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第3話-2  東方Ⅱ

 ジョシュアは月に一度の取引の為に森の最奥へと来ている。五歳になったばかりの息子も一緒だ。


「村長。――言われていた物を持って来た。確かめてくれ」


 ジョシュアはそう言って大きな袋を差し出す。


「人間。――すまないな。こちらも交換用にいつものを準備してある。確認してくれ」


 そう言うのはホブゴブリンの村長だ。広大な森の中でゴブリンと共にひっそりと暮らしている。


 狩人を生業としたジョシュアは森の狩りの途中でこの村を発見し、以降交流を深めている。



 ――かつて受けた命の恩を返す為に。


 野生動物の多いこの森は肉や薬草は沢山手に入る。だが、塩や布。道具が不足している。それらを毎月持ち込んでいるのだ。


「今日は息子を連れて来た。自慢の子だ。シルビィー。自己紹介をしなさい」


 その声を受けて少年が前に進みでる。


「初めましてシルビニオンと言います。日頃より父がお世話になりありがとうございます。今後は私も含め宜しくお願い致します」


 それは流暢な神聖語だった。


「宜しくな。子供よ。私の名前は人間には発音しづらい。村長と呼んでくれ」


「分かりました。村長さん」


 少年。シルビニオンはペコリと頭を下げて後ろへ下がった。


「人間。――この頃、森が騒がしい。何かの前触れでなければ良いが。お前も気を付けろよ」


「そうなのか? 何かあれば教えてくれ。手伝いたい」


「その気持ちだけで十分だ。もうお前の恩は返せたはずだ。この村も助かっているよ。何かあれば家族を守れ」


 村長はそう言うとジョシュアの肩の横を叩いた。


 村長との一触即発の緊迫の出会いから四年。信頼の絆はしっかりと結ばれた。


 村長に誘われてお茶を頂いていると、体長1mほどのゴブリンが集まって来る。そして、くりくりの円らな瞳で可愛く挨拶をした。


「いらっしゃい。人間。いつもありがとな」


 ジョシュアは笑みを浮かべてシルビニオンへと話かける。


「シルビィー。あれを配ってあげなさい」


 シルビニオンは立ち上がると瓶を取り出した。


「初めましてシルビニオンと言います。いつも父がお世話になっております。その感謝の気持ちです。良ければ受け取って下さい」


 そう言って飴を配り出す。


 目をキラキラさせて受け取ったゴブリンは全員に行き渡るのを待って一斉に口に含むと声を揃えた。


『『『甘ぁ~い!』』』


 村の時間は穏やかに流れる。――暫しの平穏を。



§



 ――――二週間前


 その森に一番初めに辿り着いたのは騎獣を駆る。エレオノーラだった。


 満月が光で切り取る、樹もまばらな外縁で、あの黒い箱を取り出す。


 ここは神獣の森。彼女が指示された任務の地だ。


 そして――ゆっくりとそれを開く。飛び立つは鈍色の真っ黒な蝶。表面を虹色に(ぬめ)らせる。


 ひらひらと舞う蝶は月光の中、ゆっくりと奥へと飛んで行く。それを見届けると箱をそっと樹の(うろ)に隠した。


 そして、彼女は艶やかに笑う。血でも塗ったかのように赤い唇が月明かりを受け闇夜に浮かび上がる。


 ――するとエレオノーラは振り返り。(おもむろ)に上空へ魔法を放った。


 撃ち落としたのは『追跡くん』木の葉のようにユラユラと舞い地面へと落ちた。


 エレオノーラがその存在に気付いたのは偶然だった。


 満月の夜に動かない黒い点を見つけた。望遠鏡で覗いて見るとどうやら魔道具らしい。


 だからそれは、何かに気付いた何者かが、自分に付けた物だと考えた。彼女はそんな事をやりかねない人物を一人だけ知っていた。


 その者が来るかどうかは分からないが、この場所を印象付ける為にここまで放置していたのだ。


 そして、ノアが追い付くより早く彼女の任務は完了した。


 青藤(アメジスト)の瞳を持つ帝国の特別な工作員はひっそりと舞台を降りる。この後の結果は彼女の領分ではない。

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