第18話-1 驚天Ⅲ
今は9時を少し回ったぐらいの時間だ。司書長へは重ねてお礼を伝え、昼の再会の約束をする。
とりあえず畑へ戻ろう。コルンキントを戻さなきゃいけないしな。
本人はキラキラした目で物珍しそうに辺りを見回している。
精霊とコルンキントの事だが、コルンキントはパオラさんとレオさんには見えているが、他の人間には見えていない。
そして精霊はパオラさん以外の人間には見えていない。
レオさんが俺に許可を取ってすれ違う人間に確認していた。
そしてエルフにはどちらも見えている。コルンキントはずいぶん珍しがられた。
エルフは事情を知っている為か、パオラさんと精霊が契約ができたと思われて、パオラさんが祝福されていた。
なんかすまん! パオラさん。
俺が契約者だと知ると驚いた後、訳知り顔で頷いていた。
するとそのエルフの男性は呟いた。
さすが御使い様だ………と。
――なぬ?
聞きなれぬ単語? ……ミツカイ? 蜜買いか? 蜜飼い? 密会? う~ん?
エルフと別れたあとパオラさんに聞いてみる。
「ミツカイってどう言う意味ですかね?」
パオラさんはニコニコ笑って答えない。
「そんな事よりも、精霊様と妖精くんのお名前はどうするの?」
「う~ん。青・緑・小人でどうでしょう」
青が俺の頭をスパンッと通り過ぎる。音はいいのに痛くない。プロ仕様のヤツだ。
質量があるのか? お前。
「え~? 可哀そうよ。クモにも名前付けたんでしょ?」
「なんか。心がいっぱいで余裕がないといいますか………」
「それならゆっくり考えればいいわよ。可愛い名前考えてあげてね」
「ネーミングセンスないんですよ私。一緒に考えてくれませんかね」
むしろ決めてくれませんかね。パオラさん。
「だ~め! 正式な儀式の一環だからノアくんが考えないと。おねぇさんはノアくんのセンスを楽しみにしています」
エッヘンとばかりに胸を張る。パオラさんの素敵なものが押し出される。
俺はそれを見ないように視線を外し畑へと向かった。
へたれ?
なんだと! このスットコドッコイ!
すまん。言いたいだけだ。
◇
畑に付くとコルンキントは急にショボショボと目を擦り、バイバイと手を振ると消えていった。
よくわからんが生まれたばかりだし寝るのかね。
一応おれも手を振り返す。
パオラさんはブンブン振っている。
体操のお兄さんバリだ。
俺が小人呼ばわりしているコルンキントだが、小人というと7人組を思い浮かべるかもしれないが全く見た目が違う。
見た目は十歳いかないかな? くらいの子供の風貌だ。
身長は50cmほどだが細身で華奢だ。
本当に畑で役に立つのかと思うほどの細腕だ。
性別があるかは不明。
触ってあったらあったで微妙な気分になるので確認していない。
肩車した感じでは無し? かな?
まぁ。正直それはどうでも良い。
スズピヨ達は今日はいない。
餌台に餌をぶち込み今日も放置。
(また会いましたねダンナ。おかわりねぇですかい)
ツンツクが話しかけて来た。
(こんちは! 朝はありがとね。ちょっと混乱してて挨拶もできず悪かったね)
(いやいやそんな。あっしも驚きやした。まさか………神様の生まれる瞬間に立ち会えるとは)
(んっ? 神様っ? なんのこと)
(先ほどダンナが連れ帰って来たお方でさぁ。あっしも旅の途中に何度かご挨拶に上がった事がありやす。あのお方は土地神様でやしょう? その土地、土地を治めている。生まれたばかりであの神々しさってぇことは格がどんどん上がりそうだぁ)
(ツンツクあの子は妖精だよ。神様じゃない)
(へい。土地神様は聖獣だとか神獣だとか妖精だとか神々しい方が務めるもんでやす)
会話が成り立ってないがまぁ良いか、なんか疲れたし。
今朝からの短時間では、流石に畑の野菜も変わりがない。
今の生長速度で野菜の仕立はどうするかが一番の悩みだな。
どのくらいの生長スピードか分からないが、トマトの芽かきが一番問題かな。
あいつら阿保ほど出てくるからな。
芽かきを怠ると樹勢も落ちるし果実にも影響がでる。
夜も生長するとしても付きっきりでは見てられないしな。
光反応でちゃんと昼に花咲くよな。
昼じゃないと昆虫受粉できなくなるしな。
トウモロコシは風受粉だからいいけど。
早く育つのって良いことがないような………。
うんうんうなっている俺に話しかける意思があった。
辺りを窺う。
――ハチだな!
ちょっと大きめのミツバチみたいなヤツだな。
(ハチさんなんか御用ですか?)
ブブブブッて感じでいい住処が欲しい。蜜を集められるよって感じかな
う~ん。さすがの俺も養蜂はしたことが無い。
映像を見た程度の知識しか無いが養蜂資材は知っている。
アピの養蜂巣箱だ。
木立の中の日陰の場所に雨が降っても大丈夫なように台を錬金召喚してその上に巣箱を同じく錬金召喚して置いた。
巣脾とよばれる巣作りの補助となる板が七枚入り、巣のなかで栄養が取れるミツバチ専用の木製の給餌板が一枚の計八枚の巣箱だ。
ハチは中に入ると確認し出てくる。
内見の結果はどうだい? なになにちょっと手狭な感じ。
じゃあ巣脾減らそうか? 隙間が広くなるよ。
なになに幅じゃなく広さだと?
それならばと継箱を錬金召喚し、初めに出した巣箱を上にして二段に重ねて広さを出した。
継箱は巣脾が八枚入っている。
これでどうだいハチさんや。
すっごい素敵! と感謝の感情が伝わって来た。
まぁ。もののついでだ。騒ぎ立てるほどの事もない。
昼までまだ時間があるので魔道具店へ顔を出そう。
野菜の収穫が前倒しになりそうなので、色々早めてもらおう。
俺はパオラさんを連れ立ってメイリン魔道具店へ向かった。
*この物語はフィクションです。
空想のものであり、現実社会とは一切関係がありません。




