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第18話  凍結

 ――――シュイーン。


 四台の小型ドローンが散開して、取り残された市民を探す。


 一台からの一報を受けて、トラが現場に到着すると、そこには、瓦礫に押しつぶされて動けない数名の市民がいた。


 シクシクと泣く子供の声と励ます親の声がくぐもって聞こえてきた。


 その市民を千手はしっかりと、瓦礫の過重から守っている。


「皆様。このような見た目ですが、怪しい者ではありません。今瓦礫の除去を致します。少々お待ちください」


 外部スピーカーでそう伝えるとトラは、フロントローダーの本来の機能。


 バケットを使って、瓦礫の除去を始める。


 トラの四方を捉える八つのカメラに新たなモンスターが映し出される。


「一時作業を中断し、モンスターを排除します。恐縮ですが、そのまま、お待ちください」


 トラは反転すると唸りを上げて、最大加速で体当たりを実行する。



§



 見つけたモンスターを片っ端から、切り倒し進むオリヴェルは、思考する。


(さっき、風颶鳥を見かけた。――まさか、五〇〇年振りに、テイマーが現れたっていうのか? それに、あの発光現象は、……精霊? それこそ、まさかだ)


 エルフは、人間の領域に手を貸さない。


 子供でも知っている、世界の常識だ。


(――何が起きているのかね? 俺の頭じゃ分からんし、やることをやるまでよ)


 敵を探し縦横無尽に突き進むオリヴェルの前に、見た事もない物が現れる。


 それは、白い光の板を身に纏い、モンスターへと突貫する。


 そして、それらを煙に変えるとドリフトで急旋回すると、瓦礫が折り重なった場所へと戻って行く。


 オリヴェルは思わず呟く。


「なんだ? ……ありゃ?」


 剣を構え警戒しながら、オリヴェルはそれに近づく。


 白金の体と大小不揃いな大きさの丸いタイヤ。



 ――――シュイーン。


「要救助者発見」


 オリヴェルには伝わらない日本語で、ドローンが音声を発する。


 外部スピーカーからトラが、オリヴェルへ確認する。


「救助が必要ですか? シェルターの場所が分かりますか? お手伝い出来る事はありますか?」


「……なんだぁ? ありゃ?」


 オリヴェルは二度目の呟きを、思わず口にした。


 その間もトラは、せっせと瓦礫をどかし、市民が外へ出て来た。


 それを目の当たりにして、オリヴェルは思う。


(変ちくりんだが、味方のようだな。……とんでもで、妙ちくりんだが)


「――お前は何者だ?」


 オリヴェルは、簡潔にそう問う。


「このような、見た目ですが怪しい者ではありません」


 その言葉は、怪しさ全開で、突っ込みどころ満載だ。


 その後、トラが伝えた、何者かを示す、日本語の品名、品番、愛称のウッドは全く伝わらない。


 唯一伝わったのは、ノアからの指示で救助を行っていること。


「ノアっていう、兄ちゃんの関係者か?」


「はい。ノアさんが、私の所有者です」


「そうかい。なら身内だな。宜しく頼むよ。その白い板はあんたが出しているのかい?」


「いいえ、違います。――秘匿事項に抵触します。発言を控えます」


「あっ! いいんだよ。気にすんな。変な事聞いて悪かったな」


 オリヴェルは、面識のないノアを良く知る。


(兄貴の弟子なら、俺の弟分だよな?)


 オリヴェルは、絶界バルサタールの唯一の舎弟だ。


 ――思想の違いで、過去に袂を分かったが。


 古い糸は、確実に綻ばず、その胸にまだある。


(変な奴だとは、叔父貴に聞いていたが、想像以上のようだな)


 兄貴分のバルサタールと五分の兄弟。ギルド長マティアスが叔父貴だ。


 人並み外れた兄貴分を思い出し、懐かしく笑う。


 そして、ノアと会う事を楽しみに笑う。


 底抜けに明るく、タガ無しに優しい。


 慈愛の護傘(ごさん)。人民をその手で守る優しく大きな傘だ。


 すると、上空にヒョウ頭の生首、ペナンガランが唸り声を轟かせながら、大挙して集まって来た。


 オリヴェルは、空気を蹴り上空まで飛び上がると、その剣を一閃した。


 その剣域は20m。――傘のように広がった一撃で、ペナンガランは霧散した。


 傷顔(スカーフェイス)のオリヴェル。――その笑顔は、暗闇を吹き飛ばす。





『監視者不在。――制御管理室へ転移しますか?』


 そのアナウンスを聞いて、俺は一瞬逡巡する。


 だが、たまにしか働かない、聖魔法『直観』が行けと報せる。


 そうだな。――これが、このスタンピードを治める最善手だろう。


 俺は、気合を込めて転移の柱に触る。


 これを、門と呼ぶのは俺の感性に抵抗を感じるんだよね。いつもの転移の感覚とともに、移動を果たした。


 転移した場所は、真っ白なだだっ広い空間だった。


 ……はて? 管理室へ転移じゃないの? それとも、ここが管理室?


 状況認識の為に辺りを見回す俺の目の前で動きがあった。


 幻想的に黒い光が集まり大きな人型の影を作る。


 何だろうと見ていると、その影に色が付きモンスターが現れた。


 体長3m。真っ赤な体に一本角の生えた鬼だ。


 ご丁寧に見慣れた金棒を持っているぜ。


 俺がモンスターがポップするところ初めて見たなと、どうでも良い感慨に浸っていると、その鬼が唸り声を上げて襲い掛かってきた。


 俺は楯と槍を準備する。


 ――って! 出ない。えっ? アイテムボックスが反応しない。


 なんでだよっ! と調べると。


 『現在凍結中』の文字が、……あんなヤバそうな鬼が出てきているのに、何んで勝手にストライキ始めてんだよっ! クソがっっ!


 俺は、金棒の一撃を躱し、右ローを蹴り込む。


 ダンジョンで試したが、人型のモンスターは筋肉の付き方や構造が人間に酷似する。


 その為、対人の武闘が有効なのだ。


 しかも、人間のように足を上げて、蹴りをカットしたりはしないので、的確にダメージを蓄積できる。


 アイテムボックスに入れていなかった、手持ちの武器はナイフ二丁。


 俺は、それを逆手で両手に構える。


 ――全く面倒な事だよ。


 拳の打撃とナイフの切り付けを用いて、優勢に戦闘をコントロールする。


 相手は、力任せの金棒一本だから、楽なもんだ。


 ダメージを蓄積させつつ、完封目前の俺に、『直観』魔法が兆しを示す。


 誘われるように、視線を送ると、壁に剣が飾られている。


 ……さっきまでは無かった筈だが。。。


 剣かぁ。あまり得意ではないんだよね。


 だが、ナイフだけより、剣があった方が、戦いの幅は出せるかな。


 貧乏性な俺は、壁の剣を手に入れる事を決める。


 最後の一撃で鬼を倒すと。


 ――――リリン♪


 おっっふぅ~。お腹いっぱいです。これは、嵌められたかな?


 今はツイストバンクルも確認できない。


 やだな、変な機能が追加されたら。


 気持ちを切り替えて俺は、壁の剣を手にして抜いてみる。


 なるほど、業物だ。


 ミスリル製? なんか、違うな、アダマンティンっぽい。


 アダマンティンは、古代真聖紀には製造されていた、丈夫な金属で、魔法との相性もよい。そして、俺のツイストバンクルもその素材で出来ている。


 アノアディス大師に、神器を見せてもらってなかったら、未知の謎金属で終わっていたね。


 俺のナイフより、上等な品だ。せっかくなので、それを腰に下げた。


 すると、また始まる黒い光の集合体。


 そうですか、続きますか。まぁ。そうでしょうね。


 何体か倒したら、ボス的な何かが出てくるんでしょう?


 えぇ。えぇ。分かっています。


 ラスボスは、俺のコピーかなんかなんでしょう?


 己の限界を超えて行け的な? はいはい。お付き合いしますよ。


~~~


 倒しても新たに現れるモンスター。


 そのたびに鳴る鈴の音。


 こんなに立て続けに鳴るのも初めてだ。


 げんなりしながらも俺は、この試練だか、管理室への道を守るガーディアンとの戦闘だかをこなしてゆく。


 さすがに、アダマンティン製の剣は優秀だ。


 モンスターをサクサク切れる。


 何故こんなに優秀なアイテムを、わざわざ侵略者へ渡すのか? 若干の疑いとこれ自体が地雷ではないかと怖さを感じる。


 だが、『直観』はそれが、正しい方法だと告げている。


 大丈夫かな? 俺が作り出した魔法? 俺の周りでは、よくとんでも案件が発生するからな。


 誤作動の可能性も、……50%は加味しておこう。


 リリン。リリンうるさい鈴の音にうんざりしながら、四体のモンスターを倒した。


 すると――剣を佩いた人型らしき影が現れた。


 はい。はい。来ましたね。定番のど真ん中! テンプレ中のテンプレ!


 そうそう。そういう展開を一度やってみたかった。


 今の俺を超えれば勝てるやつ。――伸び代で上回るやつだ。


 みんな大好きな! 週刊で少年なヤツだよ!


 ――ん? 何か一回り小さいな? 今の俺は190cmあるからな。


 現れたモンスター? 人物を見て絶句する。


「――うそだろっ!」


 思わず声が出た。


 現れたのは、師匠のおっさん。


 見慣れた格好で、相棒の剣を()き悠然と立っていた。


 俺が知る中で武力の最高峰。それを見て笑う。


 日々目指した頂が、目の前に現れた。


 今の自分と戦う? ちゃんちゃら可笑しい。


 本物じゃない師匠のおっさんごとき、サクッと倒してしまわないとね。


 王都を出て四年半の研鑽が試される時だ。


 対おっさん用の道具が、使えないのは痛いが。


 それに、できれば、(じょう)を使いたかったがな。


 泣き事を言っても仕方がない。


 今の俺の力をぶつけてやる。


 身体強化を使わないおっさんなら、瞬殺だぜ?


 ――俺はその甘い考えを後悔する。


~~~


 何度飛ばされたか分からない。


 倒れている俺に、おっさんは容赦なく切りかかる。


 俺はそれをブーツで受けて、なんとか躱し体勢を整える。


 とんでもない。変態な剣だ。


 俺もよくこんなに長時間死なずに持ったもんだ。


 対戦するおっさんは、今の俺が訓練で、想定している技量を持ち合わせている。


 対戦相(シャドウ)手として、想像しているから何とか躱せていが、それだけだ。


 結局、俺の剣は、おっさんの劣化コピーでしかない。


 剣は通じず、格闘はいなされる。


 体中切り刻まれて、防具はボロボロ。


 俺の高い耐久がなければ、もう立つことも出来ないほどだ。


 絶えず発動している、治癒の光魔法が、それを助ける。


 せめて、(じょう)があれば、もう少しましに戦えるのにな。


 俺の剣が通じないのは理解した。


 剣を鞘におさめ、格闘で戦ったほうが、一縷の望みがつながるか?


 蹴りには剣を合わされ、パンツもズタボロだ。


 ――俺は、笑う。


 死ぬまであがけ。そう決めただろ?


 頭をフル回転させる。


 その間もおっさんは攻撃をしてくる。


 それを躱して、熱湯を出現させて目潰しにする。


 おっさんは、それで間合いを外した。


 剣は師匠のおっさんに教わったが、俺の武の師匠はじーさまだ。


 俺にはじーさまから教わった剣術が一つだけあった。


 事ここに至り、戯れに、だが真剣に訓練したその技術をモヤが晴れるように思い出した。


 だが、この剣じゃあな。


 そう思うと、――剣が光り出す。


 そして、形を変えて現れたのは太刀だった。


 鞘は朱色へと変わり先端の(こじり)には美しい装飾が施されている。


 それを見て俺は意を決する。


 納刀すると、腰だめに構える。


 格好が良いからと散々練習した居合の構えだ。


 この世界では初めてだが。。。


 俺は何も、ズタボロになるまでサンドバッグだったわけじゃない。


 こんな成りになるまで、生き延びられたのは、目の前のこいつが、師匠のおっさんじゃないからだ。


 おっさんだったら、(たま)取られていただろうね。


 だから、こいつはおっさんに似た人形だ。


 戦いながらの実験で分かったが、こいつは初見の攻撃を見極める癖がある。


 初めての攻撃には、ほんの半拍の間があるのだ。


 その一筋の光に賭けよう。


 ジリジリとにじり寄る、今から仕掛ける居合は初見だ。


 俺が居合いを抜く瞬間、そいつは、後ろに飛びのく。


 だが、それを邪魔するように、俺が生み出した魔法の壁がある。


 それを、こいつは剣で切り崩す。


 知っているよ。あんたの剣が変態なのは、それは想定済みだ。


 それで、一手使わせた。


 俺の抜刀が迫る。


 間合いを外そうとする、こいつの背後に炎魔法を発動させる。


 こいつは、それを避ける為に踏み込み、俺の剣を受け、返す刃で上段から切りかかって来た。


 俺は、体をさばいて、それを躱し、太刀で突き。――そのまま手を放した。


 突きの速度で太刀は飛びそいつに向かう。


 それをこいつは弾き飛ばした。


 回りながら、はね上がる太刀、これでもう一手。


 ――俺は更に踏み込む。


 蹴りと拳打は見せたが、まだ見せていない初見がある。


 俺は、振り下ろされる剣を肩で受ける。


 防具がはじけ飛び、鎖骨は折れ、肩に食い込む。


 だが、剣の根元だ。威力は殺せた。


 歯を食いしばり俺は、更に半歩踏み込みこいつに組みつく。


 そして、――まだ、見せていない投げ技を仕掛けた。


 ロシアン・レッグ・スウィープ。


 浴びせ倒し気味の、河津落としを。


 倒れる地面には炎の絨毯。


 それと同時に、顔面に熱湯をブチかます。


 どちらも俺にもダメージが入るが、覚悟の上だ。


 これは、この変態剣士への目くらましに過ぎない。


 俺が生み出した、しょぼい聖魔法『直観』は、失せ物探しや、良い兆しを知らせる程度の効果だが、極まれに良い仕事をする。


 俺の『直観』は、近未来視にも、似た勝利への光の糸を紡ぐ。


 体格と力では勝る俺が、無理やり抑え込んで稼いだ秒。



 ――ヒュルン。


 太刀が俺の耳を横に断ち切り、そのまま、こいつの喉を切り裂いた。


 その一撃でそいつは黒煙へと変わり、俺は、地面へ突っ伏した。――――リリン♪


 『直観』が見せたのは、俺が放った太刀が、回転して地面に突き刺さる未来とその場所だ。


 後は無理やりその場所へこいつを引きずり倒せばよい。自身の首を切っていたかもしれない程の賭けだ。


 その細い糸を繋いで、やっと得た勝利だ。


 予備のアイテムボックスから、霊薬を取り出してあおる。


 戦闘中はそんな時間すら無かった。


 ボロボロのブーツを脱ぎ捨てて、出口へ急ぐ。


 こんな、アホみたいなボスを用意する奴が、出口を締めない保証はない。


 身綺麗にするのも忘れて、俺はそこへと急いだ。



§



 白亜の空間に色とりどりの花で出来た椅子に座り、その闘いを見つめる者がいる。


「――これだから、地球人は面白いね」


 その呟きは、静寂に飲まれた。

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