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第21話-1  共同Ⅰ

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 ――――スタンピード発生後、ダンジョン内


 俺は、アンキーレの楯を十一畳展開して安全圏を確保している。その空中をけん制するように、回転する外側には溢れるモンスターの群れ。内側にはパオラさん、エステラ、そして、クランマスのラウレニウス、長いので愛称はラウだ。いつも通りに自然体で適時攻撃を繰り出している。


 ゴリゴリの前衛は俺だけだが、まぁ、ラウは剣士としも超一流、勿論、魔法使いとしては王国一ともっぱらだ。天は選ばれた物に二物も三物も与えるものだ。才能をギフト(贈り物)というが、まさに持っているものに集まるものらしい。


 殿(しんがり)はエステラ。滅多に見せないスヴェルの楯で背後を守っている。それ何って? これも、ウェン師から贈られた神器のレプリカ。身を焦がす太陽の熱から世界を守ったと伝えられる楯だ。ほらね、持っているものに集まるんだよ。


 ウェン師、俺にはなんもくれなかったのにな。。。


 ラウが指針を示す。


「――なるべく早く上層の転移門を目指します。ですが、それが消失している可能性も念頭に、失望や油断、隙なく行きましょう。可能であれば、探索中の他のパーティーと合流をしたいと思います。ノアは何かありますか?」


 ラウが俺に意見を求めてくる。


「――そうだね。悪いけど、合流したら手を隠す、いいかな? 『堅牢くん』とその派生もあるから、戦わずに進む方法もあるし」


 それは何か怪訝な表情を作るラウだが、諦めたように口にする。


「敢えて、それが何かは聞きませんが、……安全に進めるならそれでいいですよ。パオラ様とエステラさんは、何かありますか?」


「マスター。あたしの事はパオラと。何度言っても戻ってしまいますね」


 パオラさんが膨れたように可愛く睨む。ラウは苦笑いして、言い直した。


「すみません。パオラさん」


 更にほっぺが膨れたぞ。目力で()()()と訴えているが、ラウが軽くいなした。……どっかでやってくれないですかね? 今スタンピード発生中、生暖かい空気が!


 エステラは小首を傾げて特にない事を示した。大人対応ともいう。


 じゃあ、ぼちぼち行きますか。前衛の俺が歩き出せばそれはパーティーの歩みとなる。アンキーレの楯が、モンスターをしばき倒しているから普段と速度は変わらない。


 スタンピード直後は、焦ったが、知らない敵もいなかったので、直ぐに通常運転に戻った。なにしろ王国に名を轟かす、二つ名持ちのA級冒険者である、ラウがいるしね。器用貧乏を自認する俺が、前衛に専念する日が来るなんて、ラウなんて、万能のチート野郎だからな。クソ真面目なのだけが、欠点ってどんな完璧超人だよ。


 直近の目標は二つ、転移の柱の確認、他パーティーとの合流か。どちらが速いかね。


~~~


 結論から言うと、二つの目標は同時だった。多分、確認に来ることを見越して、此処で待っていただろうね。俺の探知魔法より早く、ラウが飛ばした無属性の眼がそれを確認した。


「やはり、転移門は無くなっていました。そこで、モーゼウス達、灼熱の風(ギブリ)が戦闘中です。あちらも、私の存在に気付いたようで手を振ってきました。――人員は多い方が良いので、合流しようと考えます。反対意見は?」


 ぐるぐる回る楯の安全圏で、俺はピンとまっすぐに挙手をする。ラウは眼を瞬かせどうした? と怪訝そうに聞いてきた。そうだった、突っ込み不在だった。クラーラがいてくれれば、女教師然と『はい! ノア君、何か意見はありますか?』と無い筈の眼鏡を指で挟んで上下させながら尋ねてくれたのだがね。


 俺はやや滑りに気付かない振りでシレっと発言する。


「取り敢えず、さっき言ったように、この楯は隠す。エステラの楯もね。あと、外の状況だけど、一階の転移柱を確保して脱退戦の真っ最中だ。今のところ戦線は拮抗しているようだね」


 ツンツクからの最新情勢を提供しておく、俺達が無理に急がずとも今のところ対応出来ているらしい。監視している怪しい何者かの話は後でいいか。


「分かりました。では、私が魔法障壁で楯の代わりを担います。ノアさん。ここまでありがとう。この階の転移門は、知っている通り、ホールへ続く一本路しかないので守りやすい場所です。辿り着けば少し休憩も出来るかもしれません。ですが、新たな通路が生まれる可能性も加味して望んで下さい。パオラさ……ん、エステラさんは要望や意見はありますか?」


 パオラさんがまた、頬を膨らませているが、特に何も言わなかった。この世界はシャララン魔法があるから、汗とか汚れとかはササッと何とかなるからね。冒険者の中にはその魔力すら消費を惜しんで戦う変人もいるけど。俺とは生き方が違いすぎる。女性が近くにいる場合は、特に紳士な俺は、それを惜しまない。キリッ。


 俺達はモンスターを殲滅しつつ、灼熱の風(ギブリ)と合流を果たした。


~~~


「思っていたより早かったですね、ラウレニウス様。此処にいれば合流できると思っていました。貴方様のパーティーと協力すれば、脱出も難易度が下がります。共同を申し入れても宜しいですか?」


 灼熱の風のリーダー、モーゼウスさんが朗らかに声をかけてきた。俺は余り面識がないが、オリヴェルさん情報だと竹を割ったような裏表のない性格だとか、スポーツマンを思わせる笑顔も爽やかだ。


 橙色に近い茶色の短髪を立たせた髪形で、職業は拳闘士。王国の四人のA級冒険者の一人だ。得物は拳の先に突き出ている三角の剣で、カイザーナックルに刃を付けたような独自のものだ。膝や肘、踵につま先などにも刃があしらわれていて、全身が打撃と殺傷力を生み出す武器となっている。俺も似たような装備を持っているけどね。


灼熱の風(ギブリ)と共同できれば、こちらも助かります。宜しく」


 打ち合わせ通り、ラウが話を合わせる。


「私達は、此処で休みながら待っていました。三人交代なら、戦線を維持できます。ラウレニウス様のパーティーは、連戦続きでしょう、此処は、我らに任せて少し休憩なさってはいかがですか? こちらは、余裕がありますので、遠慮はいりません」


 まぁ。俺達も疲れてはいないが、ラウはどうするか相談の為に、こちらを振り向いた。つかさず、声をかける。


「ラウ。――『堅牢(けんろう)くん』を出すから、全員で休憩しよう、今後の打ち合わせを軽食でも取りながらすり合わせしたらどうだろう?」


 モーゼウスさんは、少し驚き、面白そうに俺を見つめた。それ以外の彼のメンバーは、厳しい顔や睨むようにこちらを見る。いつもの事なので俺は気にしない。


 この何処でも見られるこの対応こそ、俺がラウを友のようにぞんざいに扱う理由だ。あの、パオラさんですら、強く注意できないからね。いくつかの理由で。

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