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第19話-1  動地Ⅰ

 俺が妖精と精霊と出会って一週間が経った。


 その間に妖精と精霊に、無いセンスをひねり上げて名前も付けてある。


 名前だが青がチャムで緑がカロだ。


 チャムは活発でいつも、だいたい飛び回っている。


 それに対してカロはおっとりしてるのか、落ち着いているのか分からないが、あまり激しくは動かない。


 このように同じ精霊でも性格に違いがある。


 そして小人の名前がモルト・カリノ。通称モルトだ。


 異常な生長を見せる野菜の世話にビビっていた俺だが問題は解消した。


 ――モルトが全部やってくれる。


 謎のキラキラする光が手から放たれて、トマトの脇芽が無くなり、キュウリの下位の小蔓が消え失せる。


 俺がやろうとしていた、仕立や処理が全ての野菜に施されて、そこに綻びが無い。


 俺が凄ぇな~と見ているとドヤ顔ならぬエッヘン顔で俺の前にやってきて一本指で鼻の下を擦る。


 なんだ! このあざと可愛い生きものは?


 俺はモルトの帽子を取って頭を撫で廻す。


 スーパーファーマーモルトくん。


 それはそれで農家として味気無さを感じるが、異常生長の野菜に付きっきりでいる訳にもいかない。


 そんなこんなで、まぁ。割り切ることにして、モルトには毎朝たっぷりの魔力を渡し感謝を伝える。


 この頃の日課の話だが、朝の6時に目を覚ますといつもモルトが部屋にいる。


 いつ来たのかは分からないが、俺が起きるのを机に腰かけて待っている。


 身支度を整えたら学舎を出てモルトと一緒に朝の畑を確認に散歩する。


 その間チャムとモルトは追いかけっこをするようにぐるぐる走り回り、カロは俺の肩のあたりにずっと漂っている。


 朝の日課にする予定だった水遣りもモルトとチャムが代わりにしてくれる。


 俺のやることはツンツクに挨拶をしてスズピヨの餌台に小鳥用の餌をぶち込むだけだ。


 オナイギがもうすぐ卵を産むらしい。そんな世間話しをして過ごす。


 ちみっこモルトはこの周辺の生き物から慕われている様子で、この間などトノ・ヒメ・ワカとちびグモに回りを囲われていて、クモ達が同じ動作で足を上げ下げする。なんかの儀式みたいなのをされていた。


 その時はあの天真爛漫で無邪気に笑うモルトが珍しく苦笑いをしていた。


 この一週間の俺の話をしよう。結構色々活動的に動いたつもりだ。


 俺の一日の予定は、毎朝必ず司書長とパオラさんとレオさんと朝礼をすることから始まる。


 十分程度長くて三十分ほど。まぁ。ホームルームみたいな感じだね。


 それから毎日三人と昼食をとる……以上で終了。


 それ以外は自由時間だ。

 

 司書長をはじめとして、エルフの方々は研究所内で非常に重要な指導的立場に立っており、時間の調整がまだ整っていない。


 日本語の教師を仰せつかった俺だが、生徒側の準備が整っていないのでやる事が無いのだ。


 暇な俺がその間にやった事の一つは、時間は有効に使わなきゃねっと三回ほど錬金術の授業に参加した。


 髭おっさんの授業だ。


 錬金の教科書を事前に読み込んでいた俺は錬金術で出来ることが増えた。


 主に魔道具製造についてだがその基礎を理解した。


 髭おっさんにもらってた魔石に刻む刻印の教本(基礎編)が非常に役に立つものだと分かった。


 ありがとよっ! 髭おっさん。

 

 そこで学んだ事だが錬金術の歴史の中で一〇〇年針を進めたと呼ばれる人物がいる。


 不世出の天才錬金術師ディリオゼル・ドノバンだ。


 この人がミスリルで金を錬金して、二万年前に廃れたゴーレム技術を復活させた。


 俺が思ったこと? 彼以外は錬金術師名乗っちゃいけないんじゃね? だ。

 

 興味を持った俺はディリオゼルを調べた。


 彼は体が弱く人生の2/3をベッドの上で過ごし二十六歳の若さで夭折した。


 ――五〇〇年前の話だ。


 凄いよな。動き回れないのに画期的な実績を残している。


 更に興味を持った俺はレオさんにディリオゼルの事を聞いてみた。


 すると王国図書館の一般閲覧禁止区間にディリオゼルの手記があるという、何とかならないかお願いすると入室の手配をしてくれた。


 ディリオゼルの手記……まぁ。日記かな? を読んで分かったことがある。


 彼が七十五歳まで生きてたら今の世界は大きく変わっていただろうって事だ。


 この人の最大の発明は魔視眼と本人が呼んでいる眼鏡だろう。


 この魔視眼を使ってゴーレムに使われている魔力的効果を観察し刻まれた紋を模倣した。


 それにより紋の意味や効果は分からないが、動くゴーレムを二万年ぶりに生み出した。


 多分時間があれば、効果すら立証していたと思われる。

 

 そして金の錬成の成功という偉業。


 前にちゃんとやれ錬金術師と言ったが、ディリオゼルは金の錬金に真っ向から取り組んでいた。

 

 歴史上の数百年あらゆる手法と物質で金の精製に失敗し続けて来た錬金術師達。


 その中で金に一番近づいた錬金物質が、オルオレリと呼ばれる謎の金属だと言われている。


 今までに数件しか錬金精錬されていない希少な金属だ。


 出来損ないを意味する名を持つこの物質を、ディリオゼルは研究した。


 そして彼はオルオレリを生み出した、偶発的な錬金的効果を転化と名付けた。


 彼はこの転化を任意に起こして上位の物質から金を錬金できないかと考えたのだ。


 ディリオゼルの考え方はシンプルで、その方が下位から上位への錬金より簡単だからだ。

 

 やがてディリオゼルはミスリルの転化により金の錬金に成功する。


 そのミスリルを転化させて金を生み出すプロセスを魔視眼で何度も検証し、とうとう金からミスリルを生み出すことに成功している。


 凄くね? これって金を生み出すより画期的で歴史に残る偉業だよね。

 

 更に手記の記録では下位物質から金の錬金にあと一歩の所まで近づいている。


 金を錬金するための全ての材料が正確には書かれてはいないが真鍮とエクトクリフと呼んでいる物質を使って次の錬金で成功できると確信している。


 ――だがその実験の前に彼の人生は閉じる。

 

 今の世に残念ながら彼の生み出した魔視眼は残っておらず、何故か研究資料も残っていない。


 その偉業はミスリルから金を生み出した事と、ゴーレムを復活させたことの二つのみ認められている。


 ディリオゼルのその他の偉業は手記にのみ語られる。


 口さがないものは自己顕示欲を満たすためのホラだと言い放つ。

 

 だが、俺はこの手記に書いてあることは間違いなく本当だと思う。


 何でかって?


 ――内容の2/3は彼が恋する女性への想いを綴っているからだ。


 ディリオゼルもまさか後世で自分の手記が誰彼構わず読まれてるとは思ってないよね。


 俺だったら死ぬ前に燃やしたいものNo.1のアイテムにわざわざ嘘なんて書かないだろう。


 こうやって長々となんでディリオゼルの話をしたかって言うと。


 ディリオゼルの事を調べてる途中で知った事実があるからだ。


 それにより俺は彼に大変感謝しているんだ。


 ディリオゼルよゴーレムに刻まれている”紋”を発見してくれてありがとう。


 ディリオゼル。あなたが動かした針は二万年分に相当するほどの偉業だ。


 ゴーレムを動かす為の”紋”。


 それは直線と曲線を合わせた複雑な文様だった。


 機能的かつ合理的で美しい文様。


 迷路の様なゴシック体で俺もしばらく気づかなかった。

 

 模様として見ていた”紋”をある日突然理解した。


 ゴーレムに刻まれている”紋”それは俺の良く知る文字だった。




 ――――古代真聖語だ。


 外国人が書いた漢字の様にバランスがおかしく。


 本来の線よりも長かったり短かったりで更に分かり辛くしている。


 一つ一つの線は定規で書いたように払いすら真っ直ぐで几帳面に整えられている。


 それなのに変なところが曲線で、まるで日本人だけが読めないフォントのようだ。


 そのせいでしばらく気づけなかった。


 そしてもう一つ、メイリンさんがまだ作れないと言っていた氷零機の魔刻印も”紋”と呼ばれるものだった。


 オールドイングリッシュにも似た一般の魔刻印と篆書(てんしょ)体に似た魔刻印では難易度が違うのは当たり前だ。


 上級魔刻印とも呼ばれる”紋”のデザイン集をメイリンさんに見せて貰ったので間違いない。


 ゴーレムも魔道具の一つだったのだ。

 

 それを知った日に俺は、俺の作りたいゴーレムの製造を決意し、メイリンさんを巻き込むことを決めた。

*この物語はフィクションです。

空想のものであり、現実社会とは一切関係がありません。

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