表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/219

第9話-2  考究Ⅱ

「ノアちゃんの報告では、虎狼(ころう)の聖獣から分離して上位職の戦士に定着したというのがあったわね。人型の種族には階位があるの。上位職者を暴走させて脱獄させる(けが)れ、これが意味する事は――」


「――手札を増やそうとしているってことよ。アレには名前はないけれど。世界を妬んでいる事は間違いがないの。御使いがお隠れになったのもアレに関係があると睨んでいるわ。それに、エルフの盟約(ギアス)を退ける。……正確にはすり抜けるね。その(すべ)が分かれば、私なら最悪を想定するわ」


 アノアディスのその後の一言でウェンは息を飲む。


「――そのような事が可能なのでしょうか?」


 アノアディスは微笑んでそれに答える。


「殆ど不可能よ。でも、小数点以下に零をどんなに繋げても最期に一を書いたら可能性は零にはならない。奇跡的な確率は繋がるわ。現に一度成功しかけたのよ。――二万年前にね」


 アノアディスはその微笑みのまま話を続ける。


「――いずれにしても、私達の種族は直接手を下せない。だからこそ期待するの。ノアちゃんという運命に。この世界の(ゆがみ)を正してくれる可能性にね。長生きしてもらわなくっちゃ。……改造しておいて良かったわ」


「……ノアも大変ですね。大師の期待に応えるのは」


「うふふ。命を守るお(まじな)いだからね」


 自らの種族を顧みるアノアディスのお(まじな)いが、ノアにとって祝福だったのか、(のろ)いだったのかは、まだ、誰も分からない。少なくとも、アノアディスにとっては最良だった。


 ウェンは厳しい顔でノアの顔を思い浮かべる。思い出すのはのんびり笑う顔だ。そして、自身が息を飲んだアノアディスの言葉を噛みしめる。


 彼女はこう言った。


『ファギティーボの最終目標は、神龍エクレヴィギータの脱獄と暴走よ』


 盟約に雁字搦めにされた悲しき神龍。未来永劫その役目(やくもく)を全うしない神殺し。一撃で世界を壊しうる存在。


 エルフ以上に強力で高位なエネルギー体。そこが綻ぶ事があれば、未来は存在できない。


 奇跡と呼べるほど可能性が低いのが幸いだ。


 ウェンはノアという存在が彼女と出会い。アノアディスに師事した僥倖(ぎょうこう)を希望の未来と思わずにはいられなかった。



§



 その村にアルバロは到着した。住民は多くは無いが活気と笑顔に溢れる村だった。


 村の人数は更に増え今では五〇〇人に届く程だ。


「すまん。ちょっといいかい? ここってあれだろ? 神様の使いが救った村って噂の」


 路行く人を捕まえてアルバロは聞いて見る。


「ん? そうそう。土地神様のお使い様がスタンピードに襲われて壊滅した俺達を救って下さった。由緒ある村だ。腹が減っているなら、すいとん振舞うぞ?」


「大丈夫だ。ありがとう。――村長さんに逢いたいんだが? 何処にいる」


 男に路を聞いてアルバロは村長の家を目指した。


「アル兄ぃ。ここに寄る意味あるの? 宿もなさそうな処だよ?」


 そう不満そうにヘイモが話しかけてくる。


「まぁ。そう言うな。直ぐに済む」


 アルバロがこの村を訪れた理由。それは、ノアから頼まれた特別な日の普及の為だ。


 何よりノアが救った村なら、伝えない訳にはいかない。それが、恩人であり友人からの願いならば猶更だ。


 アルバロはその指導の為に村長宅に一泊することになる。


~~~


「良かったのかい? ノア君の名前を伝えなくて?」


 そうヘイモが尋ねる。


「さぁな。だが、ノアが名乗らなかったんだ。俺が教えてはいけない気がしてな」


「でも、アル。村長は絶対気付いていたよ。遠回しに教えて欲しそうにしていたもの」


 ラトカもそう続ける。


「絶対に開催するって言ってくれたし良かったよ。さて、次はケンさんの処だな。お菓子も大量に仕込んで来たから喜ぶぞ。多分、シニッカとマイユの方がだけど」


 それを笑いながらヘイモが引き継ぐ。


「ケンさん。さすがにパオラさんは諦めたのかな? 二人にもチャンスあるといいね」


「おいっ! ヘイモ! 揶揄(からか)いすぎるなよ。その所為(せい)で変な空気になった事あっただろ。ケンさんを応援してやれよ。いい人なんだから」


「だってさ。ケンさん。二人が子供の頃に出会っているから、本当の兄貴みたいになっているんだぜ。あんな美人に見つめられているのに。揶揄(からか)いたくもなるよ。もげろっ! あっ! 女性()()忘れていた」


 騎獣に乗ったラトカから石が飛んでくる。仕事の出来る男は案外モテる。ケィンリッドは好例だ。


 また、やっているよという目でアルバロはそれを見つめ、会いに行くケィンリッドの事を思った。



§



 その村では、年に一度必ず皆で鳥の蜂蜜酒(ミード)焼きが食べられるようになる。土地神様の使いが伝えた料理として、その事に感謝し、そして、狼と闘ったジョシュアへの尊敬を込めて盛大に催すのだ。


 それを伝えた者の名は何処にも残っていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ