第4話-3 経年Ⅲ
少年をビビらせるといけないので、俺達の食事の後にトゥエアルはいつもの処へ入ってもらった。
今にも逃げ出しそうな程警戒していた少年は温く冷ましたスープと服を出してやると危害は加えられないと理解したのか大人しくなった。
孤児院のチビ共に服を寄付している俺はあらゆるサイズを保有している。
少年は落ち着くとベッドに戻り気を失うように眠りについた。寝息さえ聞こえない程で、心配になり、何度か生存を確認しにいった。
翌朝用意したのはミルクたっぷりの甘いフレンチトースト。どちらかというとパン粥に近い代物だ。それを食べきれなくなるまで食べさせた。
まるであの日の邂逅の再現だね。自慢の呪いは発動中だ。
聞き取りの結果。少年は言葉がまったく話せないわけでも無く、だが片言だけだった。
ぶたないで。わかった。できる。などだ。殺伐としているね。それに自分個人を認識する名前を理解していなかった。
自分の事を『グィオァー』と名乗っている。発音が怪しくて初めは分からなかったが、それは共通語で『検体』を意味する単語だ。
一〇歳程度の年齢で言葉を知らないという異常、当然、文字も理解していない。それが、何を示すかというと、今まで会話をしてこなかったという事だろう。
少年の身に何があったのかは分からないが、取り敢えず街に連れ帰って教会で名前の確認からだな。後はおいおい教育をしてゆけばいいだろう。
林の中の起動性を重視して俺はモトクロスバイク型ゴーレムを取り出し帰路についた。
念のため背負い紐で少年は固定する。初めはモゾモゾしていた少年もやがて慣れたのか楽し気に歓声を上げた。
そうだ。子供には笑顔が一番似合う。それを守る決意をして俺は教会へと向かった。
教会の司祭にお布施を払い。職業診断をお願いする。
少年の躰が啓示の光を放つと司祭は訝し気に眉を顰めた。
渡された豪華な厚紙にはこう書いてあった。
名前:検体P0126843
年齢:一二歳
そして、少年の職業は――――。
俺はそれに深い縁を感じた。




