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第3話-1  震源

 ――――王都


 レオカディオは自身の執務室で、その連絡を受けた。無事にパオラが精霊を授かったと、届いた報せに彼は安堵する。


 レオカディオには七つ歳の離れた弟がいた。年下のその少年には婚約者がいる。古来よりは結婚適齢期も伸びたとはいえ二〇歳そこそこで結婚するのが貴族では普通だ。


 彼に許嫁がいないのには訳がある。本人が望まなかったという事も影響はあるが、それは社交辞令でしかない。


 レオカディオに婚約者がいない理由は暗黙の了解だ。誰もが知っているが口に出さない。公然の沈黙でもある。


 何故か? 貴族位筆頭のダンテス公爵家には降嫁した王族の血が濃く流れている。パオラとは又従兄の続柄だ。


 つまり――王族の姫。パオラの降嫁先の最上位。確保された予備(スペア)なのだ。


 尤も、二つ下で子供の頃から兄妹のように育った彼らに信愛はあっても恋愛は無い。だが、貴族の政略婚など感情は関係ない事も理解していた。


 籠の中の鳥を厭う彼女を幼いころから年長者として見てきた。外の世界に憧れる姫に隣の芝生が青いだけだと、存外辛いものと知りながらも応援をしていた。


 焔術(えんじゅつ)の稀有な才能により両手を伸ばした彼女は、それでも、箱庭の外へは届かなかった。


 だがだ。――だが、精霊との契約はその意味を覆す。王に連なる一線級の戦力。我が子可愛さに押しとどめることは出来ない。


 それを行えば王族の義務の放棄になる。それは、貴族の結束に緩みをもたらす政治的失態につながるのだ。


(――エルフの後ろ盾を得たか……)


 そして、もう一つの意義。パオラは強い発言権と裁量を獲得した。彼女の意思に国王と言えども強制できない。もちろん、父の大公でもだ。


 エルフには最大限の配慮を、王族に伝わる口伝故に。


 パオラは本来あり得ない驚くべき速さで王都に戻って来た。


 ――そして、三ヶ月遅れで届いたベルント警護班からの報告。


 森の外縁に現れたエルフの男性。ベルントはその人物をイーディセル師と呼んだ。


 同姓の別人かもしれないが、レオカディオはその可能性を否定する。


 無論、イーディセルからレオカディオに話はない。だが、示したのだ。あの森のゴブリンに手を出すなと、いつ何時(なんどき)でも守るぞと。エルフが届く手の長さを。


 事実イーディセルが研究所を長期不在になったことはない。


 そして――ノアからの手紙。そこにはこう書かれていた。


『ベルントはエルフの身元保証とゴブリンの推薦を受けた。きっとゴブリンの村に人間との信頼を築いてくれる。そして、現地には既に信頼関係のあるシルビニオン・バルデラスがいる。賢いあの少年なら、いずれ王国とのパイプを生み出すはずだ。その一助にイーディセル師も協力を約束してくれた。毎度のことで悪いが頼りにしているよ。レオさん』


 あのイーディセルがノアに協力を約束したのだ。


(エルフを怒らせた昔話。一夜(ひとよ)炎城(えんじょう)は現実に起こったことだ。彼らには距離を無視する(わざ)がある)


 王国はゴブリンと共存政策を取っている。エルフの庇護がそれを進めてくれるならその潮流に乗ればいい。


 何時でもあいつのいる場所が震源地だなそう呟いてレオカディオは笑った。


 そして思う、パオラの事を。


(――今度こそ()(かた)の元へ参じれるかもしれないな)


 レオカディオは、幼き彼女が焔術を磨き羽ばたこうと藻掻いた姿を思い出していた。彼女が憧れ目指した()の地へ。――彼の元へ。


 レオカディオは自身が予備(スペア)でなくなるその未来を願った。


 後日、事後連絡でイーディセルから、極東に位置する()の地がエルフの聖地となったと伝えられた。

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