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第3話-3  震源Ⅲ

 ――――ノルトライブ


 執務室でイェルダは数日前に見送ったノアの事を考えていた。


 この都市へノアが(もたら)したものは数多いが最大の功績は農地開発であろう。冒険者の比率が高く富裕層が多い代わりにダンジョン産の食料と小麦以外は他都市に頼っていた。


 その為、他と比べると食料の値段が高くシェア層とスラム層の困窮の原因ともなっていた。


 だが、今では年間を通して季節折々の野菜が手ごろに手に入るようになっている。


 水田開発当初にノアが言っていたビオトープ。生物多様性がどうのと聞き流した言葉の意味も今では理解できる。


 貯水湖代わりにすると言って、彼がトラと呼ぶトラクターゴーレムを使い直径10Kmにも及ぶ湖を作った。


 フロントローダーを駆使しての作業は昼夜を通して行われた。そこには川から清涼な水が引かれ水田へと供給されている。


 ノアはその周りに樹を植えた。いずれこの林が水辺を賑やかにする。そして、それはいずれ、海をも豊かにすると言っていた。


 海から離れたこの地が遥か彼方へと影響を与えるなど、彼の言葉でなければ一笑に付していただろう。だが、今ではノアの示したその一手が海を、いや世界を豊かにするのではと考えるようになった。


 水田にはカブトエビやホウネンエビが住み着き。それを食べに魚がやって来て除草を手伝う。そして、魚は鳥を呼び。鳥は糞をして土地を肥えさせる。


 ノアが親水地と呼んだ貯水湖にはいつの間にか葦が茂り多様な水生生物の産卵地として機能し、沢山の川エビが泳ぎ回る。そんな場所になった。


 新鮮な魚は都市の食を満たす。そして、子供でも捕まえられる魚やエビは、重要なタンパク源としてスラム層の食を助け、収入の一助になった。


 ノアが持続可能な調和(サスティナブル)と呼んだ。生命が循環し枯れる事の無い人造の恵みがそこには存在する。


 イェルダは思う。ノアとは見えているものが違うのだと。


(大先生はこの未来が見えていたのでしょう。目立ちたくない。名を残したくない大先生が敢えて作ったトラと呼ぶトラクターゴーレムはこの未来の為に必要なことだったのですね)


 そして、もう一つ。彼が齎した祝福を思う。


 スラム層を形成する人々は悪人でも怠け者でもない。そこに居るのは病気により働けない者やダンジョンや事故で大怪我や部位を欠損した者達の家族だ。


 この世界は部位欠損ですらポーションや霊薬で治せるが、それは一週間以内に処置しなければならない。それ以上経つと完治することが出来ない。


 尤もエルフの霊薬にはそれすら完治させる物があるが、入手は困難だ。


 だが、部位欠損を治療する霊薬は高額でB級でも簡単には手が出せない。


 時間が経つと治らない理由は定かではないが、魂の形が固定するからと言われている。


 ノアはノルトライブに王民事業体イーディセルが立ち上がると医療部門を設立した。


 ダンジョンが身近な為に、ここは王都より、その負の面が顕著なのだ。


 魔道義肢、義足の錬金法を開示し、人体の仕組みを示して治癒魔法の効果向上を行った。


 それにより、スラム層を構成していた大人達が働けるようになる。その職を斡旋するもの王民事業体の役割となった。


 ノルトライブ全体が活気づくのに合わせスラム層も緩やかに生活の質を上げてゆく。彼らはそれが誰のお陰かを深く理解していた。


 恩恵を受けた者は皆、東の果てを目指した医工錬金術師により伝えられた言葉で彼の者をこう呼ぶ。



 ――――御使いと。


 そして、感謝を願い祈る。


 イェルダは大先生と慕うノアへ尊敬と感謝を敬虔に祈った。


 先程手元に届いた。辺境都市への異動願い受理の手紙に視線を落とした。


(大先生。直ぐに追いかけます。貴方が起こす幸せな軌跡の手助けをさせて下さい)


 信仰値は蓄積される。構成者(コンポーザー)の願いの通り、当事者には知らされずに。



 ――――二年の月日が流れた。

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