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第17話-2  驚天Ⅱ

「それはそうとちょうど良い機会だ。ノア君に受け取ってもらいたいものがある」


 司書長は軽い調子でそう俺に話しかけた。


 青緑の瞳を左に寄せ、司書長は後ろを気にするように首を回す。


 すると。……司書長の背後で――


 左が何もかも飲み込む、海の深淵のような深く濃い青が渦巻いた。


 右では囚われたら二度と出てこられない、深い森の力を凝縮したような闇の緑が騒めいた。


 左側からちょうど手の平に収まる大きさの紺碧に瞬く光が飛び出した。


 右側から同じくらいの大きさの新緑に瞬く光がゆっくりと別れる。


 紺碧の光が躍るように俺の周りを飛び、新緑の光がゆらゆらと飛び回る。


 俺は訳も分からず司書長をガン見している。


 そう――ガン見だ。


 司書長は正面に向き直ると、いつもと変わらぬ青緑の目で俺を見つめ口を開く。


「それは精霊だ。青い方が水の精霊。緑は生命の……人間には植物の精霊と言ったほうが伝わりがいいか? それをノア君に渡そう。受け取ってもらいたい」


 パオラさんが息を呑み言う。


「人間が精霊と契約するなんて物語の話よ。……大丈夫なんですか? 先生」


「私の精霊はノア君を気に入ったらしい。珍しい事だが今までにない事でもない。問題あるまい」


 司書長の周りに何かすごい力に満ちた存在がいることは気づいていた。


 初めて面談をした時からずっと(たま)に気配を感じていた。


 あれが、もしかして精霊かな? くらいには思っていたが、すごい力と圧力を感じていたので、絶対に司書長とは敵対しまいと心に決めていた。


 混乱する頭で考えて口にする。


「なぜ私になんでしょうか?」


 パオラさんには精霊への適性があると聞いている。貴重な人間として司書長へ師事しているのだ。


「先ほども言った通り精霊がノア君を気に入った以上の理由は特にない。もっとも直ぐにではなく。いずれはと考えていたが、折しもノア君がコルンキントと縁を持ったので良い機会と判断した」


 司書長は続けて声を発する。


「せっかくだ。精霊について少し説明をしよう。精霊の顕在には二つの方法がある。一つは世界の中で力が集まり顕在を果たす。もう一つは力を貯めた精霊が顕在を促し新たな力が集えば発現する」


「正確には他にも真顕と呼ばれる発現もあるが神世(かみよ)の話だ。この二つと言いきって問題ないだろう」


「一つ目の世界の力が集まり顕在を果たした場合は、その環境により精霊の特性が変化し徐々に力を蓄える。二つ目の事象を分霊と呼ぶのだが、分霊の場合は一つ目に比べて生長が早い傾向にある」


 俺は話の腰を折らないように「はい」だけを間に挟む。


「私が契約している精霊は、ノア君を気に入り自身達の分霊を預けたいようだった。私も時期を見極めるつもりでいたが、今回ノア君はコルンキントと契約にも似た関係を結んだ」


「コルンキントという妖精は水・土・植物に非常に秀でた特性を持つ。そして発現した後は発現に関与した畑あるいは今回の場合はノア君の魔力に非常に大きな影響を受ける」


「そして精霊も同じだ。顕在化して直ぐに契約を果たすと、契約者の魔力に大きな影響を受ける。簡単に説明するなら精霊にしろ妖精にしろ、影響を受ける魔力の波長によって独自に生長するという事だ」


 そこで司書長は今まで見せたことのない表情で笑った。


 言葉で表すなら司書長には似合わないニヤリとした表情だ。


「私はそれを面白そうだと思ってしまったのだ。コルンキントの水・土・植物への特性と、今まさに顕在した水と植物の精霊達との相性は一際高い。それを同時に、ノア君の波長で生長させたらどうなるか見てみたい。そう思ったのだ」


「妖精のコルンキントは魔力を与えなければいけないが、精霊は契約者から魔力を吸収する。手間も無い。分霊した精霊もノア君の事を気に入った様子だ。問題あるまい」


 イェス! マム! とはとても言えない。


 何が問題あるまい! キリッだよ!


 なんだよ。精霊ってもうボクお腹いっぱいです。


 コルンキントとかいう謎生物でも一杯一杯なのに精霊? なにそれの話だな。


 勝手に魔力を吸うから手間が無い?


 ――むしろ怖ぇぇよ!


 俺の中のイメージは、蛭か吸血鬼なんかと一緒だよ!


 勝手に吸うな契約者との関係に節度を持て!


 俺は頭に手を当てゴリガリと掻いた。


 そうだ! ――俺は司書長に日本語を教える大先生だ!


 ここは! ひとつ! ――ガツントッ!!



「この度のご指名、謹んで拝命いたします」


 深々としっかりと頭を下げる。


 言えない。ノーとは言えない。言える奴いるなら連れてこい!


 知ってるか?


 司書長って国王との謁見の時でも、頭を下げず仁王立ち。


 慣例として敬語で話すが、ため口聞いても誰からも咎められない。そういう話をパオラさんから聞いた。


 まぁ~。エルフ全般が同じ態度で謁見するそうだが。

 

 エルフは王国に仕えている訳でも、支配されている訳でもないので、国王といえどただの人間とエルフという立場で話をする。


 エルフ自体が長命で精霊の加護厚く……平たく言うと攻撃力が高く怒らせてはいけない種族なんだと。


 神の鉄槌でも住む場所が違ったので、影響は受けたが一切の被害が無く。


 人間の生存と文明復興に大きな尽力をしたんだってさ。


 出生率の低さから今の人口は人間の方が増えたが、大昔の驕った国がちょっかいを出し、一夜にして滅んだそうだ。


 綺麗に王城だけ更地になったってさ。


 第二の鉄槌とか一夜(ひとよ)の炎城とか言われていて、それ以降の人間はエルフとは友好的に接している。


 パオラさん曰くエルフは人間と文化が違うことを十分認識しているので大概の事では怒らないそうだ。


 以前あった話を聞いたが、司書長に横柄な態度で接する貴族がいたが、一切怒らずに人間にもなにか事情があるのだろうと語っていたそうだ。


 頭にきたパオラさんが(けつ)を蹴り上げて追い返したそうだが、命が取られるわけでもないのに怒りすぎだと諌められたそうだ。


 ただし、地雷はある。


 ある時本を乱雑に机に投げ捨てた貴族がいた。


 まぁ~。尻を蹴り上げられたこりない奴だ。


 司書長への挑発行為だったそうだがそいつは髪を一瞬で焼かれて失神し、その事を国王に知られてお家断絶となった。


 命知らずとはこいつの事だ。


 そのとき司書長は言ったそうだ。一番威力の弱い魔法を使ったと。


 パオラさんの説明では、一瞬で数種類の魔法を発動し髪が燃えるのではなく光って消えたそうだ。

 

 司書長は抜くことはないが、いつでも、たち切れる武器を持っているのだ。


 根源的な恐ろしさが俺にはある。


 な? 言えるか?


 え? ヘタレだぁ?


 なんだと! このスットコドッコイッ!

*この物語はフィクションです。

空想のものであり、現実社会とは一切関係がありません。

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