑強で、筋肉を生命エネルギーに分解中だ。


 筋肉は落ちてきているが、このおかげで今を生きていられる。


 ――――今日も命の限り歩いて、また日が暮れた。


 暗くなるとやることも無いので、防水対策を入念にして、寝床を作ってふて寝するのだか、この日は違った。



 ――――右前方二時の方向に、光のきらめきが見える。



 ――――灯りだ。


 俺は取るものも取り敢えず、無我夢中で走り出した。





 後から思い出しても、この事はやらかしたと思う。


 草原で夜に誰かに走り寄られたら、それだけで事案だし、俺的にも相手が善人とは限らない。


 お互いに不幸な出会いだった。そしてそれは、思慮の足らない行為だった。


 だが、その時の俺は、拷問のように続く生命の危機と、極限的な飢餓により、見えた灯りに一縷の望みをかけて、すがるよりなかったのだ。


 必死に走ると光源は焚火のようだ。


 その距離100mほど、野宿をしているのがわかる。


 ん? ――――キャンプっぽい?


 すると、一人が焚火から離れてこちらに歩いてくる。


 えっ! ……この距離で気づいたの? 俺の周り、足元も覚束ないほど真っ暗だけど。


 そこから、20mほど走って。


 はたと気づく。


 ――――あれ? ……まずくね?


 そして、その場で立ち止まる。


 まぁ。真っ暗だから俺には気づいていないだろうが、念のため、両手を挙げてゆっくり近づいた。


 お互いの距離が20mほどになったとき。


 張った大声が聞こえた。


「〇▽×◇!☆〇×□△§ΔΘΨ▽!」


 うっわぁ~おぉっ!!


 ――――言葉が通じないっ!!


 今日も世界は厳しさに溢れている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まだ3話ですが、主人公の目的、死生感が良いですね。無理のない導入で応援したくなります。ゆっくり読ませていただきます。
[良い点] とりあえずなんとかよめるレぺル [気になる点] いまいち話のあらすじが自分でかけないないよう 何をどうしたいのか、主人公の目的が全く明白でないのでの照り込めない [一言] 特にないですけ…
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