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第13話  沈め

 明け方近く朝チュンで目を覚ます。


 椅子の背にもたれかかり気を失っていたようだ。首や体が痛い。


 ――のどもカラカラだ。


 目の前には、――ありますね。


 ――――金塊っ! どうやら錬金召喚には成功したらしい。


 ……出すと気を失うなら二度とやるまい。


 ……お金に困らない限り。キリッ!


 俺は金塊をアイテムボックスへしまい。水を飲んでからベットで少し眠る。


 おやすみなさい――。


 いつも通りレオさんと朝食をとり、今日は予定がないので、設置許可が出たら巣箱の設置と雨宿りの箱の準備とスズメっぽい奴らの餌台も設置するかな?


 そう思いながら軽い気持ちで、錬金召喚したら気を失った話をレオさんにしたら、血相を変えだし、めちゃめっちゃ怒られた。


 レオさんに怒られたのは初めてだが、気を失うのは魔力が枯渇した状態になったときで、そのまま死に至ることもあるそうだ。ひょえ~!


 もう二度とやるまい。


 ……お金に困らない限り。キリッ!


 何を出したかしつこく聞かれ、のらりくらり答えないでいると行動監視のため同部屋にするとの最終勧告されてゲロったよ。


 誰得だって話しだよね?


 むしろ――お互いに損みたいな?


 金の採掘と錬金召喚は国が管理していて、勝手に生み出すとお縄になるそうです。タラッ。


 人はあきれ果てるとあんな顔になるんですね。


 司書長への重大報告案件になりました。


 今日が本来は休みの安息日だ。


 でも、今日も今日とて、レオさんは大学院へ行くつもりだったが、8:30集合のもと一緒に司書長への面談という名の弾劾裁判に出席する。


 ――――被疑者は俺だ。


 集合時間10分前に玄関前に向かう。待っている2人の元へ行くと挨拶もそこそこに連行された。


 そして今に至る。目の前には昨日のシャキットの絵袋があり。


 取り調べ官はパオラさんだ。


「ノアくんは昨日『旅の途中で手にした』と言いましたが、これはどこで見かけましたか?」


「――昨日は誤魔化そうと嘘をつきました。すみません」


 そんなのバレバレなんだよというように、パオラさんは頷く。やっぱなかったな。俺の役者魂っ!


「ノアくんはこれが何か知っていますか?」

 

「えっ? えぇ。――種ですよね。書いてあるその写っ……絵の」


「っっ! あたしの見立てでは、これはアーティファクトだよ。それも古代真聖紀の非常に状態が良い」


「?? ……アーティファクト?? とは何ですか?」


 本当に初めて聞いた。なんだそれ? ――意味が想像できない。


「超古代に今には残っていない技術で作られた。創造物なの」


 超古代? この世界が未来の地球なんてオチないよな? ベタすぎるし、それは日本のものですが? 何か?


「そうなんですね。私には分かりませんが」


 記憶に御座いません攻撃発動だ。


「ノアくんは、これをまた錬金召喚することが出来ますか?」


「はい。というよりも、もう錬金召喚しています」


 そう言ってアイテムボックスから出す。


 昨日は野菜が出ないので、まぐれかな? ともう一度試した錬金召喚でシャキットを出しておいた。 


 息を呑むパオラさん。


「昨日は何故嘘をついて、誤魔化そうとしたんですか?」


 こちらからも意趣返しの術!


「予感がしたんです。取り上げられそうな!」


 おっと! 睨まれちまった。実際取り上げられたからね。


「種だと思った理由はなんですか?」


「そこに書いてありますよね? タネの〇キイって」


 場の空気が揺れた? ――なんだ? レオさんの目力が凄い。


 パオラさんは袋の後ろを見せる。 


「この文字が読めますか?」

 

 いい加減これ何の時間だ? と思いながら話す。

 

「読めますが? 何か?」


 その後、場は大いに荒れまくった。





 この世界の誰でも知っている話をしよう。まぁ。俺は知らなかったんだが、創世記から現代までの物語だ。


 1時間強の時間授業を受けたんだが、わかりやすいように手短にザックりいくぞ。


 創生神が世界を作り、他の神を生み出した。


 時がたち創生神は、自神への戒めとして、竜を生み出した。

 

 そして、10万年前に神は1柱も残らず上天して居なくなった。


 ここまでが、古代真聖紀と呼ばれる時代。


 この時、神は古代真聖語を天へと持ち帰り、古代真聖語が地上からほとんど消えた。


 ここからが神聖紀。


 ややこしいが、神の言葉と同じ名前にするのはおこがましいが、同じ呼び方には拘ったってことらしい。


 神以外の種族の時代。


 結構栄えたようだが、二万年前の神の鉄槌と呼ばれる光の矢で、街も文明もあらかた消失し、人口も大分減ったそうだ。


 ここで神聖紀と呼ばれる時代が終わり同時に神聖語の歴史も(つい)える。


 その後、全く文法の違う今の共通語が一般言語になった。


 そして、なんやかんやの栄枯盛衰を繰り返し、今に至る。

 

 二万年もあれば宇宙にも行けそうだけどね。


 ちなみに神の鉄槌で出来た場所が、俺が目を覚ました死の草原なんだそうだ。


 長々となんでこんな歴史を話したかって?


 大荒れの場の中で、司書長が冷静にその青緑の瞳を向け。


 分厚い本を手渡ししてきた。俺はそれを受け取り開く。


 なんだコレ? 読みづれぇな。


 禁霊薬制作手引書と書いてある。

 

 開くと目次の最後の項目に変若水をちみずの作り方って項目があるな。


 なんとなくそのページを開く。


 象形文字と漢字の中間みたいな、なんて言ったっけ、篆書(てんしょ)


 篆書体(てんしょたい)に似た漢字とひらがなで書かれていて、読めなくはないが読み解き辛い。


 いや。まったく読めない字も多いな。


 想像しながら推理して言葉をはめてゆく。


 変若水(をちみず)の作り方……誤読もあるだろうが、なんとかおおよそ読み解いた。


 読めない字もあるので前後の文脈から想像し、何とかアタリをつけた。


 作るのに使う素材で知っている材料がひとつもねぇ。それにしてもこれすごい効能だな。


「読めたのか? それは、古代真聖語だ。あなたは神の世界から来たのか?」


 はい? ――――古代真聖語ってなんですかね?


 チンプンカンプンな、なにも知らない俺にさっきの歴史の授業を丁寧にしてくれたのだ。


 現在は神の言葉である古代真聖語は、まったく読み解けない未知の言語となっている。


 エジプトのヒエログリフみたいなもんか?


 あれ? ――ヒエログリフは読み解かれたんだっけ? まぁ。どうでも良い話はともかく。


 俺は神聖語には、ずっと違和感を感じていた。


 なんでカタカナ表記で伝わってるのだろうと。

 

 会話は完璧な日本語なのに、なぜ漢字とひらがながないのか。口頭での会話と文字の激しい乖離。


 ミッシングリンクがあったなら納得だ。

 

 神と呼ばれるナニかが、下々の者にはカタカナしか教えなかったのかもしれない。


 まぁ。真相は解ける事は無いだろう。


 その後、俺は記憶に御座いません魔法を唱え続けて、知っている文字とは違うが、辛うじて読み解ける。


 けれど俺が古代真聖語を読める理由は分からないと押し通した。


 パオラさんは昨日の俺が、シャキットの絵袋の裏書を読んでいる様子をみて、もしかして、俺が古代真聖語を読めるのではと考えたようだ。


 実際には違う書体だが、古代真聖語の古文書は現存数が少なく。


 未発見の文字も無限にあると考えられている。


 そのために、ニュアンスが似ている漢字とひらがなからシャキットの絵袋をアーティファクトと判断したのだ。


 こうして世界にただ一人の古代真聖語の権威となった俺は、研究所の司書長へ古代真聖語を教える教師の立場を手に入れた。


 付いた肩書は共同研究者だ。


 一気に出世だ。ハッハッハ!


 収まりがついたところで、レオさんから俺の行った金の錬金召喚の話になり。

 

 今更感たっぷりに弾劾裁判開始!

 

 見せてみろの掛け声で、金塊を出したら、その大きさにまた場は大荒れだった。


 レオさんが呆れて言う。


「一般的な錬金術師が、自身の魔力だけで金を錬金召喚した場合。金貨1枚分になるか、ならないかだ。ノア! 初めての金の錬金召喚で、こんな量出すなんて自殺行為だぞ! よく気絶だけですんだな」


「ノアくんっ! あたし怒ってるんだからねっ! そんな危ないことしてっ! 反省しなさいっ!」


「他にもなんか隠してるんじゃないか? 昨日のあの匂いはなんだ? ん? なんとか言えノア!」

 

 別件追及まで始まった。別件逮捕と自白教唆は違法行為ですよ?


 おいおい。よく考えろ、俺はお前らの先生の先生。


 つまり――大先生だぞ!


 よしっ! ――ここはひとつ!

 

 ガツンとっ!



 ――――下手に出る。


「今回の件は大変反省しております。平に! 平に! ご容赦を」


 ははぁ~とばかりに頭を下げる。


 集中砲火で俺がもうすぐお縄というところで、司書長より鶴の一声。


「わたしから王へ一筆したためておこう。研究所の研究費への寄付という形で収めるか。根回しはしておく。ノア君。次は無いぞ」


「はい。ありがたき幸せ」イェス! マム!


 いやぁ~。色々察しているようだが、見逃してくれたみたいだな。この場合より正確に表すなら泳がすか?

 

 今後の事もあるし、賄賂を――いやいや。お礼の品を送ろう。


「私の為に長時間ありがとうございます。お茶請けは用意します。お茶の時間にしませんか?」


 俺はアイテムボックスからトレーと皿を4枚取り出すとアレを錬金召喚した。


 失敗したらかっこ悪いなと思いながら、錬金召喚を開始する。


 覚悟はいいか? ――抗いきれない。美味しさという暴力に沈められて溺れろっ!


 いでよっ!



 ――――いちごのショートケーキっ!


 ”シェ”な某有名店の馨しい甘い香りが辺りに広がる。


 白い衣を纏った赤い帽子の貴婦人。長方形なフォルムの憎いヤツ。


 俺はニヤリと微笑むと言った。


「これがこの間ご一緒したカフェで話しをしたケーキですパオラさん」


 以前の立ち寄ったカフェで話しに出たケーキを召喚した。


 スィーツという魅惑の深い沼へと(いざな)い落す!


 この沼は広くて深いぞ? 逃れられまい?

*この物語はフィクションです。

空想のものであり、現実社会とは一切関係がありません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 現代レベルの文明が過去にあったのなら退化したってことよね。普通は進化するんだけど
2021/02/11 16:15 退会済み
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