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第8話-2  過去Ⅱ

 王都から騎獣車で一週間の距離にある男爵領。そこでケィンリッドは農業指導と開墾を実施している。


 彼は引きも切らない夜会への招待状と自領への誘致に辟易していた。


 農業部門の長で農業改革の主。そう目されるケィンリッドは貴族が熱視線を注ぐ存在だった。


 レオカディオが眼を光らせていても、好意の招待状を禁止する手段はなかった。さながら新種の珍獣扱いだ。


 断り切れずに招待に応じた夜会で名だたる貴族や令嬢に囲まれいつも朗らかな彼もさすがに顔を青くした。


 レオカディオが取り成し、その場から連れ出してくれた為に事なきを得たが、いつ言質を取られていてもおかしくなかった。


 さすがに王民事業体イーディセルからの引き抜きなどはできないが、貴族に関わると都合よく使い潰されるのではないかと戦々恐々としている。


 それに懲りた彼はレオカディオに相談して、安穏は領への出向を依願した。それがこの場所。


 ダンデス家を寄り親とし経済関係があり、穏当な領主は野心を持たずのんびりとしている。幸い王都の農場は彼がいなくても軌道に乗り順調だ。


 後は貴族の興味が薄れるまで、巡業を(こな)そうと決めている。


 可愛らしい声がケィンリッドにかけられる。


「ケン師匠。もう種撒いていい?」


 彼女の名はシニッカ。束ねたピンクシルバーの髪が麦わら帽から流れ落ちている。ノアが孤児院で見つけた職業農家の女性だ。


「あぁ。いいぞ。頼むな」


 それに頷くとシニッカはガンソ式播種機で作業を開始する。


「ケン兄ぃ。ボクは向こうで開墾しているね」


 そう言ってトラクターを動かすのはマイユ。ブルーシルバーの髪をハンサムショートに刈り込みキャップを被っている。同じくノアが孤児院で見つけた職業農家だ。


 小麦色の肌にニカっとした笑みを浮かべていた。


 ケィンリッドがこの世界で初めて田植えをしたとき補助していた人物と言えば記憶にあるかもしれない。


「あそこには胡椒を植えるから分かるな?」


「うんっ! 任せて」


 もう直ぐ昼に差しかかる頃。白く豪奢な騎獣車が一台護衛を伴い、その場所へとやって来た。


 従者が扉を開けると若い女性が顔を出す。すかさず日傘が掲げられてその下をゆっくりと歩いてきた。


 金髪をゆったりと流した柔和な表情だ。


「ごきげんによう。ケィンリッド様。お食事をお持ちしました」


 作業を止めていたケィンリッドは挨拶を返す。


「こんにちは。リューディア様。もうそんな時間ですか? お気をかけて頂きいつもすみません」


 シニッカもマイユもやって来て挨拶をする。


「ケィンリッド様は我が領の発展の為に働いて頂いております。当然の事ですよ」


 そう柔らかに笑う。


 従者と護衛がテキパキと日除けのタープを立ててテーブルをセットする。


「おかけ下さい。ケィンリッド様が自領に来て頂いたおかげで、王民事業体イーディセルの簡易支所が設立されました。おかげで()()()()が男爵領でも楽しめますのよ」


「ハハハ。レオさんが気を使ってくれたみたいで……」


 それを聞きリューディアは浮かんだ笑みを扇で隠す。


(かのダンテス家の嫡子。レオカディオ様を愛称で呼べる方はこの国に何人居られるでしょう? 歴史書に名を残す傑物にして、農業改革の要人。良い関係を結ばないと)


「私も作物を植えたいのですが、何かお手伝い出来ることはありませんか?」


 ケィンリッドは驚いたように、慌てて答える。


「いえいえ。そんな。俺。……じゃない。僕? あれ?」


「ケン師匠。こういう時は私だよ」


 シニッカがまったくという表情でフォローする。


「ケン兄ぃ。鼻の下伸びてる。――調子に乗んなよっ!」


 マイユが怒ったようにツッコむ。


「おう。わりぃ。えっと。私はリューディア様に声をかけて頂くだけで、やる気万倍です。それにお洋服も汚れますし、畑の事は任せて下さい」


 そう言って胸を張る。


「あら。それならば、その日は汚れても良い格好でお伺い致しますね」


 そう押し切られ、後日ジャガイモの作付けに、他の作業員に混ざる日焼け対策万全のリューディアの姿があった。


 ケィンリッドはその周りを右往左往し、仕事しろとマイユに(ケツ)を蹴り上げられていた。

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