第19話-2 動地Ⅱ
そういえば、一日で種から芽が出た理由が分かった。
いや――正確には分からんのだが……。
俺のアイテムボックスには、いつの間にか消去機能が付いていた。
気付いたのは、確か……気を失って朝チュンで起きた日の朝だ。
前日の夜に部屋で慌ててしまった牛タンの食器を、せっかくだしシャララン魔法できれいにしようとした。
一度出そうと思い浮かべると頭の中に汚れを消去しますかというイメージが伝わり、肯定すると綺麗になったのだ。
ラーメンの残したスープもこの消去機能で消した。
あの日は山越うどんのかまたまを食べた時で、同じようにアイテムボックスに収納して汚れを消去しようとした。
その時に俺は新しい機能が追加されていることに気がついたんだ。
植えている野菜の種類ごとにフォルダ分けされていて、試しにキュウリのフォルダを開けると一本ずつ個別のキュウリを指定できるようだ。
そして全体の野菜の生育速度が一〇倍に設定されていた。
一日で十日進む計算だ。
野菜の生長速度は、横軸で左右にスライドさせる事が出来て、右一杯に移動させると最大で三〇倍。
左一杯に移動させると最小で〇だった。
――〇? ……? 生育を止められる?
売り切れない量は、そのまま収穫しなくても大丈夫って事になるのか?
でもアイテムボックスに入れれば、そんな機能使うこともないか。。。
そんな事よりトウモロコシが三日で収穫って……ぶっ壊れだわ。
……って! 怖ぇ~よ! ポンコツさん。俺の事はリリースしたんじゃなかったの?
どっかから見てんの? もう分かったから勘弁してくれよ。
俺がポンコツさんとの切るに切れない絆を感じるアイテムが腕輪だ。
忘れた頃に存在をチラつかすのはやめてもらいいたい。マジで。
縁を切ろうと外せるか試したが、この腕輪どうやっても外れないんだよね。
なにしろ俺はこのツイストバングルが地雷の可能性をずっと疑っている。
鍛冶屋に頼んでぶった切ってもらおうとしたが、細いくせに傷一つ付かない謎の金属で幻想級クラスのアーティファクトじゃないかと言われた。
幻想級が何かよく分からんが。
もったいないから考え直せと散々言われたので高価な物なのだろう。
だが俺にとっては不吉で不用な品だ。
アイテムボックスは金を出せば買えるしチェンジを要求したい。はぁ。
呪われてないか神殿で見て貰ったがそんな事も無く、むしろ神聖な力を感じると言われた。神聖? ポンコツさんには一番似合わない言葉だ。
なにしろ俺にとってポンコツさんは悪魔みたいなものだからな。
機能の追加に気づいたあの時は、ポンコツさんの存在を感じて、急に黙り込んで顔を青くさせたから、パオラさんに随分心配された。
新しい機能だが良く見ると、畑に植えた現地産の野菜も生育速度をいじれるみたいだった。
今の設定を確認すると一倍となっていた。なるほどな。
また思い出してちょっとブルーになったが、今は一週間の間に俺がやったことの話だったな。
この一週間の間に昼は小麦料理を出し続けた。
司書長がうどんを気に入ったので誤魔化しながらうどんは多めに出した。
まずは香川より池上製麺のかけうどんとギョロッケ。
ギョロッケは餃子とコロッケの相の子みたいなのだな。
讃岐にしては細目のうどんで優し味のお出汁でスルスルと頂く。
次の日は長野市民のソウルフード老舗スパゲッティのアルデンテ。
注文を受けてから茹でる1.9mmの太いもちもちのパスタ。
いやスパゲッティと言った方が適切な古式ゆかしい味だ。
和風スパゲティが名物の店だがここからナポリタンをチョイスした。
その翌日はまたまた香川県より、一日に一時間しか営業しない日の出製麺所のあつあつのかけうどん。
この店以外で見かけない”ぬるい”を選べる名店だが、かけうどん一択だ。
製麺所だけあって小麦の香りが一際引き立つうどんだ。
あくる日はピザ〇ラのピザだ。
L寸ハンドトスのジョイズスペシャル。
カットされたピザ一枚に一本のアスパラガスがドンとのった幻のメニューだぞ。
アスパラって旨いよね。
そして、その次の日は、再度香川より、うどんバカ一代のかけうどん。
コシが強いのに舌触りがよくぶつんとはじけるツルツルもちもちなうどんだ。
昨日は一周回って大阪の関西さぬきうどん釜たけのかけうどんだ。
讃岐うどんとは全く別物だが、出汁がきりりと立って麺は柔らかくもちもちの触感。
柔らかいのも有りだという事と同じうどんでも多様性があることを伝えたかった。
レオさんは牛タンを食べたそうにしていたが司書長が殊の外うどんを好んだので、それを盾に誤魔化し通した。
今日の昼に俺は一つの決意表明をする。
その結果次第では食わしてやろうじゃないか、な! レオさん。
今日はエルフの方々と顔合わせも兼ねた食事会だ。
会場は外にセッティングして貰っている。
芝生の上に絨毯が敷かれ椅子が九脚用意されている。
全員がゆったり座れる巨大なテーブルがあり、日除け代わりの大きなタープが頭上を覆っている。
俺は三十分前に会場入りして段取りの確認作業だ。
あっ! パオラさんとレオさんが会場に現れた。
ぞろぞろと司書長と他に五名のエルフの方々も会場入りだ。
自己紹介と挨拶を一通りこなして俺以外の全員が着席する。
俺は後ろを振り返って伝える。
「皆さん。いつもの練習通り料理すれば大丈夫です。レセプションのつもりで緊張せず行きましょう」
「「「「「はい!」」」」」
俺の後ろには男の子が二人と女の子が三人の計五名が立っている。
孤児院で暮らしている来年十五歳の成人を迎える子供達だ。職業は四人が料理人で女の子一人がパン職人だ。
まだオープン前だが、今俺が借りている野菜の販売店と料理の店で雇い入れている。
俺は正面へ向き直ると着席している全員に話し掛ける。
「今日。皆様にご用意する料理は初めて目にするもので味の想像が出来ないでしょう。初めに少しの量を全種類ご用意致しますのでお好みのものをご注文の上お召し上がりください」
俺は後ろを振り返り頷き食事の配膳を促す。
子供たちは皆一斉にトレーを手に取り、開始時間に合わせて作っていた味見用の料理をサーブする。横三列縦三列に九種類の料理と野菜を並べる。
「皆様の手前側。右端の料理がうどんです。その左隣がミートソースパスタ。その隣がピザです。色が鮮やかですが、旨味に溢れています。是非召し上がって下さい」
続けて説明する。
「中ほどの料理の説明に入ります。中ほどの一番右が焼きトウモロコシです。手に取ってお召し上り下さい。その隣が冷たいコーンスープ。そのとなりが温かいコーンスープです。本日は陽気も良いので冷たいスープもご用意し致しました」
「三段目は口休めです。右から枝豆。キュウリの浅漬け。甘いスイカという果物です。今後の為に食べた感想を伺えれば幸甚です」
このメニューは材料集めやレシピの書き起こしこそ俺がやったが、ほとんどこの世界ので採れた食材で料理したのは子供達だ。
唯一淡口醤油だけは日本産を使っている。それは今は仕方がない。
コーンスープにコクを足したくて、慌てて大豆を育てて豆乳を作ったが、何しろ三十倍のぶっ壊れ育成で何とか間に合った。
現地産の材料で子供達に料理を教えて作らせたのには二つの訳がある。
一つ目は俺が行っている。不思議な料理を呼びだすという特異性を、この世界でも賄える普通の料理だと証明するためだ。
まだまだ手札はたくさんあるぜ?
それとつけ加えるなら俺が呼び出す料理が食べたくなったら、俺じゃなくてもこいつらがいるよってことだな。
スケープゴートは任せたぞ君たち。店が軌道に乗ったら、店はあげるから俺の自由のために王都で料理道を邁進してくれ。
多分大丈夫と信じたいが、司書長が本気で俺を手放したくないと考えたら俺に抵抗する手段はない。
初めての面談から俺の立ち位置も随分変わった。
だから司書長に”特別な料理”の希少性を下げてから、今日の決意表明と言う名の話し合いに臨みたかったんだ。
二つ目の理由だが、トマトとかキュウリとかトウモロコシとか初めて見る野菜を誰が買うんだよ? 問題だ。
特にトマトなんて江戸時代は観賞用だったんだよな。
料理を出して味見してもらって、レシピを渡して初めて買ってくれるだろう。
あの食いしん坊のパオラさんですら初めて見る真っ赤な色には引いていた。
せっかく作る野菜だ。この世界に定着させたい。
今回の会食に至ったあれこれを伝えるなら、初めてメイリンさんの魔道具店に行ったところから話さないといけないかな?
それとさ。こっちの世界でうどんを作るときに俺の隠れた才能にもしかして俺ってば天才? って思ったんだ。
*この物語はフィクションです。
空想のものであり、現実社会とは一切関係がありません。




