第19話-2 共鳴Ⅱ
――――ディンケンスギルド
バックヤードでは、1.5mX2mの平らな画面を四方から数人で囲み、流れる情報に眼を走らせる。
「――赤銅の槌の五名、及び、緋の明星の五名のパーティー全員のカードロストを確認。……仮に生存していても、外からの救出は現在不可能です。現在窟内に留まっている。オリヴェル様、導く光様方の四名、灼熱の風様方の五名、聖楯の守り様方の三名に合流出来れば、或いは……」
その声に続くように、画面に赤字で名前が灯る。
「……両パーティーの全滅を確認。現在窟内に残っている人数は一三名。状態不明です」
感情を押し殺した声がさめざめと広がる。
誰かがダンと机を叩く音が響く。実績のあるパーティーがダンジョンの調査を依頼していた。だからこそ、その顔が脳裏に映る。突発的に始まったスタンピードで後手に回っている。犠牲を最低限に留めるべく撤退戦を決行し、一日は第一階層を保持したが、それでも、被害は甚大だった。
昼過ぎに始まった暴走から、一日半を経過していた。
今はダンジョン近くの城堡に戦力を集め、攻寄るモンスターを殲滅しつつ、いざというときに活路を開く為に力を溜めている状態だった。
A級冒険者率いる。導く光や灼熱の風。そして、オリヴェルの帰還時の為にだ。
王国にA級冒険者は前と変わらずに四名だ。ギルドからの昇格の提案をノアが突っぱねた為であり、それなら私もとエステラも昇格を拒んだが故に。
義理と恩のある彼女にギルドも無理強いは出来なかった。
A級冒険者の一人はオリヴェル。王国筆頭だ。もう一人は、ノアの所属するクランのマスター。そして、灼熱の風のリーダーである。最後の一人は女性で、王国の要衝ドゥブロベルクへ派遣されていた。
その時、ギルドカードの情報表示を操作する。女性スタッフが息を飲む。
「――――っこ! これは、……どう言う事?」
目に映る信じがたい情報に、見間違いより奇跡を願った。
§
関係者以外立ち入り禁止の場所で、バリーを名乗る男は押し入り腕を組み椅子に座っていた。
昔取った何とやらで、無理は通った。だが、その誓いにより動くことは出来ない。
少しは名の知れた自分は、壁に飾られた剣だ。鞘に収まり珍し気に眺められる過去の刃だ。
今の時代は、今の人間に任せるものだと、そう信じている。そうでなければいけない。命を天秤にダンジョンに潜る彼らは、市民の希望だ。出来るからと手を出すことは、その矜持を傷つける行為だ。
彼の役目はパオラの護衛だが、彼女と交わした約束がある。その決意の表情を瞼に描く。
『冒険が怖いなら、ダンジョンに入らなければ良いのです。それでも、わたしは、冒険者であることを願いました。市民を護る事、クランマスターの力になる事。その誓いには死を受け入れる覚悟も含みます。何も知らない小娘の戯言と思うかもしれませんが、それでも、私の知る世界の中で、幼少より望んだ場所です。ですから、見守ってください。わたしが、わたしである事を、そこに立つ資格を示す姿を』
強い意志を宿した瞳でパオラはそう言った。引退した冒険者が、現役にかける言葉は鼓舞だけだ。批判なんておこがましい。逃げた俺が言える立場でもない。
彼は信じて待つのみ。
その時、スタッフの叫ぶような、願うような声が聞こえた。
「――――っこ! これは、……どう言う事? 赤銅の槌、緋の明星のギルドカードが、死亡から、生存に? エラーじゃないわよね? 神様っ!」
バリーを名乗る男はニヤリと笑う。男は知っている。絶望を笑い飛ばす阿呆を。悲劇を何でもない事のようにひっくり返すバカを。天邪鬼な皮肉屋で底抜けに優しい空け者を。
(――間に合ったかい? 坊主)
導かれるようなタイミングで、冗談のように奇跡を起こす。男は心持ち深く座り直し黙する。
(任せたぞ。若、坊主、姫さん、嬢ちゃん。――スカッと頼むぜ)
男は所属するクランのパーティーに、想いを乗せた。




