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第17話-2  封殺

 ――――辺境都市ディンケンスギルド長執行室。


 その部屋で報告より早く、スタンピードのサインを耳にしたシクステンは、窓に歩みより霞む空に臨んだ。何度聞いても馴染まない不快な警笛と警鐘の音だ。


 少し遅れてドアからスタッフが飛び込んでくる。儀礼などかなぐり、殆ど反射的に報告を口にする。


「マスター。スタンピードが発生しました。――現在調査の為に中に籠っていた冒険者が取り残されています。第一級生還転送門の確保に尽力しているようです。追加派遣の許可をお願いします。信号弾のみの報せで、詳細がつかみ切れていません。如何いたしますか?」


 今は重要なクラン、パーティー程調査の為に駆り出されていたのだ。


「派遣を許可する。大至急、整い次第、最大量を導入しろ。急げ!」


 退路確保の為に最重要な案件へと指示を出す。詳細が分からない初動ではそれが最善だ。数年頻度のスタンピードにさらされたこの場所は、冒険者が能動的に対処を図る。


「はい」


 その指示をうえスタッフは転がるように部屋を飛び出した。


 ギルド長もそのまま部屋を出ると見かけたスタッフに指示を飛ばす。避難救護担当へは市民誘導と備蓄の解放許可を伝え、偵察の部門長には情報の精査をして、合同庁舎で報告を指示した。


 シクステンに駆け寄ってくる人物がいる。その顔を見て一つ頷く。


「マスター。辺境伯代理から連絡がありました。救護の兵を派遣開始したそうです。それと、整い次第に合同庁舎へ参られるとのことです」


 彼は副ギルト長。その仕事の速さに、シクステンは息を一つ吐いた。


 この特異な辺境領は、ダンジョンからの脅威度により、必要に迫られた結果、辺境伯とギルドの関係が近い。本来なら必要な書状や召還などの形式を排除し、お互いに対応する担当者が直で問答をやり取りできる。


 その者がギルドでは副ギルト長。スタンピード発生の発光魔弾を眼にして直ぐに走り出し、合同庁舎で辺境伯の対ギルド担当者といち早く打ち合わせをして戻って来たのだろう。


「まずは、ダンジョン内に残った仲間達の生存を優先する。この時期に調査を入れたのは間違いだったかもしれない。彼らの救出が今後のスタンピード鎮圧にも影響する。庁舎へ急ぐぞ」


「マスター。あの()()()()()が、また、何か仕掛けたんです。何もしなければ、違う何かが起っていたかもしれません。誰でも、()()情報が届けば、事前調査を行いますよ」


 副ギルド長はそう声をかけるが、シクステンは頭を振る。


「それでもだ。まず、最善で事を治める。――その後は、次第によっては誰かが責任を負わなければならない」


 そう言って、シクステンは副ギルド長の肩を叩いた。その時は頼むと言うように。受けた彼は渋い表情で、それに気付かない振りをして先を促す。


「――急ぎましょう。辺境伯代理は()()です。お待たせする訳はいきません」


 そう言って足早に先導する。剛腕ではなく、豪脚。シクステンは、自重より拙速を信条とするような古い付き合いの辺境伯代理の顔を思う。


 ガキの頃から張り合った盟友だ。尤も、あちらは兵としてダンジョンを刈り民の楯となり、シクステンは冒険者として、この地を守ってきたのだが。


 ある時は肩を並べ、背を預け合った仲間の一人だ。気心も知れている。辺境領では冒険者ギルドと辺境領兵は両輪だ。どちらが欠けても、この地の存在が危ぶむ、その為に功績により冒険者から将に取りたてられる者も数多く、お互いが尊重する気質が醸成されていた。


 だがら、だからこそ。シクステンも()に期待していた。その類い稀な才能により、この地の称賛を一身に受け、遍く領民から尊敬されていた人物。この地を支える事が間違いなかった筈の()の事を。


(――殴られるかもしれんな)


 年老いて、老練熟知となった今でも、その本質は豪脚だ。敵現れれば、まず進め。その本質が変わることは無い。むしろ、古い付き合いだからこそシクステンに奴は遠慮がない。


 あの日、シクステンは必至で止めたが、むしろ、喜び勇んで調査に向かった彼を留められなかった苦い後悔が去来する。


(……殴られてもいいか)


 その責で殴られたいとすら思い。ため息を落とす。調査を決めたのはギルド長たるシクステンだ。


 現ギルドの保有戦力では、最右翼オリヴェルに次ぐ二位のパーティー。実力は申し分ないが、何が起こるか分からないのがダンジョンだ。そして、その最大の変異点がスタンピードである。


 それに今巻き込まれている()の消息を思い、帰還を願った。


(ご無事でお戻り下さい。――若)

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