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第15話  饗応Ⅱ

 ホッと息を吐いた俺。


 実は醤油味が一番心配だった。


 醤油は風味が独特なので初めてだと抵抗を感じる可能性もあったが杞憂に終わった。


 俺は置いてあるパンを司書長へサーブする。


「柔らかくて噛むと口の中に旨味と甘味のスープが口の中に広がる。ソースも初めて口にする風味だが食欲をそそる」


 そう言って司書長は美味しそうにもう一口キノコと一緒にハンバーグを食べた。


「キノコも見たことのない種類だが、この時期にこんなに新鮮なキノコが王国で食べられるとは……」


「ホントお肉とは思えない柔らかさね。ノアくんあたしにもパン頂戴」


 この世界の肉は、一枚肉を焼いてドーンか削ぎ切りで炒めてジャーンの二種類だから、ミンチから作るハンバーグは柔らかく感じるのだろう。


 黒船亭のハンバーグはしっかりとした肉質で、食べ応えある感じだし肉汁もおいしいのだ。

 

 パオラさんからパンのリクエスト。


 ハンバーグ食べると主食行きたくなりますよね?俺ならごはん一択だが。


 パオラさんは俺がパンをサーブするとすぐに小さくちぎり口にした。


 満面の笑みで両手をほっぺに充てる。

 

 落ちないようにしてるんですか? そうですか。


「すまん! ノア! 私もパンが欲しい」


 シュビっと手を上げたレオさんからもリクエスト。


 俺だったら目の前のどんぶりに盛られた麦飯にいくけど、要望の通りパンをサーブする。


 ひとしきり二人の様子をうかがった司書長が水を口に含み、二人に話し掛ける。


「それでは、次はパオラの料理だな」


 それを見て、パオラさんもレオさんも同じように口に水を含み司書長を見る。


 一品ずつ試してゆくみたいだな。


 三人とも目配せをしあって、オムライスを口にする。


 おいしい! うまい! の合唱となる。やったね!


「このライスというものはしっかり旨味があって程よい酸味だ。ソースの強めの酸味が味を引き締めている。卵もふわりと柔らかくコクのある風味だな」


 さすが司書長分かってらっしゃる。そのチキンライスはブイヨンで炊いているんです。


「先生の仰る通りだ。一口食べるともっと食べたくなるな」


 そう言いながら、パンを食べだすレオさん。え? 合うの?


 パオラさんは初めの美味しい以降。無言で食べ続けている。気に入ったんだね!


 ひとしきり食べて、二人を待たせていると気づくと顔を赤くして水を飲んだ。


「それでは、最後にレオカディオの料理を試すとしよう」


 一斉に食べ始める。


「この肉は噛み応えがあるのに柔らかくて歯切れがいい。ライスとも相性がいいな。鼻から抜ける焼けた脂と肉の風味がたまらなく良い」


 コメントが的確ですね司書長。ヨッ!


「こんな歯ごたえのお肉食べたことない。ずっと噛んでいたい感じ! もうちょっと分けてレオ」


「いいけど、パオラのも少しくれよ。もうちょっと食べたい」


 パオラさん貰いたいけどあげたくないのせめぎ合いの末。


 しっかり一枚牛タンを貰い。


「あたしのは一口だけね」を三回言ってた。


 司書長もしょうがないなという顔をしながら、今回は注意しなかった。


「この見たことがない塩漬け野菜もうまいな。この辛くてしょっぱい茶色いのも見た目はあれだけど食べるとライスが欲しくなる。スープも薄味だが滋味深い。バランスの整った完成された料理だな」


 レオさん。べた褒め、置いたままのどんぶり飯を器用にフォークで食べている。


「ずるい! あたしもその付け合わせ食べたい!」


 ピッ! ピピィー! パオラさんちょっと一口はワンスプーンまでだ。ルール違反の反則だよ。


 あんたにだってサラダと焼きプリンまでついてるぞ。


 司書長が日本の紅茶の香りを楽しみ、カップへ口を付けた。


「良い香りとさっぱりとした味で口の中を爽やかにしてくれる。……そうか。これが本物の紅茶なのか」


「司書長。こちらの()()()()風味が違いますが、なかなかのものでしょう?」


 その味も受け入れられたらしい。


 はてさて、全員が満足しているようだ。


 自分の分も用意しよう。


 昨日は米を食べたから、これを食べたいなと思ってたんだ。


 あれだよあれ! 分かるだろ?


「皆さんのお口に合ったようで安心しました。それでは私も自分が食べる料理を出しますね」


「ノアくんは何食べるの? 牛タン定食なら少し分けて?」


 ――パオラさん。まだ食うの?


 黒船亭のオムライスかなりボリュームあるだろ。


「いえいえ。ここには出してないものですよ。見ててください」


 いでよ!



 ――――伝説の名店。


 牛久の太昇亭(たいしょうてい)! 半チャンラーメン。麺カタ。


 魚介豚骨のスープの香りが辺りに広がる。


 チャーシューの上には真っ赤な辛味がチョンとのせられ、良い差し色となっている。


 半チャーハンには紅ショウガがトッピングされている。


 そうそうコレコレ! ちょっと消毒臭く感じるこの紅ショウガがないと始まらない。


 ついて来た割り箸を割り。


「いただきますっ!」


「っっ! ちょっと待てっ! なぁ、それは味見しないのか?」


 とレオさんが叫ぶ。


 え?? 俺はちょっと一口反対派だよ。そんなことする訳ねぇじゃん。


 しかも麺は伸びる前に食いきる派だ。


 早速スープをレンゲですくい飲む。

 

 あっさりした豚骨スープに仄かに香る魚介の風味。


 後味の残る優しいほのかな甘味。


 次に麺をすする。ズババババ。


 うめぇ~! ニンニク入れてぇ。


 この中太ちぢれ麺が良いんだよ! もっちりとした喉越し。


 近頃のラーメン店はどこもかしこもストレート麺にしやがって、細麺なんて食った気しねんだよ。


 ないからストレート麺食べるけども(*個人の感想ですのでほっといてあげて下さい)


「ノア君。音を立てて食べるのは、はしたないぞ」


「司書長。この食べ物はこのように音を立ててすするのが絶対のマナーです。それでは失礼して」


 麺をたぐってはすすり、すすってはたぐる。


 麺を半分近く食べてから、チャーハンをレンゲで口の中に含み、すかさずスープを口にいれ味のハーモニーを楽しむ。


 後は完食に向けて、チャーシューの上に盛られた。赤い辛味をスープに溶かして味変だ。


 具、麺、チャーハンをバランスよく食べ進め。


 フゥ~! ごっそさ~ん!


 そして、――俺はスープは残す派だっ!


 あれ、一番最後に食べ出したのに食べ終わってるの俺だけだ。


「そんな勢いで美味しそうに食べる物。あたしも食べたい」


 パオラさん食い意地が悪いぜ?


「どれも旨かったんだから今のも旨いんだろう? というか、うまそうに食いやがって!」


 レオさん大人気ないよ?


「もう一度錬金召喚しますか? でもあの量ですから、食べきれますかね?」


「「食べる!!」」二人の声が重なる。仲いいね。


「私はこの料理で満腹になる。ただ、どのような味なのか興味はある。量は少ししか食べられないが二人とも大丈夫か?」


「「はい。大丈夫です!!」」ホント仲いいね♡


 そういう事ならば。再びいでよ! 半チャンラーメン。麺カタ。


 チャーシューを三等分にして、小鉢に麺とスープを注ぎ。


 司書長へ一番柔らかくて美味しいそうなチャーシューを選んでのせる。


 二口分ほどのラーメンと同じく二口分ほどのチャーハン、横に紅ショウガ少々トッピングして、司書長に配膳する。


 量のわりにチャーシューが大きいのは忖度ではない。


 あとは、小さめの器に麺を半分移しスープを注ぎ入れる。


 チャーシューをのせて、皿にチャーハンを半分移しパオラさんへ配膳する。


 残ったラーメン丼ぶりとチャーハンをそのままレオさんに配膳した。


 全員への配膳が終わるのを待って、皆一斉に食べる。


 司書長のみ割箸だ。


 エルフはお箸の国の人でした。


 普段はナイフとフォークで食事をするが、儀式とかのときにお箸で貢場へお供えするそうだ。


 その為に箸の扱いに慣れている。


 小鉢や手に持てる器は左手で持って食べるように説明し、麺はすすれと説明したが、誰もすすれなかった。


 マナー意識が心のブレーキになってるのかな?


「食べた事のない不思議な味だな。スープが何で出来ているのか想像できない。この麺というものも初めて食べたが美味しいな。そして、チャーハン。ライスとは味付けでこんなにも趣が変わるのだな。どちらも素晴らしかった。ただ、すまないがあの真っ赤な欠片は口に合わなかった」


 スープまで完食した司書長が呟くように言った。


 司書長! 初めはみんなそう言うんです!


 そのうち無いと物足らなくなるんです!


 パオラさんとレオさんは完食に向け格闘中。


 夢中で食べてるんだ旨いんだろう。


 そして、今後の事がいくつか決まった。


 一つ! 毎日昼食は四人で会食。


 錬金召喚を使って俺が出せる様々な料理を試す事。


 二つ! 古代真聖語の習得日は週三日とし、司書長、パオラさん、レオさん達と研究所にいるエルフ数名も参加する。


 正確に表現するならば、日本語を教えることになる。


 それをベースに古代真聖語を読み解くといった感じかな。


 双方の準備が整い次第に可及的速やかに開始を要望された。


 三つ! 司書助手としての神聖語書籍化の免除と替わりに古代真聖語の解読を実施する。


 今行っている活動は現状の通り、あと二ヶ月は共通語の語彙を強化し、農業活動の活性と新規技能の習得を目指す事となった。

 

 その後ひと悶着が起こる。


 食事の料金として司書長より金貨一枚が提示された。


 つまり――日本円で10万円相当の10万ベル。


 俺は銀貨一枚でも多すぎると断ったが、間を取って銀貨五枚。


 ……5万ベルと決定された。

 

 司書長が支払うというので手を出し受け取ると金貨一枚が渡され、差額は手間賃だと押し切られた。


 この人の金銭感覚がおかしい。


 これ……まさか、毎日渡されんの? 俺の感覚までおかしくなりそうだ。


 あとでパオラさんに相談して知恵を借りよう。


 そうこうする内に何とか食べきったパオラさんとレオさん。


 パオラさん。プリンは親の仇みたいな顔で食べるもんじゃないんですよ。。。 


 それから司書長とレオさんと別れ畑へ向かった。


 隣にはパオラさん。


 さっきまではすごい勢いでチキンライスとラーメンとチャーハンと格闘し全部を食べきった。


 フードなファイターだ。


 細身なのにあの量がどこに入ったんだろう? こっそりベルトを緩めてたけど。


 俺は見ていない。見ていない。見ていないっ!!

 

「んっ! ぷっ! ゆっくり歩こうノアくん」


 女性が出してはいけない音が出たが気づかないふり。

 

 昨日ぶりに畑に着くと変化があったすでに5mくらいの間隔で巣箱が二ヶ木立に設置されている。


 そして、屋根付きの餌台が地面に打ち付けられた支柱の上に備え付けてある。


 おまけに中型犬の犬小屋サイズの三角屋根の箱が一つ、手のひらくらいの穴が何面かに開けられている。


 すっげ~! 仕事早いなパオラさん。 俺がやることが無い。


「パオラさんありがとうございます。もう出来上がって設置まで済んでるなんて驚きました」


 木立の日陰に新しく設置されたベンチへ腰を下ろし。


 口元をハンカチで押さえながらパオラさんは言った。


「昨日の許可取りの時にノアくんが具体的な設置場所と欲しい資材の図面を書いてくれたから、総務にお願いしておいたの。お礼なら直ぐに設置してくれた総務の方に言ってね」


 にっこりと微笑み俺は言う。


「それでもです。ありがとうございます。パオラさん」


 パオラさんは気にするなとばかりに雑に手を振った。


 このままちょっと休ませてやろう。 


 さてと、では早速聞いてみるか。


(鳥さんもう巣箱に入っていますか?)


(おっ! ダンナありがとうござんす。早速使わせてもらってやすよ。ダンナが来てから入ろうと思ったんでやすが、連れ合いが喜んじまって、へへへ、すいやせん)

 

(鳥さんが気に入ってくれたんならいいですよ)


(ダンナは恩人だぁ。もっと砕けた話し方でもいいですぜぇ)


(そうだね。おいおいね。)


 すると例の一団が両肩と頭の上に飛び乗って来た。


(ごはん?)


(ごはんの時間?)


(たぁべぇる)


(どこごはん)


(おなかすいた)


 昨日より気安いな。


 一羽しゃべる犬みたいなのが紛れてるんだが。


(スズピヨども餌台も出来たからそこでごはん出してあげるね!)


(ダンナ! ちょっと待ってくれ! その表六玉に名前付けたんですかい? それならあっしが先でやんしょう!)


(いやこれはただの愛称で名前じゃないよ。え? でも鳥さん名前欲しいの?)


(格のある鳥しか名前をもっちゃ~おりやせん。付けて貰えんなら是が非でもおねげ~しやす!)


 ジッと鳥をみる。


 シュッとした鳥だ。

 

 頭の後ろに向かって尖ったとさかが突き出していて、羽を広げて40cmぐらい。


 躰は角度によってエメラルドグリーンに光る光沢がある。


 ディープスカイブルーの羽色。


 羽の先だけ紺色で、尾羽も長くて立派だ。


 そうだな。これは思い付きで!


(鳥さん。ツンツクなんてどうかな?)


(へい! ツンツクですかい? ありがとうございます。あっしの名はツンツク! そう名乗らせていただきやす)


 その瞬間、ツンツクの躰がほんのりとひかり、ツンツクの存在感が増し、意思の疎通がより明確になった。


(ダンナなんだか力が湧いてきやした。飛び回りたい最高の気分でやす。我儘ついでによければ、連れ合いにも名前をつけちゃくれやせんか? 連れ合いにも最高の気分を分けてやりてぇ)


 そう言われて俺はもう一羽の鳥をみる。


 燦燦と照り付ける常夏の海を彷彿とさせる鮮緑色の躰にシルバーの光沢のある美しい羽色。


 頭の後ろに短くて白い広がったとさかがあり、ティアラを付けた上品な貴族を思わせる。


 この2羽って海色と空色の(つがい)なんだな。


(ん~そうだね。オナイギなんてどうかな?)


(ダンナさんありがとう。あたしの名はオナイギ。素敵なお名前ね)


 オナイギも控えめにお礼を言ってくれる。


 その瞬間やはりツンツクと同じように躰が輝き、存在感と意思の疎通が強くなるように感じた。


 ……なんだろね?


 日本の小鳥用の餌を錬金召喚し餌台に投入! 群がるスズピヨ達。


 そして――放置。


 あいつらはどうなってるかな?


 三角屋根の犬小屋もどきへ近づいた。

*この物語はフィクションです。

空想のものであり、現実社会とは一切関係がありません。

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[一言] まだここだけど、面白いやん^ - ^
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