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第18話-2  驚天Ⅳ

 威勢の良い「らっしゃい!」でお馴染みの、メイリン魔道具店に行きメイリンさんと打ち合わせをした。


 二週間以上あった納期を捲きにまいて一週間で宜しくねとお願いして来た。


 メイリンさん泣き笑いみたいな顔になってたな……。


 まぁ。間に合わなかった場合は、野菜をアイテムボックスにでもぶち込んで時間を稼ぐか。


 そうならない為にもメイリンさんのところへ、ちょくちょく顔を出して進捗確認と言う名の圧をかけておこう。


 全て異常な野菜の生長を見せるこの世界が悪い。俺は悪くない。


 メイリン魔道具店を後にした俺たちは司書長との会食に遅れないように足早に研究所に向かっている。


 その途中で精霊達は俺の躰に吸い込まれるように消えた。


 きっと魔力でも勝手に吸っているのだろう。フンッ。


 昨日の食事会の反省を生かし今日の会食は少し誘導を図りたい。


 特に司書長がのってくれるとありがたい。


 そして俺はレオさんに牛タンを出したのは失敗だったと反省中だ。


 今日の献立を考えながら南中に差し掛かるうららかな日差しの中俺は急ぐ。





 会食会場は昨日と同じ完璧に整えられた部屋だ。


 俺とパオラさんが一番乗りで次いでレオさんが現れて最後が司書長だった。


 全員が席に着くのを待って俺は口を開く。


「皆様。お集り頂きありがとうございます。今日の料理は寛いで召し上がれるように全員で同じものを頂いてはいかがでしょうか。僭越ながら私の方でおススメの一品をご提案させて頂きたく存じます」


 司書長が口を開く。


「昨日はノア君の手を煩わせた。確かに同じものであれば誰かが食べているものに気を取られることもない。落ち着いて食事ができるな」


 司書長はちらりとパオラさんを見る。


 パオラさんがささやくように言う。


「ノアくんが、すごく丁寧になるときは何かやましい事があるはず……」


 ギクツ! するどい! だが悪い事じゃないよ。


 ひとつ咳ばらいをしてかぶせるように話す。


「反対意見があれば伺いますが?」


  軽く手を挙げてパオラさんが話しだす。


「反対じゃないけど。昨日の牛タン? あれを一人で全部食べてみたい」


「パオラどんなものが食べられるか種類を確認するのが趣旨だ。同じものを食べていては話が進まないだろう。それとな、牛タン定食は私の担当だ」


 え? ――いつ決まったのレオさん。


 ……真顔で何言ってんの?


「ずるい! その担当は持ち回り制にしよう。今日はあたしの担当!」


 え? 担当を受け入れているのパオラさん。何故に?


「二人ともまた牛タンは食べる機会があるだろう。今日はノア君の提案で良いな」


 はい! 頂きました鶴の一声。これで計画通り進むな。


 それにしても牛タンは祟るな昨日の自分に言ってやりたい。


 いや一昨日レオさんに、部屋で匂いを嗅がれた時点でアウトか……食べるまで許してくれなさそうだしな。


「それでは今日は”麺”料理をお出しします。これは小麦を使って作る料理です」


 司書長の隣に立ちいつものように錬金召喚を行う。


 今日の料理は……いでよ!




 ――――香川の宝! 讃岐うどんより。


 がもうの(ぬく)いうどんの大(二玉)!


 黒に縁どられた白い器に一切曇りのない黄金(こがね)色の澄んだスープ。


 そのスープの中にうどんが絡まるように沈んでいる。


 出汁の香りが辺りにただよい食欲を鷲掴みだ。


 トッピングはネギだけのシンプルな素うどんだが見ただけで旨いのが決定的な一品だ。


 俺は料理名はうどんだと告げパオラさんにも同じうどんを出し、レオさんにも用意した。


「今回は私も一緒に食べます。この料理にも食べ方の流儀があります。私の食べる通りに頂いてみて下さい。もちろん強制はしませんのでご自由にお楽しみ下さい」

 

 そう言って自分の分を用意する。


 三人が食前の祈りを唱えるのを待って俺も言う。


「いただきます!」


 まずは出汁だ。


 どんぶりを両手で持って口をつける。かぁ~! うめぇ~~!


 味はもちろん匂いもうめぇ~!

 

 すかさずうどんをすする。


 讃岐うどんの特徴であるコシのあるうどんだが、つるつるとして喉越しがよくスルスルと喉を下っていく。


 小麦の良い香りが鼻から抜ける。たまらぬ旨さに箸が止まらない。ズルビビビ。



 あっと言う間に完食だ。ゴクゴクと出汁も飲み干す。


 ――なんだかまだ食べられそうだな。


 そう思いながら顔を上げるとまだ誰も手を付けていなかった。あれ?


「ノア君。このうどんという料理は、そんなに急いで食べないといけないものなのかね」


「すみません。私は麺類はすべて早食いになる傾向にあります。ご自分のペースで構いませんよ。嫌でなければ器を両手で持ち上げてスープを飲んでみてください。鼻を近づけて香りを楽しむ為の行為です。無理にする必要はありません」


 三人は言われたとおりどんぶりを持ち上げて口をつけた。


「美味だな。材料が何かは分からないが、シンプルだが強烈は旨味を感じる。器に口をつけると香りも料理の彩りだと良く分かる。昨日のラーメンという料理の複雑さとは正反対に吹っ切れた美味しさだ」


 さすがの司書長。


 そうなんです。うどんは引き算の旨さなんです。


 ただしカレーうどんも旨いがな。


「ほんと美味しい! あたしこのスープ全部飲めちゃう!」

 

 えっ? ――――後からうどんだけ食べるの?


 新しい食べ方を発明しないようにね。パオラさん。


「本当に旨いな麺がちょっと食べずらいが。麺……うどんだったか? スープと一緒に食べるとするりと胃に落ちる。このスープはパンにも合うんじゃないか?」


 そう言ってパンを取りに行くレオさん。


 お前も食の発明家か!

 

「レオ! あたしのも」


 ふぁっ! 伝染した!!


 さすがに司書長はパンを辞退した。


 司書長は箸を使って他の二人はフォークとスプーンで食べている。


 時間があるとき鍛冶屋に頼んで、箸代わりの細いトングでも作ってみるかしばらくうどん推しするつもりだからな。


 そうこうすると三人とも食べ終わった。

 

 司書長は出汁を半分ほど残し、パオラさんとレオさんは出汁も完食だ。

 

「なんか食べたりない気がする」


 昨日ので胃が大きくなったんじゃないですか? パオラさん


「私ももうちょっといけそうだな。牛タン定食ほどは入らないけど」

 

 うどん二玉いって牛タン定食食べられたらもう大食い認定だな。


 でも実は俺ももうちょっと食べたい。


 俺の場合うどんは二回くらい噛んで長さを整えたら飲み込んで喉越しを楽しむんだが、咀嚼回数が少なくなるので満腹になりにくいんだ。


「皆さん固まる直前の半熟卵は食べられますか?」


「卵って高級品の?」


 とパオラさんが怪訝そうに聞いてくる。


「それとは違いますが、火が入って温まった半熟の卵です」


 三人に確認する。


 半熟オムレツはこの世界にもあるので抵抗はないとのこと。


 司書長は味見程度の量で良ければ試してみたいとのご希望。


 二人にさっきと同じぐらいの量いけるか確認するとちょっと多いけど無理すればいけるとの答えだ。


「皆様。うどんはいろんな店があるんですよ。さっきとは違う店の味をお楽しみください」


 いでよ!




 ――――香川が誇る食の発明!


 釜玉の発祥! 山越うどんのかまたま小(一玉)。


 半熟の卵がうどんに絡みついてカルボナーラを彷彿とさせる。


 特製の醤油だしと卵とうどんの渾然一体となった香りが柔らかに広がる。

 

 食の発明とはこういう事を言うんだよ。


 分かったかな二人とも。


 俺は箸でひと混ぜして、小鉢を取り出し司書長用に二口分ほどのかまたまを掬い上げ司書長に配膳した。


 これはシェアであってちょっと一口ではない!


 続けて山越うどんのかまたまの大(二玉)を一つと小(一玉)を一つ呼出す。


 大のうどんをひと混ぜして、半玉を小へ移し1.5玉のかまたまを作り二人に配膳する。


 司書長の合図で一緒に実食。


 美味しい! の声のもと全員あっという間に完食した。

*この物語はフィクションです。

空想のものであり、現実社会とは一切関係がありません。

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