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第17話-1  驚天Ⅰ

 俺の朝は今日から早い。6時に起きて畑の水やり初日だ。余り音を立てないように学舎を出て畑へ向かう。


 まぁ、歩いて5分の散歩道だな。


 畑へ着く……たどり着く前から見えてはいたが、俺は呆然と畑を見る。


 ここに立ち止まるまでに見間違いを信じた。


 今の俺は卵の形にあんぐりと口を開けていることだろう。昨日撒いた種の様子が明らかにおかしい。



 ――――野菜の芽が出てるっ!


 昨日撒いた種が全部……。



 ……発芽率? ……100%だ。――コート種子並み? ウソだろ!


 なんだ? これは? ――アグロノミストたる俺様にケンカを売るかのようなこの所業。


 発芽までの積算温度という概念はどうなった?


 予定していた百葉箱の設置と最高最低温度計での平均気温の算出。


 こちらの世界で栽培日誌を付けるウキウキワクワクな育成計画は?


 この時期の気温ならキュウリは一週間ほど。


 トウモロコシは十日ほどで発芽するだろうと予測していた。


 それまでの一週間の間に、支柱と誘引用の紐を用意する予定だったのに、この速さで育ったら三日以内には設置しないと間に合わない。


 なんだ! 魔力かなんかは栄養素と植物の生理を超えるのか?


 現地産の野菜はウンともスンとも言ってないのに、日本産のサラブレット野菜達がすくすく育っている。


 ――――それと……。


 気付かない振りで目を反らしていたが……。


 もうひとつ……。



 ――――畑の奥になんか生えてるっ!


 白っぽい土で出来たタケノコみたいな変なのが……。


 なんだ? ――あれ? 昨日までなかったんだが。。。 


え? ――どういう事?




 ――――不思議が! 渋滞してるっ!


 カナヘビより二回りほど大きいこげ茶色のトカゲが俺の足元に走り寄る。


(よぉ! あんたがここの大将? チビ鳥から聞いて来た。飯くれんだって? おいらもなんか手伝うから、ここでおいらも養ってくんねぇかな?)




 ――――渋滞してるっっ!! ……くっ!

 

(おい! 三下っ! いまダンナは考え事の最中だ。少しだまってな!)


(ギャ~~! 出た~~! 大口ぃ~~! 喰われる。助けて! 大将! おいら喰われるぅ~)


(三下だまれ!)


 ツンツクが鉤爪でトカゲを押さえると、トカゲは死ぬと叫んで泡を吹いて気を失った。


 ツンツクは俺に朝の挨拶をして枝に戻ると、邪魔にならないよう静かに見守っている。


 ふぅ~とひとつ深呼吸をしよう。


 まぁ~。いつまでもこうしてはいられないので、意を決して土のタケノコに歩みよって調べてみる。


 近づくと粗作りの地蔵の様な塚だ。


 おそるおそるそっと触れる。


 すると――パッと輝いて土のタケノコが崩れた。


 そこから、なんと身長50cmほどの小さなかわいらしい子供が出て来た。


 小麦色のボンボン付きの薄緑の三角帽をかぶり、上半身には白に近い生成りのシャツを着て薄い緑色の七分丈のパンツを肩で吊っている。


 胸元の生地の低いサロペット風の衣装だ。

 

 瞳は澄んだキラッキラな青色で、髪は淡い茶色で猫の毛のようにフワフワだ。


 トテトテと歩みより俺の右足にギュッと縋り付く。


 俺はそれを呆然と見ているが、小さな子供は俺を見上げてこぼれんばかりの満面の笑みだ。


 少しすると子供は生まれたばかりの世界を楽しむ様に、辺りを見回し走り出した。


 しばしの間俺はそれを、見るとも無しに眺めていたが、はっと我に返る。


 思考を放棄し、ここへ来た最初の目的を実行する。


 とりあえず種に水を撒こうと水魔法で畑全体に雨を降らす。


 小さな子供はそれに喜んで雨の下でクルクル回りながら……空を飛んでいる。


 そうですか。飛べますか。――多才ですね。


 降らした雨には虹がかかり見上げる空は今日も青く美しかった。





「コルンキントですか??」


 聞いたことが無い単語に俺は司書長に聞き返す。


 ここはいつもの執務室だ。


 俺はちょっと混乱しながらも畑を離れるときに、小さな子供についてくるか畑に残るか確認した。


 子供は本当にどっちでもよさそうな顔で、俺の心情を慮ったのか畑に残った。


 まぁ。たしかに学舎で誰かに見られたらどうしようと少し日和ったのは事実だ。


 俺は学舎に戻り事の顛末をレオさんに食事をしながら説明して、いつものようにパオラさんと合流すると畑を回って小さな子供をピックアップして執務室まで来たのだ。


 畑に戻ると子供は凄い速度で飛んで来て俺の顔にしがみついた。


 子供からはお陽様(ひさま)のいい匂いがした。


 いまは肩車で嬉しそうに頭に抱き付いている。


 執務室に入室した俺は司書長にこの子ってなんだか分かりますか? と質問し、その答えが冒頭の言葉だ。


「そうだ。神聖紀には結構いたらしいが近頃では珍しいな。私も初めて見る。畑妖精とも呼ばれ畑作業を助け豊作を約束する存在と言い伝えられている。通常は土地に憑くのだが、そのコルンキントはノア君に憑いたようだな」


「ノアくんてちょっと目を離したら直ぐ不思議な友達増やすわね? そう言う趣味?」


 好きで増やしていませんパオラさん。しかも憑かれてるみたいです。


「私は驚くのを諦めたよノア。ノアの事はそのまま受け入れようと思う」


 レオさん。それたぶん諦めちゃいけないヤツです。


 一緒に立ち向かいましょう。


「たまに魔力を渡せば協力してくれる妖精だ。悪いようにはなるまい。生まれたばかりで今は明確な意思は通じないだろうが、そのうち言葉も通じるようになると思うぞ。戦う能力はないが、火事や災害から畑を守ってくれると聞くな」


「昨日撒いた野菜の種が今日発芽したのも、コルンキントの影響でしょうか?」


「コルンキントに植物の成長を促す力はあると思うが、一晩で種を発芽させるほどの影響力は無かろうな。妖精にしろ精霊にしろ生まれた瞬間から存在が世界に発現する。生まれる前に影響を及ぼすことは出来んだろう。コルンキントは丹精込めて長い年月をかけ世話をした畑から生まれると言われている。一晩でコルンキントを生み出した畑の異状はノア君の影響以外考えられまい。自覚したまえ」


 俺に有罪判決が下された。


 パオラさんもレオさんも頷いている。


「それはそうとちょうど良い機会だ。ノア君に受け取ってもらいたいものがある」


 司書長は軽い調子でそう俺に話しかけた。


 だが俺の受け取ったものは決して軽いものではなかった。


 そんなのもらって俺って大丈夫~?


 俺は頭を押さえた。

*この物語はフィクションです。

空想のものであり、現実社会とは一切関係がありません。

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