第23話-2 事情Ⅱ
「貴方の目標は何になるのでしょうか? 具体的な、達成目標と出来れば、目標金額を教示してもらえますか?」
俺からの問いに変わらぬ声で返ってくる。
「私の目標は、領民全ての幸せです。優先として、冒険者孤児、戦災被害者などのケアを重点的におこなっていますが、いずれは、更に広く。困難な状況の方々へ手を差し伸べたいと考えています」
……行政側の人がおる。目の前の人物を遠い眼で見てみる。個人の目標としては無茶がすぎるよね?
王国からも補助金が補填され、領主も予算配分しているのでは? と聞いてみる。
「えぇ、勿論です。ですが、補助が篤くて過ぎることはありません」
うーむ、正論。だが、王国及び、領主批判にならない言質対策と見た。事実、俺が見る限り最低限って感じ、孤児院でいうと月一でちょっと豪華な料理が出る、みたいな。
下を見ればきりがないが、ここの状況は手篤い方だとも思う。
いつもは、割とフランクなクランマスターが、貴族の仮面を装備した感じで、要領を得ない。裏の意味まで考えないといけないパターン?
「それでは、私もその志に賛同して、資金提供したいのですが?」
そう問うてみる。まぁ、特許料だけでも結構ウハウハだしな。ガンソさん、メイリンさんありがとう。
「お気持ちだけで、これは、私が自身に科したノルマのようなものですからね」
裏読みすると、お前ごときが、崇高な我の行いに、軽い気持ちで何を口出してくんな! 黙ってろ! このすっとこどっこい! ってことか?
ってか、何か、パオラさんがおかしい。今日は、彼が倒れてからずっとだが、隣で顔は見えないのに、何だろう? 悲しみ? は、近いけど違う負の感情を帯びている。
謝罪? 違うな、懺悔にも似た、何だろう、贖罪を無言で身体の外に出したらこんな感じになるのかね。
場が混沌としている。クランマスターは気づかない筈なのに、そっちを見ないようにしているし。
「一人では大変な事もあるでしょう。私達は余裕があり、貴方の手は多い方がいい。私が協力できることは何かありませんか?」
そう問うてみるが、邪魔しないのが一番の協力ですとか言い出したらどうしよう。まぁ、最悪、過労の方は、薬か、魔道具で強制催眠する手も候補に入れておこう。
俺は、目的のために手段は選ばないし、実験の為に目的も選ばない。なんだったら、手段の為に目的を作る。キリッ! マッドな農学者なのだよ。
俺の内心を知らずに、クランマスターは、今までの仮面を外したかのように破顔する。
「もちろんです。ノアさん。――あなたの体現した実績は聞き及んでいます。その見識と技術を是非、このディンケルスでも振るって下さい。要望があれば、個人で資金提供も協力します」
「……。……」
なるほど、ってか、……クランマスターは孤独なのかもね。信用できる人間はいないのかな? 俺が提案した“協力”は、裏読みのほうで、『貴方だけが知っているドロップを、私達と協力して集めませんか?』のほうだったんだけど。
その方が、効率がいいし、量も確保しやすいだろう。利益を欲していない俺達なら、ギルドの買取り額で納めて中抜きしてもらっても文句は言わない。
彼が今まで通りの量を集めた上で、俺達の分が加算される分には問題がないであろうと思ってさ。
今この場には、また、何故か泣き出しそうな雰囲気を帯びて、クランマスターから眼を離さないパオラさん。顔は平静を装いながら、順番に全員の顔を見渡している心配そうなエステラ、全員が彼の身を案ずる者達の面会だ。
俺は、若干、彼個人より、パオラさんの味方だけれども。。。
打ち合わせの趣旨から、そう判断すると思ったんだが、そこまで、頭が回らなかったというより、ある部分本心。いや、元から俺に期待していたってことなんだろう、そして、意識誘導かな? 気づかない振りをして見せた。
その意味は、拒絶。ちょっと強いか? 配慮? を感じた。まるほどね。――パオラさん、『姫様』問題か、立ち入ったことは知らないが、彼女は、えぇとこの娘みたいだから、貴族的何かに、巻き込まないように、或いは、その類いから遠ざけたと見るのが正解かな。
多分、その何かが、古参のクランのメンバーにも頼れない理由だ。故に孤独。そんなんじゃ、若いのに白髪が生えちゃうよ。
そうなると、俺の疑念。賢い彼にバカチン問題は、ありえない。何かそうせざる負えない理由があって、そのルールから逸脱するつもりはないのだろう。
あと一つ重要な情報だ。寄付に固執するつもりはないようだ。何故なら、資金の提供を示して見せた。
そのあと、質問と誘導を会話に織り交ぜて分かった事は、彼が領主と協力して何かを為すつもりはない、あるいは、出来ない可能性が高い。理由は不明。
寄付に関しても、先に出た商人経由で行っているようで、自身の名が表に出ないようにしている。これは、潜り込んだ時の会話とその事に水を向けた時の反応による想像だが、大きく外れてはいないと確信している。
彼がクランマスターになってから一〇年、同じ生活をしており、ほぼ全額を寄付に回している。明言はされなかったが、会計長に聞けばすぐに知れることなので、要確認だ。
ってか? 一〇年? そんなに前って、あんた子供じゃ? ……。
本人が言うつもりのない、隠された真意が不明の為、現状はここまで、少し調べて、彼の肩から荷を下ろす方法は、また、考えないといけない。
それにしても、春色の声で、当たりの柔らかい柳の君は、しっかりとした芯が通っていた。まぁ、そうでもないとクランを束ねることは出来ないんだろうけど。
そこから、俺は彼の事を調べてみた。そこで知る事実と彼の二つ名を持って、パオラさんを街の個室レストランに呼出したんだ。二人きりでね。




